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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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魔王の魔法をお借りします。(7)


 「ダールの奴もそろそろ教会に着く頃か。」最後まで村への襲撃部隊に加わると駄々を捏ねていたが、報酬の取り分を増やすということと、『宝玉』を手に入れ次第こちらと合流して良いという条件で渋々首を縦に振った。


 村の襲撃に成功したとしてもこちらの狙いである『宝玉』を持ち逃げされては敵わない。先に教会を狙っても思わぬ伏兵に襲われるかも知れない。そのための挟撃なのだ。そして結界の破壊には強力な魔法が必要だという。ダールは『聖戦』においてもその魔法の腕から多額で雇われていた魔導士だ。たとえ王国騎士団が相手だとしても遅れは取るまい。


 そのまま、『聖戦』での功績により、王国お抱えの魔導士になれるところをあの狂人は問題を起こし、ご破算となった。そのおかげで俺たちは傭兵生活に困りはしないのだがな。


 ダールには悪いがあいつが楽しむ分は残らないだろう。ここにいる20名を超える仲間がいれば、一瞬で村を制圧することができるだろう。そのときのことを思い浮かべると笑みがこぼれる。楽な仕事だ。


最近では成金貴族の護衛、領主に雇われ反抗的な領民への武力行使など退屈な仕事ばかりだったからな。今回は報酬が良いのはもちろんのこと、『宝玉』以外の者は全てすべて好きにして良いことになっている。どんなことをしても責任を持って後片付けをしてくれるいうのだ。まあ、大方魔物に襲われたということにして片づける腹積もりだろうが。ここ最近は色々なものがたまっていたからな。ここで解消させてもらうとしよう。


 「何だ、あいつは。」先頭を走る仲間から訝しむ声が聞こえた。その娘は暗闇にも関わらずはっきりと姿を離れたところから視認することができた。どうやらその白い服が月の光を反射し、光っているようだ。その黒く長い髪はその白い服と対照的である。そのしなやかで凛としたたち住まいは遠くからでもわかるほどであった。あの村の住人であるのだろうが、この時間に一体ここで何をしている。


 「頭領。あの娘を見つけたのは俺が一番初めだ。だから俺もらって良いよな。」俺たちの中で一番の女好きであるゴメスは鼻息が荒くなっていた。私は少し考えたが結局は承諾した。


 こいつはどうも自分の欲望に忠実すぎるところがある。このまま一緒に村に行ったとしても自分に欲望を優先し作戦の進行に支障を来す可能性がある。後先のことを深く考えないくせに、小心者であるという矛盾した性格は機能性を全く考慮していない防具選びにも表れている。これから奇襲をかけると言うのに、これからトロールとやりあうかのような重装備だ。


 「やった、やった。誰にも渡さないからな、もう俺のもんだ。」そう言うとすぐに列の先頭へと戻っていった。むしろ、そのまま作戦中離脱してもらっていてもかまわないがな。自営の武器を持たされているとは言え、素人の村人を殲滅するなど俺たちが5人でもいれば十分に間に合う。



 そうこうしていると、その娘の顔を視認できる距離まで来た。表情はうつ向いていたため読み取れないが、どうやら稀にみる美人だということがわかった。この地域では珍しい黒髪だ。あの容姿といい、売れば高値で売れるだろう。ふん、ゴメスなんぞにはやるには勿体なかったな。その娘の白い服は遠くからみるよりも増して光を放っているように見えた。その光のせいだろうか、あの娘の奥にあるはずの村が見えず、ただ底抜けの闇がどこまでも続くようだった。


 俺たちはその娘の前で馬を止めた。


 「どうした?帰り道がわからなくなったのか。俺たちが一緒に村まで行ってやろうか。」ゴメスがからかうように声をかけたが返事はない。


 「そんなに怖がらなくても大丈夫だって」 ゴメスは馬から降り、我慢できない様子でその娘に近づいて行った。何かがおかしい。その娘からはまるで恐れている様子を見てとれない。それどころか俺たちに向けられているこの気配は、、、


 「おいっ、待てっ!」不用意に距離を詰める仲間を呼び戻そうとしたとき、目に入った彼女の顔は『笑って』いた。


 「ヒュゥ---」


 その瞬間、微かな風が前方から私たちの後方へと抜けていく感覚があった。


 「捕まえたっと。」そんな風など気にも留めずゴメスがその娘ををその両腕で抱きしめようとした。しかし、それはできない。「あれ、あれ、おかしいな~。」ゴメスも困惑している様子だった。


しかし、その腕が女を抱擁するときはもう二度とやってこないだろう。なぜなら、、、、、


 「う、うわあああああっ」その両腕は足元に転がっていたからである。両の腕はゴメスの厚い鎧の装甲ごと根こそぎ何かによってそぎ落とされていた。それが何によるものなのかはすぐに分かった。


