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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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そんなの馬鹿でもわかります(4)


「ぎゃあ!こ、こんなに早く化けて出るなんて!悪かった!お前を置いて行っていったこと怒ってるんだよな、今度、お前好みの覗きスポットを教えてやるから成仏してくれぇ!」


ちょび髭が俺の顔をみるやいなや腰を抜かして地面に倒れこむ。土下座の姿勢である。現れた亡霊に対して覗きのロケーションは価値ある交渉材料にはなり得ないと思うんだけど。だって幽体だから覗き放題なのだから。男なら誰でも一度は夢に見る極楽浄土である。


しかし、それは俺の趣味ではない。恥じらう様子が俺のどストライクなのだ。幽霊では気づいてもらえないじゃないか。いや、そもそも死んでないけども。少なくとも肉体的には(俺の性癖がバレたら社会的に死亡なのは自覚済みだ。でも誰だってそうだろう。そうだよね?)


ちょび髭は村の危機を迅速に村に伝えきったらしく、町の住民が寄せ集めた剣やら農具やらで武装してオーク二体の撃退に備えているところだった。ケガをしている騎士の男もそこにはいた。満足に剣を振ることもできない体で参戦しようとは、見上げた根性の持ち主だ。


俺がオークを倒したと言っても最初は信じてくれなかったが、剣についている血や、倒れているオークの亡骸を確認したことで何とか納得してくれた。


俺が助けた女性はネイアという名前らしい。整った容姿に引けを取らない美しい響きの名前である。俺はネイアをまずは休ませようと宿の手配をちょび髭に頼んだのだが、ネイアはそれを拒否した。


「私のことなら大丈夫です。キース様。あなたの準備が整い次第、出発しましょう」


「いや、どう見ても君はもう限界じゃないか。少しでも休まないと倒れちまうぜ」


「私には時間がないのです。それにこの村の人に迷惑をかけるわけには」


ネイアのような美人を泊めることのどこが迷惑になるのかは疑問ではあったが、本人が望むのであれば俺はついていくことにしよう。


俺は行き違いになるであろう、エリックたちへ書置きを残した。幸いネイアが向かうパレナ山は俺たちが目指す町と方角は同じだ。少し遠回りになってしまうが、依頼をこなして戻ってくるエリックたちとはその町で合流すれば良いだろう。道のりを考えればエリックたちにそれほど遅れずにつくことができる計算だ。


そそくさと自分の荷物を持ち、宿の入り口で待つネイアのところへと急ぐ。


「ちょっと何でそいつが何の罰も受けずにこの村から出ていくのよ」


「落ち着いてくれよ、美人な顔が台無しだよ。これには事情があるんだっての」


宿の入り口のところにはちょび髭と気が強そうな美人がなにやら言い合いをしていた。この美人はどこかで見たことがあると思ったが、俺が覗きをしたと疑われた姉妹のうちの一人だった。この強気な物言いから判断するに恐らくは姉なのだろう。


不幸中の幸いなのだろうが、覗きの冤罪に見舞われた俺だったがオークの討伐による恩赦で、何となく不問としてもらった空気を感じていたところだったが、この様子だとどうやら当の本人は納得していなかったらしい。


「白昼堂々と私たちの裸体を覗いていたこの変態を野放しにしてしまったら、何人もの女性が辱めを受けることになるかもしれませんわ。それどころか、お嫁にいけない体にされてしまうかも。そうなったらどう責任を取るおつもりですか」


なるほど、俺のことを大目に見たせいでちょび髭の立場を悪くしてしまったらしい。いい気味だという気持ちもなくはないが、原因は俺にある思うと夢見が悪い。ここは女性の機嫌を取らせてもらうとしよう。下手へた下手したてに出ると怒りを助長するという話を聞いたことがある。よし、ここは客観的視点に立って彼女の美しさを称賛するとしよう。


「おいおい、俺が見る限り君たちのプロポーションは完璧そのものだ。辱めだなんて自虐が過ぎるというものだよ。数多の女性の裸体を見てきた俺が言うんだ間違いない。それにお嫁にいけない体になったらどうするなんて考えるまでもない。そのとき俺がお嫁にいただこう。もちろん、姉妹そろってだ」


「お前の目を潰してもう二度と女性を見れなくしてやったほうが世のためだわ!」


「良いのかい?その場合俺の脳裏に焼き付いているのは最後に見た君たちの絹のような素肌となるが?俺は未来永劫その様子を脳裏で再生し続けるだろう」


「お前はいい加減黙っていてくれ!」


怒りのボルテージが留まるところを知らない女性の様子に焦るちょび髭は大きな声で俺を制した。おかしいな、話せば話すほど状況は悪化するばかりだ。いつだってこうだ。俺が女性を褒めるたびに、相手は機嫌を損ねる。やれやれだ。


「いいか、落ち着いて聞いてくれ。確かに奴は許しがたい変態だが、オーク二体を軽々と屠る力を持っている。最狂で最凶の性犯罪者だ。怒らせたら何をしでかすかわからん。自分からこの村を去ってくれるといんだから、万々歳だ。ここはぐっとこらえて我慢してくれ」


恩赦だと思っていたが、この様子から判断すると厄介払いというほうが正しい認識だったようだ。まあ、良いさ。一緒に旅をするわけでもないその場限りの奴らにどう思われても全然大丈夫。この危険な世の中で五体満足というだけでも幸運なのだ。


さて、いざ出発しようとネイアのほうへと歩いていくと、ネイアの表情が先ほどまでの決意に満ちたものからうって変わって後悔に満ちたものになっていた。無理もない。見たところ俺とそんなに変わらない年齢だ。


先ほどまでオークに追われていたのだ。これから先の旅路に不安を覚えないほうがおかしい。その証拠にネイアが俺を見る瞳には受け入れがたい狂人でも前にしているかのような感情の色が伺える。


「そんなに不安に感じなくても大丈夫だよ、ネイア。君の安全は俺が守るから。夜に君が眠っているときも安心してくれると良い。俺がずっと付き添ってあげる。添い寝もOKだ」


「い、いえ。夜はむしろ一人にしてください。必要以上にあなたを負担をかけるわけにはいきませんし。何だったら、今回の旅はやっぱり私一人で大丈夫な気がしてきました」


なんてことだ。この状況で俺への気遣いまで。なんていい子なんだ。


「ここで引き下がったら男がすたるというもの。こうなれば例え君が嫌がったとしても無理やりにでも付いていかせてもらう!」


ストーカーだわ。なんて言葉がネイアのほうから聞こえた気がするが、きっと勘違いだ。素敵だわ。の誤変換というところだろう。もしかして、もう俺に惚れてるんじゃないの?


「わかりました。こうなった以上、私も覚悟を決めました、ただこれだけは言っておきますね。指一本私には触れさせませんから」


「ああ、もちろんさ」


どんな強敵が襲ってきても、君には指一本触れさせない。






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