あなたの罪を許します(1)
「『目には目を、歯には歯を』と言うのが法律の原点なのよ」
女子メンバーの着替えを覗こうとしてフルボッコの鉄拳制裁を受けたうえで正座しているキースをエルザが腕を組み見下げている。
ネイアがいる村を出発していから早一週間。山道を徒歩で移動してきた。山頂を越え、汗で衣服が気持ち悪くなってきたところで滝を見つけ休憩をしていたのだが、例によってキースが煩悩に身を任せた。
「だから私たちの裸を覗こうとしたキースの全身の肉を今からそぎ落とすわね。それで許すわ」
「全然釣り合ってねえじゃねえか!?『目には目を』の原則はどこに行きやがった!」
やられたらやり返して良いという話だとは思うのだが、その場合は覗きには覗きで返すべきじゃなかろうか。
「肉を削いだら、骨が覗いて見えるでしょう?覗きには覗きで返しているじゃない」
「どんな猟奇的な裁判官なんだお前は!?」
シスターだろうが、お前は。罪人には赦しを与えるのが役割だったんじゃないのか。覗いて見えたのはお前の残忍さだよ。
「あらあら、他人に見られて困るような体をしていますと、人は覗きひとつでそこまでお怒りになるのですね」
やたらと煽情的なポーズを取りながらシルビアが食いかかってくる。背伸びを装ってはいるが、意味のなく両手を後頭部へ当てながら胸を強調するように背を若干反らしている。そんな様子を「うわぁ」とでも言いたげな表情でエルザは見ている。
「そういうシルビアだって怒って一緒にキースを踏みつけにしていたじゃない」
「私の美貌は見る人を選びますのでキースのような変態が視界に入れて良いものではないということです。でもエリック様ならいつだってお見せいたしますわ」
今度は前傾姿勢をとり、両腕で胸を寄せるポーズを取った。着ている服の胸元を指で下げてアピールする姿に俺は思わず目をそらした。キッ。とそんな俺を睨みつけるエルザの視線が怖かったというのもあるが。
「もう、エルザさんもシルビアさんもいい加減にしてください。仲間内で喧嘩してどうするんですか」
そんな二人の間にメイヴが割って入り仲裁に努める。
「やっぱり俺の味方はメイヴちゃんだけだ!好きだ、結婚しよう!」
「それは結構です、遠慮しておきます。それにネイアさんは良いんですか?割と良い感じになっていたんじゃなかったでしたっけ?」
「くそう、許せネイア。一人の女性に注ぐには俺の愛は重すぎる」
「浮気症を美化した言い方はしないでください。あなたの愛はキモ過ぎます」
元々ポジティブなやつではあったが、ネイアとの一件で間違った自信をつけてしまったようにも見える。ナルシスト。自己愛故に破滅した誰かの逸話をもとにした言葉がぴったりだと思う。
「さあ、ではどんな目に遭わせてやれば反省してくれるのかしら」
と、そんなことを死刑執行人のような雰囲気を漂わせながらあれやこれやとシルビアや、メイヴも交えてキースの処罰について真面目に議論を始めてしまった。
やれやれこんな調子じゃ明日付く予定の町にもたどり着けないじゃないか。ん?そういえば明日付く予定の町と言えば。
「おい、キースのことで悩んでるお前たちに提案があるのだが」
「やっぱりエリック様も斬首刑が良いと思うのですね!ええ、それが一番すっきりします。私も賛成ですわ」
「いいや、そんなことは提案していない。いや、俺が思ったのは先人たちに学ぶのはどうかと思ったんだ」
「先人たちに学ぶだなんて回りくどい言い方しないで結論を言いなさい。私を手間取らせた罪で極刑に処すわよ」
「ああ、そういえば次の目的地は法律の町、アストレアでしたね」
シルビアとエルザとは違ってメイヴは相変わらずの勘の良さを見せる。俺の言わんとしていることを理解してくれたようだ。
「そうだ。大陸初の法廷が作られたあの町でなら、良い前例があるんじゃないか。キースが罪を悔い改められるような適切なやつが」
「流石ですわ、エリック様。きっとご期待通りに斬首刑に処された前例を見つけて見せますわ」
「そんな期待はしていない。なぜ、そんなに首にこだわる」
「まあ、良いでしょう。神に仕えるものとして人間の裁きというものがどういうものなのか、見定めてあげるわ」
「お前はいったい何様なんだよ」
「さあね、強いて言うならこれが私の生き様よ」
そんな傲慢極まる生き様があるとは恐れ入ったぜ。
とにもかくにもキースの処罰は延期となり、移動を再開することができそうだ。キースの性根を改善できるような刑罰があることを心から祈りながら、俺たちはアストレアへと歩みを進めることとなった。