 「お、お前がこれをっ!」それがゴメス最後の言葉となった、その娘が左手を振り上げた。それと同時に、先ほどまで意識を持っていた肉塊が二つに割かれ地面に倒れる。いつの間にかその娘の左手には、銀色に輝く両手長剣が握られていた。


 「ああ、良い、良いわ。エリック様がこのような機会をわたくしに与えてくださるなんて滅多にないこと。良いわよね。だって殺して良いとエリック様は言ったもの。ああ、なんて素晴らしい夜なのかしら。」その娘の皮を被った悪魔が、人ひとりの命を奪ったことなどまるで気にもしていない様子で独り言を話していた。


 術式を唱えるのが聞こえたかと思うと、恍惚の表情を浮かべるあの女の純白の服が足元から紫の武装へと姿を変える。 


 「なっ、『錬成魔法』だと!?」この一瞬で全身、それも戦闘用の武装を素材無しに錬成するなど、一流の錬成術師でも難しい業だぞ。


「てめえっ!何しやがった!」仲間の一人がその娘によって殺されたと数瞬遅れて気づいたものたちが次々と襲いかかる。


 瞬間、一斉に飛び掛かったものたちは、相手の一振りで蹴散らされる。


 「焦ってはいけないわ。久方ぶりの実戦なのよ。ゆっくり、ゆっくり相手をしてあげる。簡単に死ねると思わないことね。一刺し、一刺し、大事に感触を確めないと。」


 女は自身もゆっくりと距離を詰めながらも、襲い来る相手に向かい剣を振るった。その動きに一切の無駄はなく、その優雅な剣技はまるで妖精のようにも、死神のようにも見えた。


 女は次々と俺たちを追い詰める。数多の戦場で幾度となく強者を葬ってきた俺たちが一方的に屠られていく。一人また一人とあの悪魔に命を刈り取られていく。腕を切り飛ばし、銅を幾度どなく刺し、脚を薙ぎ、そして首を刎ねる。完全に遊んでやがる。あえて生かされている奴らも完全に戦意を失っている。 


 「フンッ」俺は背負っていた大斧で凪ぎ払った。完全に死角からの攻撃を仕掛けたつもりだったが奴に間一髪で避けられる。「っんむ!」薙ぎ払った勢いそのままに斧を振り落ろした。その斧は易々と木を1本切り落とす。しかし、肝心のやつは空中で体を回転させ俺の一撃を躱した。


 「ああ、あなた良いわねぇ。」悪魔は口角を一杯にあげ、息を荒くしていた。動きに一切の乱れを感じないところを見ると、息が荒い理由は肉体の疲労などではないだろう。この仕事をしていると狂人、変人と多く会うが、こいつはそんなレベルではない。人間の感覚ではない。常軌を逸している。


 「ふん、お前のような奴がこの村にいるとはどうやら村のやつに俺たちの存在が露呈していたようだな。しかし、そうだとしてもお前のような援軍が来ている様子など全く報告になかったのだがな。一体お前らはどのくらいの規模で俺たちを待ち受けているんだ。」もし、迎撃態勢が十分に取られているのならダールたちも同じく戦闘中だろうな。


 「もしかして、別動隊の仲間を気にしているの?案外やさしいのね、あなた。そんなあなたに免じて質問に答えてあげるわ。規模も何も、あなたたちを迎えうつのは、わたくしと、もう一人エリック様だけよ。狙いが『宝玉』だとすれば、あちらも教会で戦闘中かしら。」


 「たったの二人だと。冗談を言うな!」いや、実際にたった1人に既に隊の半分をやられている現状を見ると冗談ではないのかもしれない。こいつのような奴がもう一人いるというのか。「そのエリックという奴もお前ほどの強者なのか?そんな奴がいったい今までどこに隠れていた!」


 「何も隠れてなんかいないわ。私はともかく、エリック様はこの村生まれのこの村育ちよ。私はエリック様を慕い、この村に滞在しているだけ。」


 この村生まれの只の村人だと。「ふっ、ふふふははははははははははは。」俺は奴の話を聞き心底安堵した。ただの村人が相手ならダールであれば瞬殺だ。そうすれば後は楽勝だ。流石にあの快楽主義者とて、村まで下りればこの異常事態に気づく。そのあとで合流したダールと2人でこの女をゆっくり八つ裂きにすれば良い。1人であれば苦戦もするだろうが2人なら確実に勝てる。


