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初めは短編のつもりでした。そんなには長くならない予定です。

割と気の向くままに書いたものになっております。ご注意を。

 ノーテル孤児院。それは、私の育った場所。町の外れにあり、貧しいながらも、とても優しい神父と綺麗なシスターに囲まれ、幸せな日々を送っていた。

 

 私が7歳の頃、ほんとにお金が無く、その辺の草をスープにして飲んでた時期があった。とても食べられたような味ではなかったはずなのだけれど、シスターが工夫し、みんなで一緒に苦い苦いと言い合いながら、ワイワイ食べたからか、とても美味しかった。

 13歳の頃は、2個上のロロナが私の為に服をくれた。お古ではあったが、別の布と合わせて可愛くアレンジしてくれていた。とても嬉しかった。

 神父様は、いつも正しいことを教えてくれる。みんな仲良く、人には親切に、自分がやられて嫌なことは人にもやってはいけない……人間関係ばっかりじゃないか。

 考えれば考える程、楽しい思い出は洪水のように溢れ出す。

 

 それなのに、幸せは終わってしまった。孤児院は燃えてしまった。神父様は殺された。シスターは大人たちに連れられていった。その後どうなったかは知らない。一緒に暮らしていたアンは、トロイは、ヤポは、ディダは、ローシュは、アンクは、ラムは、ロロナは、イリアは、みーんな炎に包まれて苦しみながら息途絶えた。

 

 私だってそのはずだった。確かに燃えてドロドロになったはずの体は、火が消える頃にはすっかり治っていた。自分の手から、体中から、何か温かいものが湧いて来るのを感じた。これは、私自身がやったことだ。しかし、何が起きたかを理解するのには、時間を要した。焼け崩れた孤児院の中から這い上がり、何も感じず、考えず、その足で、ここにはもう居ないみんなを追い求めるかのように、暫くは当てもなく歩いた。何日も何も食べていないのに、空腹は感じても、体に支障はない。よく考えずとも、不思議なことなのに、その時はなんの疑問も抱かないまま、ただ亡霊のように彷徨い続けた。


 何週間と正気を失っていたが、ようやく落ち着く日が訪れた。いや、落ち着いてなどはいない。目から涙が流れて止まないのだ。それでも頭は冴えてくる。過去のことは考えないよう、意識して今の自分を鑑みる。


(なんなんだ、私の体は……?決して死なない、死なせやしないこの力。思い当たることが一つある。小さい頃、シスターが読んでくれた、「救世の聖女」だ。どんな重篤でもたちまち癒してしまい、世界を救う程の力を持つ彼女の様子に、幼心は弾んだ。

 しかし、今は皮肉でしかない。大切な人誰一人救えなかった私が……この世を救う?馬鹿じゃないのか?助けてやる義理もない。

 いや、むしろ憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い……、ぶっ壊してやりたい。)


 周りを見渡すと、見たことのないおどろおどろしい木々が生え、見渡す限りの荒野が広がっている。遠くには、魔物の姿が見える。もっとも、こちらから見えるという事は、向こうからも見えているのだ。どうするべきか考えていると、魔物がこちらへ向かってきた。

 以前の私であれば、怯えて逃げ出すしか選択肢はなかったであろう。しかし、今は違う。「救世の聖女」の力がある。これは、何も治癒をするだけではない。魔を祓う唯一無二の力なのだ。やり方は知っている。シスターが本を何回も読んで教えてくれた。


(ありがとう……)


 両手を祈るように組み、頭の中で強く念じる。自分の中で、光が溢れ出るような感覚がした。対象を定め、呟く。


「神の御名よ《クライスト》」


 私に襲いかかってきた魔物はたちまち光に呑まれて消え失せた。その様子に笑いが込み上がる。


(私は呪う。人間を、その創造者たる神を。それなのに神には好かれているだと……、何という皮肉!!私の一体どこが良いというのだ!フフフッハハハハハァァァ!)


 ひとしきり笑うと、憎悪が身体中から溢れる。


「ふざけるな!お前は私から何もかもを奪い去ったのだ!今更与えるなど遅すぎる!!私が泣いて喜ぶとでも思ったいたのか?フッ、いや、感謝はしているよ。この力が私にあるおかげであの糞どもは自分たちを助けてくれる聖女様なぞいないのだからな。……このままても勝手に滅んでくれるかもしれない。だが、そんな事は赦さない。私自らの手で奴らにこの上ない苦痛と絶望を与えてやろう。大事な人間どもが、壊れていく様を指を咥えて特等席で見ているのだな!アッハハハハハ!」


 ここは魔族の地だ。風景からそう判断した。まずは、魔王の住まうとされる城へ向かおう。協力を仰ぐのだ。場所は知らないが、とにかく前へと歩き出す。聖女の願いを叶えるために……。

読んで頂きありがとうございます!

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