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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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あなたの罪を許します(3)

「ヘルメスほどじゃないけど結構にぎわっているな」


「そりゃ田舎出身の私たちからしたらどこもそう見えるでしょ。ところでメイヴはまだ目を覚まさない?」


門突破の一番の功労者であるところのメイヴはその名誉の負傷とも言える精神的ダメージによりまだ目を覚まさない。


「ち、違うんです。言わされただけなんです。エリックさん見捨てないでください」


なんて言い訳めいた寝言まで言っている始末。しかも責めているのは俺なのか。だとしたらメイヴは俺のことをわかっていないな。俺はあんなことで人を見限ったりはしない。それどころかあの一件に関しては眼福だと思っているくらいだ


有難ありがた


「なんでそんな満足そうな表情をしているのかしら?」


「久しぶりに宿で寝れると思うと嬉しくてな、他意はない」


「そう、なら良いけど。でも宿でゆっくりできるのはもう少しあとね。備蓄が尽きてきてしまっているから買い出しをお願いしたいわ。シルビアはいつの間にかどこかに行ってしまっているし、私はキースを連れて、町を散策しながら法廷見学に行ってくるわ。さっき広場で『拷問器具の歴史展開催中」という掲示もあったし興味があるわ」


「エルザちゃん、俺とデートをしたいならそう言ってくれよ。行先が拷問場でも構わない。賽の河原ステュクスだってエルザちゃんが一緒なら川下りデートでもして楽しめるさ」


「だったらそのまま川岸で置いてきてあげるわね」


女子と会話ができればご満悦なキースと違って、面倒な皿洗いをするようにキースの言葉を右から左へと受け流す。


「メイヴはエリックに任せるわ。もう少ししたら目を覚ますだろうし、目を覚ましても気分が悪ければ先に宿まで送り届けてちょうだい」


「それじゃあ行こうか、エルザちゃん!」


会話の要件が済んだことを察知したのか縄でグルグル巻きのキースは人込みへと突き進む。その縄の端を掴んでいるエルザも引っ張られる形で歩き始める。これから仕事へと向かう気怠さを受けべながら手だけ振って、町へと消えて言った。


しかしキースのやつ、よくあんな恰好で堂々と歩いて行けるな。あれではどちらが連行されているかわかったものではない。


とりあえず俺は頼まれた買い出しに向かった。幸いにも、もらったメモ書きにはメイヴを背負いながらでもなんとか運べる量しか書いていない。どうせなら先にメイヴを宿に預けようかとも思ったが、意識を失っている女の子を一人にするのは避けておいたほうが良いと思い直した。


「どうせ女を背負うならもう少し胸がある子のほうが良かったのではないか。そうすれば胸の感触を楽しめたじゃろうに」


「今日初めて話す内容が少女の胸の感触っていうのは如何なものか」


マイラは俺の中に宿っている精霊である。そのため普段、姿は見えないため最初のほうはいきなり話しかけられたときはビクっとしたものだが、最近では慣れたものだ。


「それに言わせてもらうが俺は仲間で欲情したりはしない。確かにシルビアのような柔らかく包み込むマシュマロのような感触こそない。しかし、膨らみがないからこそ俺とメイヴの接触面積は広く、そのコリコリとした骨の感触を味わうことができるのだ」


「聞いておいてあれじゃが、貴様気持ち悪いな。十分に欲情しておるではないか」


やれやれ、素直に感想を述べただけで気分を害されるとは。


「あれ、私はいったい」


「おお、メイヴ起きたか。お前のおかげで街の中に入ることができた。今はそれぞれ別行動中でお前と俺は買い出しの途中だ」


「そうですか。これはご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です。下ろしてください」


むむむ。もう少し感触を楽しんでいたかったがこれでは仕方あるまい。自分を殺してでも仲間の意思を尊重することもまた大事なのだ。


「仲間の少女のあばら骨の感触を楽しむ自分など殺してしまえ。まったくそんなにスリムな胴体が好みじゃと言うなら余のことを背負えばよかろうに。特別に許そう」


ん?マイラのことをおんぶしたことはなかったな。よかろう、今度図書館を訪れたときは存分に楽しもう。ただしそのときはおんぶではなく、お姫様だっこだ。この両腕に収まるサイズの何と愛おしいこと。


「エリックさん大丈夫ですか、鼻血が出ていますよ」


「おっと失礼。長旅の疲れが出てしまったようだ」


「いやらしいことを考えていたんじゃないですか?キースさんと目つきが同じですよ」


「少女をお姫様だっこをしながら、そのつむじに額をグリグリしたいなんて俺は少しも考えていない」


「なんでそんなに具体的でマニアックな性癖を例に挙げるんですか」


メイヴは自分の体を自分で抱きしめる素振りをしながら悪寒を顔に表した。気のせいだろうか、物理的な距離も開いてしまったように思える。


それから買い物を再開したのだが、全然メイヴが口をきいてくれなくなった。まずいこれまで良好な信頼関係を築けていたと思うのだが、何が彼女を怒らせてしまったというのか全然わからない。これが越えられない種族の壁ってやつか。