 「ふふふ」女はそんな俺の様子を見て、まるで憐れむかのように嘲笑する。


 「何がおかしい。」


 「いいえ、ただ。あなたがよほど滑稽な希望的観測をしているようだから。」


 「希望的観測だと。ふん、上級魔法を使いこなすダールが村人ごとき倒すのに一瞬もかからん。」


 「侮っているのね、エリック様のことを。確かに剣の腕はまるで幼稚で、現在使える魔法など児戯のようなもの。」


 「勝ち目などまるでないではないか。」聞けば聞くほど、エリックという村人が凡庸な人間であることがわかる。しかし、なぜ奴はそんな『ただの村人』をここまで誇らしく語るのだ。これほどまでの実力の持ち主が。


 「見る目のないものが見れば凡庸に見えるでしょう。けれども、エリック様が秘めているものは確かに私がかつてお仕えしていた至高にして崇高なあの方、魔王ルシフェル様に勝るとも劣らないと確信しています。」


 「ははははは、これこそお笑い草だ!村人が魔王に匹敵するだと。」子供の空想でももう少し具体的な対象を引き合いに出すぞ。そんな嘲る私の姿を女は鋭く睨みつけ、先ほどまでとは比にならないくらいの殺気を私にぶつける。くっ、魔物の大群を前にしたときでさえこんな殺気を感じたことは無かったぞ。


 「そしてお前はもう一つ見誤っている。それはお前がその気になればわたくし相手に時間を稼げると思っていることよ。先ほどまではあなたの思惑に乗ってあげようと思わなくもなかったけど。気が変ったわ、一撃で終わらせてあげる。ただ、ハンデを上げるわ。一撃だけ私はあなたの攻撃を受け切ってあげる。一歩も動かずにね。使っている武具が大斧だもの、そっちのほうが都合が良いんでしょう。ただしその一撃で決め切れなければ終わりよ。」


 「図に乗るなよ、女ぁ。」一歩も動かずだと。思いあがったな、己自ら不利な提案をするとは。所詮戦場を軽んじる女子供よ。奴も俺のことを甘く見ている。俺の一撃が木を一本切り伏せる程度と思うなよ。俺は外界に向けて魔法を放つことはできないが、自分に魔法をかけることはできる。エンチャント魔法というものだ。


 詠唱を始めるとともに俺は次の一振りに魔力と気力を充実させる。エンチャント魔法により武具の威力と筋力を増強し、全身の気が充実した瞬間に放つ俺の奥義を喰らうが良い。


 奴は直立不動のまま、片手で静かに剣を構えている。どこまでもコケにしおって。その傲慢な態度ごと吹き飛ばしてやるわ。


 俺は地面を蹴り、一瞬で距離を詰める、そして『全力」を斧の乗せる---


 『ジャイアント・キリング-----』


 城の城壁を吹き飛ばす俺の最高の一撃は奴の剣一本に、、、、、、、受け止められていた。俺の全力をその細腕一本でだとっっ!


 そういえばこいつさっき、何と言っていた。「魔王に仕えていた」だと。あまりの滑稽さに聞き流していたがこいつは!


 「お前はいったい何者なんだ。これまでのことは全部、人間の業ではないっ。」


 「そこら辺の人間風情と一緒にされるなんて業腹だわ。魔王直属暗黒騎士団元団長シルビア・オーヴェルニュと言えばわかるかしら。あなたのような教養の無い男でも暗黒騎士団は聞いたことがあるのではなくて?」


 「何だと。」かの『聖戦』で多くの戦死者を生み出したあの暗黒騎士団、その団長だと。


 「くそっ。」俺は鍔競り合いの状況から相手の剣を弾き距離を取った。そんな馬鹿な。あり得ない、しかし実際にこの実力は、、、。その話が本当ならヤバイ。このままだと殺される。ダールが来るまで時間を、、、。


 「一撃を受け切ったらそこで終わりと言ったでしょう。」聞こえた瞬間、俺の視界は夜空に固定された。くそ、体が動かない。倒れたあと魔法で動きを封じられたか。目だけで仲間を探すと右側に立っている男の姿が見えた。「頼む、早く立ち上がらせてくれ。」その声は言葉とならなかった。その代わり、男のことをよく見ると、見慣れた靴に見慣れた鎧、そして見慣れた大斧を持っていた。ああ、あれは俺の体か。


 「先ほどの不敬、その死で詫びなさい。」あまりの剣速に切られたことにも気づかなかった。


 「さあ、まだ半分は残っていたでしょう。先ほどの続きをしましょうか。ふふ、少し遅れることになるかもしれませんが、エリック様もお許しになられることでしょう。今頃はエリック様も勇敢かつ優雅に敵を屠っている頃合いでしょう。『闇討ち』だとか『失敗したら時間を稼ぐから応援に来てくれ』だとか、エリック様は本当に冗談が上手いわ。わたくしの助力など必要ないでしょうに。」


 そのようなことを口にした奴の上気した顔が俺の最後の記憶となった。

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