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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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魔王の魔法をお借りします。(4)


 「話は終わったの?」俺が母屋から出てくるとエルザに声をかけられた。入口近くの木に寄りかかっていたところを見ると、どうやら俺のことを待っていてくれたらしい。その手に握られている魔導士用の杖は万が一俺がジークに襲われたときに護ってくれようとしたのだろう。


 「まさかずっとあれから俺を待っててくれたのか。」


 「そんなことあるわけないじゃない。自意識過剰もほどほどにして頂戴。ほんのさっきまで仕事に熱中していたわ。私の祈りのおかげで少なくとも邪龍ヨルムンガンドに襲われていた都が一つ救われたわ。あまりに集中し過ぎてあなたのことなんてまるで忘れていたし、今も覚えていないわよ。あなたはどこのどちら様?」


 「伝説の邪龍撃退に貢献してたのか!?」かの『聖戦』の勇者でも討伐に至らず撃退に留まっていた邪龍を追い払うとは。そうだとすれば俺との思い出など安い対価だ。


 「冗談に決まってるじゃない。」エルザはいたずらに微笑む。長い時間、木に寄りかかって待っていたのだろう。彼女の足元の草はすっかりと倒れていた。

 

 「お父さんとの話は上手くまとまったのね。今年の収穫祭は例年と比べて良いものになりそうなの?」


 「うんまあ、そうだな。」実際には収穫祭の話は全くしなかった。不在の間のエルザの安全を確保するということを依頼されただけだった。隠すようなことだとも思えなかったが、エルザにもジークが事情を話していない様子から察するに黙っていたほうが得策だろう。変に心配をかける必要もないからな。


 「微妙な返事ね。確かにその年齢で収穫祭実施責任を任され、その責任に思い悩むこともあると思うけれど、ひとりであまり頭を悩ませないほうが良いわ。知らないかもしれないけど私も結構役に立つのよ。」


 「ありがとうな、大変なときはぜひ頼らせてくれよ。」考えていたのは収穫祭のことではなくジークのことであったが、どうやら心配してくれたらしい。


 「ええ、だってあなたは使えるものは老若男女関係なく、どんなものでもこき使うそんな男だものね。毎年の収穫祭で走りまわるニーアの姿を見るたびに私涙が出るわ。今年でやっと6歳になる女の子だっていうのに。」


 「人聞きの悪いこと言うな!村一番のイベントだから村全員の力を借りなければならないし、むしろこの稼ぎ時を逃すものかと俺が村全員から使い走りの毎日だ!?」出店の場所が悪いだの、ほかの村や町への周知はどうなっているんだだの、自分たちの出番を増やしてくれと連日注文の嵐だ。」


ちなみに担当は俺であるが、副担当はキースだ。基本的にはいい奴だがこの繁忙期には少し働いて欲しい。


 「それにニーアが走りまわっている件だって、子供が精霊の役になって家々を巡りお菓子をもらうという村の慣習のような遊びだ!忘れたとは言わせない!お前は小さい頃、仮面をかぶって周り、仮面を変えて二週目に行こうとしてただろうが!?」ちなみに村人はそのことに気づいていたが、その可愛い姿に騙されたふりをしていた。


 「そんなこともあったわね。」エルザは昔を懐かしむように微笑んだ。「この収穫祭に参加するのも今年で何回目かしらね。村の人たちは村の外から移住してきた私たちに本当によくしてくれるわ。私は最初、村の人があまりに親切にしてくれるから移民だって気づかなかったんだから。私もお父さんもそのことには感謝してもしきれないわ。」


 「そのジークなんだが、今日の夜にもまた出かけるらしいな。何かあったのか。」


 「さあ、私にはいつも『教会の人手不足』としか言わないからよく分からないわ。」


 「ただ」エルザは心配そうにジークがいる母屋に視線を向けながら、「最近、何かを恐れているように見えるわ。話しかけても上の空であることが多いし。何にもないように私の前では気丈に振舞っているのがわかる分、余計に心配だわ。まあ、父さんも何か事情があるようだから、詮索せずに『何にも気づいていない村一番に可愛い娘』を演じてあげているわ。」


 「『村一番の可愛い』というところは必要なのか。」しかし、エルザには心配をかけないようにあれやこれやと気を巡らしているジークだったが、やはり娘である彼女には無駄だったらしい。相手の思惑に気づきながらも気持ちを尊重するそんな一面はやはり親子で似たのだろう。


 「思い当たることと言えば、最近執拗に『エリックのことどう思う?』とか『迷惑に思っているならいつでも言ってね。』とか『一撃で跡形もなく相手を消し飛ばすこともできるから証拠も残らないよ。』とか言ってくるくらいしか。」


