あなたの罪を許します(9)
クロエと言う女性はあの孤児院で誰からも愛される存在だったそうだ。見目麗しく、引き取り手は多々いたそうだが、その話を全て他の子どもに譲っていたそうだ。
「他人が先に幸せにならないと、何だか居心地が悪いって。そんなことを笑いながら言い切ってしまうような優しい人だった。」
クロエのことを話しているときだけ、強張っていたソフィアの顔は緩み、どこか誇らしげであった。しかしそんな表情など、雲間からのぞく日の光のようなものでまた思い出したように曇り始める。
「教会の神父さんも頑張ってくれてさ、少しずつみんな引き取り手が決まっていったんだ。でもあたしだけは全然、決まらなくて。そりゃそうだよな。愛想もなければ丸顔で髪だってボサボサで。誰もこんな子欲しくないんだ」
「そんなことはない。君の小さなその体には無限の可能性が詰まっているんだ。俺にはわかる」
「変態」
元気づけるため、昔読んだことがある物語からの引用だったがタイミングがわるかったか。あるいは語り手の問題かもしれないが。
「女性の場合は若いほうが喜ばれる。将来は結婚相手にもできるから。時間が経てばたつほど、もう引き取り手はいなくなる。だから私はこのまま誰にも引き取られずに教会の仕事を手伝おうって考えてたんだ」
まるで女性をもののように考えるこの価値観は貴族や富豪がいる都市ゆえのものだろう。俺の住んでいた田舎では女性も男性も仲間であり、お互いに尊重されていた。
「そんなとき、クロエお姉ちゃんが嬉しそうに私に言ってきたんだ。『私たち、本当の家族になりましょう』って。ちょうど姉妹で孤児を探している貴族の人がいて、クロエお姉ちゃんが私のことを妹だって紹介してくれたんだと教えてくれた。その時のお姉ちゃんは本当に嬉しそうに抱きしめてくれた」
そう話すときにはソフィアの頬には涙が伝っていた。これこそが悪夢の始まりだと、その涙が言っている。クロエたちのことを引き取ったその貴族はお世辞にも整っていると言えるような容姿ではなく、性格もそれに相応しい男だったという。妻も子供もいたが、夫婦仲が良好とは言い難かったそうだ。
「お姉ちゃんは、その男のお気に入りで私はほったらかしだった。すぐにわかった。その男が欲しかったのはお姉ちゃんだけだった。お姉ちゃんは私もついていくことを引き取りの条件にしたんだ」
その手は悔しさに硬く握られ、ワナワナと震えていた。
「けど、お姉ちゃんは笑ってた。「あなたがいてくれて本当に幸せ」って言ってくれたんだ」
教会への貢ぎ物の数や量で相手への態度を変える聖職者よりもよっぽど聖人のような女性だ。どうか報われて欲しいと他人ながら願ってしまう。しかしわかっている。この女性はもうじき処刑される運命にある。その理由はここまで聞けば想像に難くない。
「夜になるとお姉ちゃんはあいつによく呼び出されていた。ついて来てはダメだと言われてたんだ。けど私はお姉ちゃんが心配になってついていってしまった。そこではお姉ちゃんはあいつに衣服を」
その先は言葉にならなかったのだろう。どのような行為なのかは理解できていないだろうし、一つひとつ口述するいはあまりにおぞましい。
「お姉ちゃんは泣いてた。まるで野良犬のようにお姉ちゃんに覆いかぶさるあいつの頭をいつから持っていたかわからない燭台で殴った」
「おい、大丈夫か」
その目はもはや、俺を見てはいない。まるで意識だけ事件当日に移動してしまったかのようだ。息が荒い。いま彼女には何が見えている?
「お姉ちゃんは何かを叫んでた。その前には血だらけで悪魔のような顔をしたあいつが。手には剣を持ってて。怖くて目をぎゅっとつむると。ドサッて音がして、お姉ちゃんの手にはナイフが」
「おいっ」
そこまで話すとソフィアは気を失い倒れた。この暗がりで気づかなかったが顔は蒼白で、体は震えている。トラウマがフラッシュバックしてしまったようだ。




