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六三 マヨイガ 1/2

今日は長いです

 小国おぐに(遠野の町から北東の方角、早池峰よりも北、宮古市ですが現在の国道340号線が通るなど繋がりが深かったのでしょう)の三浦という人(および家)は村一番のお金持ちさんです。


 今(明治)から2,3代前の当主は、まだ家は貧しくて、妻は少し魯鈍ろどん(愚かで鈍いこと)でした。

 この妻がある日、かど(家の囲いの出入り口)の前を流れる小さい川に沿ってふき(キク科フキ属、春の代表的な山菜です)を採りに入ると、良い物が少なかったので次第に谷の奥深くに行きました。

 さてふと見れば立派な黒い門の家がありました。

 不審に思いましたが門を入って中を見ると、そこは大きな庭で紅と白の花が一面に咲き鶏が多く遊んでいました。

 その庭を裏の方へ回れば、牛小屋があって牛が多くいて、馬舎うまやがあって馬も多くいましたが、一向に人はいませんでした。

 ついに玄関から上がると、その次の間には朱と黒の食器がたくさん取り出されていました。

 奥の座敷には火鉢があって鉄瓶のお湯が沸き立っていたのを見ました。

 されどもついに人影は無く、もしや山男の家ではないかと急に恐ろしくなり、駆け出して家に帰りました。


 この事を人に語っても現実と思う人はいませんでしたが、ある日彼女の家のカド(川に面した門で、川岸に水を汲み物を洗うためのものです)に出て物を洗っていると、川上から赤いお椀が1つ流れてきました。

 とても美しかったので拾いましたが、これを食器に用いたら汚いと人に叱られないかと思い、ケセネギツ(ケセネは米やひえなどの穀物、ネギツはそれを入れる箱です)の中に置いてケセネを量る器にしました。

 しかしこの器で量り始めてから、いつまで経ってもケセネが尽きませんでした。

 家の者もこれを怪しんで女に問うと、女は初めて川から拾い上げた話を語りました。

 この家はこれから幸運になり、ついに今の三浦家になりました。


 遠野では山中の不思議な家をマヨイガといいます。

 マヨイガに辿り着いた者は、必ずその家の中の什器じゅうきをなんでもいいので持ち出すのです。

 その人に授けるためにかの家は姿を見せます。

 女が無欲で何も物を盗まなかったので、このお椀は自ら流れてきたのだと言えます。

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