 「それは聞きたくなかったな!?」


 「大丈夫よ。ちゃんと『露程も興味がない』と答えて茶を濁しているわ。」


「全然濁ってない淳前たる悪意しか感じないのだが!?」


 「へえ。私に興味を持ってもらいたいのね。」


 「ぐっ。」


 「安心して。いつもエリックには興味深々よ。」そのように言う彼女の笑顔がとても可愛らしく、私は赤くなる顔を誤魔化すために視線をずらした。


 「だからね。彼女は先ほどの愛くるしい表情そのままに、「一緒に住んでいるシルビアさんとは本当に何も無いのかしらとも思っているわ。」と続けた。笑顔であるのだが、その笑顔が逆に怖かった。


 家に帰るとキースがシルビアの部屋のベッドでうつ伏せになって寝転がっていた。


 「いや!これは違う!!これはただ、シルビアちゃんの寝ている寝室はどんな部屋なのか気になって、入ってみたらベッドを発見し、良い匂いがするかもしれないと小1時間寝ていただけなんだ!」


 「何も違ってねぇよ!?」


 「仕方ないだろ。シルビアちゃんと甘々の新婚生活を体験できる思ってたら、いないんだからよ。よくも謀ってくれたな、エリック。よもやこんな裏切りを受けようとは!はっ、まさか誰もいないこの状況を作り出し、シルビアちゃんの部屋をあえて無防備にすることで俺のことを陥れようとしていたのか!?何たる謀略!誰がこの誘惑に打ち勝てるだろうか。」


 「盛り上がってるところ申し訳ないんだが、そもそもシルビアはそのベッドを使ったことは無いはずだぞ。」


 こんな無防備なところで寝ていたら命がいくつあっても足りないと言い、布団にはダミーの布で作った袋を置き、自分は別のところで寝るのが彼女の日常だった。さらには俺の身を守るためだとか言って頻繁に俺のベッドに潜り込もうとしているのだが、これを言うとさらに厄介になるだけなので控えよう。


 「なんだと!それでは、俺はいったいいままで何をしていたと言うんだ!?」


 「それは俺のほうが聞きたい。」


 「全くシルビアちゃんも義理堅いよな。命の恩人とはいえ、ただの村人一人のために、もう半年も滞在して仕事を手伝ってくれるなんて。あれだけの美貌なんだから王都へ行けば多少身分の違いがあっても裕福な家との縁談なんていくらでもあるだろうに。」


 「ああ、そうだな。」俺はシルビアのことについて村人全員に嘘をついている。


 「エリックのどこがそんなに魅力的だというんだ!」


 「それは少なくとも本人の前で本人に言うことではないな。」


 「良いな俺もあんな風に美人に心から慕われてみたいよ。」


 「シルビアが慕っているのは俺なんかではないよ。」


 「何言ってんだよ、エリックを慕ってないなら誰を慕ってるんだよ。」


 シルビアが慕っているのは、いや、仕えているのは昔も今も変わっていない。シルビアは俺を見ていない。彼女が見ているのは『彼の者』の力の残響なのだ。そして俺はそれをわかっていながら、彼女を騙し続けている。


 「いや、何でもない。」


 「しっかし、最近では国全体で活気を取り戻してきたのがわかるな。年々収穫際を訪れ人の数も増えてきたし、このまま行けば『聖戦』前よりも規模が大きくなるんじゃないか。」


 「そうなれば良いな。『聖戦』はあまりにも多くのものを俺たちから奪っていった。俺たちの村からも闘いのために兵士に志願し、俺の父さんも帰って来なかったしな。」


 「何か悪いな。そんなつもりはなかったんだが、嫌なことまで思い出させてしまったな。」


 「いや、気にするなよ。俺はみんなのために立ちあがった父さんを誇りに思っているし、病気で亡くなった母さんもそれは同じだっただろう。それにその後も村長が俺をよくしてくれたからな。」


 「村長さんも『聖戦』で息子を無くしている。お前と息子さんを重ねているのかもな。」


 「そうかも知れない、そのおかげで母さんが亡くなったあともどうにか小さいながらもこの農場をやっていけているんんだ。」


 「もしかしたら村長は跡継ぎにお前を考えているのかも知れないぜ。お前が収穫祭の実行担当というのもそのための下積みと考えると不思議ではない。」


 「もし、そうなったら面白いな。俺が村長で、お前が村で一番の商人になって、エルザが村の教会を継ぐんだ。そして大人になっても俺たちでまた収穫祭をするんだ。」


 「それは面白そうだな。その時は俺があらゆる人脈を生かしてもっと大きな祭りが開催できるように尽力するぜ。」


 「ああ、いいな。」俺は決してやってこないそんな未来を妄想する。他のだれでもない俺のわがままで無くなったそんな未来の可性を。


 それでも、そのときまでは。俺がこの一身に自分自身の決断による代償を受けるまでは、せめてこの束の間の安息に身を置きたい。


 しかし、ジークの話を聞いてから止まないこの胸騒ぎが、その僅かな希望すらもかき消すようだ。そして次の日の朝、戻ってきたシルビアからの話を聞いた俺は、ジークの懸念が正しかったことを確信した。

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