「単に貴様が越えてはいけない一線を越えたというだけじゃろうが。まあ幸い相手は少女。飴でも買ってあげれば機嫌治すじゃろう」


そんな訳ないだろうが。見た目は子供でも頭脳は俺よりも年上だぞ。しかし投げやりに近いものだとは言え、せっかく俺のためを思っての助言なのだ。無下にもできない。言うだけ言ってみるか。やれやれ世俗に疎い引きこもり精霊は人の感情がわからないのだから困ったものだ。


「メイヴどうだ?お金もあまっているし飴でも食べるか?」


「はい、ぜひ!エリックさん大好きです!」


人の感情がわからなくなった。それともあれか、女性は貢物に弱いというあの定石なのか。


そんな混乱中の俺には目もくれず螺旋状に絡められた棒付きの飴をペロペロとゴキゲンにメイヴは舐め始めた。ちょうど買い出しも終了したところだったので近くのベンチに腰を下ろした。


そこは広々とした広場で中央には恐らくは名のある芸術家が創作したであろうブロンズ像が立っている。円柱の上に立つその男はどこか憂いを帯びたような表情のように見えた。


「誰だモデルだかわからないが、立派な像だな」


「あれは七大英雄が一人ベネディクトのブロンズ像ですよ」


「七大英雄ってあの聖戦で最も偉大な功績を挙げた奴らのことか」


勇者アーサーはその筆頭でもあるが、軍師トミュリス、聖女カタリナ、拳闘士アレス。ちなみに魔導士ジークフリートというのもいるが、ジークに名前が似ているため好きにはなれない。


「ちなみに狩人フェルグスは私の叔父にあたります」


「何しれっと重大発表しちゃってんの?お前の叔父って王様なだけじゃなくて一族最強の戦士だったの?どうりでメイヴ、お前は強いわけだよ」


狩人フェルグスって一人で巨竜討伐とか砦陥落とかしたやつだよな。メイヴもそんなポテンシャル秘めてるのかも知れない。この幼い体には可能性が詰まっている。


「なぜじゃか、貴様が言うと可能性という言葉が卑猥に聞こえてくるから不思議なものじゃ」


そんな相棒を疑うようなマイラの言葉は無視するとして、事実としてエルフで七大英雄に名前を連ねているってのが凄いことだ。アレスとフェルグス以外は全員人間だ。恐らくは人間の聖戦における功績を誇示した誰かの意思によって生まれた偏りだろうが、彼ら二人の功績は誰が見ても無視できないものだったのだろう。アレスとか誇張無しで万夫不当だったらしいし。ちなみにアレスはドワーフ。


「そしてこの町は錬成士ベネディクトの故郷なのですよ。まあ、彼はの場合は錬成士というよりは召喚士と呼ばれることもありますが」


「召喚魔法って確か錬成魔法の極みと言われている魔法だよな」


「ええ、錬成魔法にて仮初かりそめの体を作り上げ、その器に精霊や守護霊など、時には神までもを宿して使役する魔法です。あまりに高度な魔法で一番簡易的な術式を用いたとしてもその難易度は上級魔法レベルというぶっ飛び性能です」


「やけに詳しいな」


「こんなことは現代の一般教養ですよ、だって私たちの世界を救った英雄の話ですから余程の引きこもりでなければ嫌でも耳にします。むしろエリックさんこそ珍しいですね。こういった話は異常なまでに詳しいのに」


俺の情報源には偏りがあるからな。真理図書館イデアライブラリーには人間が知り得ない魔族サイドの情報も多く所蔵されているが、逆に人間サイドの情報は意図(恐らくはマイラの)的に削除されているときがある。マイラが人間が活躍するページを黒線で消しているところも見たことあるし。


「聖戦で様々な罪や正義を目撃してきたベネディクトは、元々法律家の家系だったこともあり若くしてここの最高裁判長になりました」


「何だ、ベネディクトがこの世界初の裁判官で法廷という概念を作ったんじゃないのか」


「知識が偏りすぎというか、不勉強にもほどがありますね。無知は罪だと言う人もいるんですから気を付けてください。私で良ければ歴史の勉強に付き合ってあげます」


「神話とかは好きなんだけど、そういう勉強チックな感じになると不思議に頭に入ってこないんだよな。まあでもそんなに凄い奴に会えるっていうならぜひ直接本人から当時のこと聞いてみたいな」


「残念ですがベネディクトはもうこの町にはいないらしいのです」


「そうなのか?聖戦で受けた傷が原因で死んでしまったとか、国外に旅行中とかか?」


「七大英雄のほとんどはすでに死んでしまっているか消息不明ですが、ベネディクトの場合は後者のようですね。風の噂で2年ほど前にこの町を去ったとか」


「理由は知ってるのか?」


「いいえ。ただ彼が最後に担当した裁判で何か問題が起こったらしいという情報くらいしか私にはわかりません」


「そうか。会えないのは少し残念だが、そういうことなら仕方ないか」


「ベネディクトには会えませんが、召喚魔法の使い手ならこの町にもう一人いるらしいので運が良ければそちらのほうは見れるかもしれませんよ」





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