あなたの罪を許します(10)
次の日になってもソフィアは目を覚まさなかった。あのあとにすぐに教会へと運んだがいままでの疲れもあったのか熱も上がった。
彼女の体調が崩れたのは悪い知らせでこそあったが同時に幸いでもあった。朝一番に聞こえてきたニュースをソフィアが聞いていたら今度こそ危険を顧みずに法廷へと向かっただろう。
『明朝、クロエを含む昨夜の暴動関係者の処刑執行』
そんな知らせが広場にて大きく掲示されていた。
「確実に僕たちをおびき出すための罠でしょうね」
相も変わらず気配を感じさせずにドミニクは現れた。
「俺たちだって?『お前をおびき出すための』の間違いだろ?」
カマをかけたつもりだったがドミニクは動じず、ただ愛想笑いを浮かべている。
「あの時、お前はこうなること知ってたろ?だからこそ敵前逃亡に迷いが無かった。むしろ、こうなるようにわざわざ召喚魔法を見せつけたんだろうが。なあ、ベネディクト?」
「そこまで露骨でしたか?」
ボロボロと道化師じみたドミニクの表情は乾いた土のように剥がれていった。召喚魔法の使い手ならば錬成魔法を用いて仮初の顔を作ることなど容易いのだろう。
「召喚魔法の使い手っていうのはただでさえ数が限られているのに、そこにケレスとの因縁があるって言えばお前しかいないだろう。それに当の本人に隠すつもりがないってんだから、バレて当然だ」
正体を隠すつもりだったらこんなにあっさり認めて素顔を出さないだろうし、そもそも昨日召喚魔法なんて使わない。
「昨日は実力を出し惜しみして切り抜けられる状況じゃなかっただけですよ」
「冗談はよせよ。七大英雄の一角であるお前なら俺たちを離脱させるだけだったら他にも手があっただろう」
「買い被り過ぎです。それに僕は七大英雄なんて大それた男じゃありません。全てを放り投げて逃げ出した世捨て人に過ぎません」
「世捨て人だろうがなんだろうがこの際構わない。俺の仲間を助け出すのに協力してくれ」
「それは無理ですよ。僕はもうこの街から去ろうとしているのですから」
「は?」
「僕にはケレスを止める資格など、無いのですから。僕の過ちでケレスの姉、そして僕の妻であるフローラはその命を奪われたのです。ケレスは私のような過ちを犯さぬように責務を全うしているだけなのです」
「ケレスが過ちを犯さないようにだと?正当防衛で誤って人を殺めたクロエや、現状に納得できずに行動を起こした住民を情状酌量の余地なく処刑するっていうのが正しいことだと?」
「情状酌量など、その考えこそが傲慢だったのです。罪もいつかは赦されるなどと、その考えこそが妻を殺したのです」
その目は憎しみに満ちながらも、しかしその相手を見失っているかのように深い絶望に染まっているかのようだった。
「良いでしょう。ここが教会だと言うのなら、懺悔をするには相応しい場所なのかもしれません」
ベネディクトは近くにあった椅子に腰かけた。




