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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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人は見た目で判断しません(8)


「エリック様、堪えてください」


とっさに駆け出しそうになる俺の右腕をシルビアが掴んだ。


「ここで飛び出してあの三人を助け出したとしても、ここで騒ぎを起こしてしまえば彼らを捕まえるのは難しくなります。仮に売られてしまったとしても、全てが解決したあとに救い出せば良いではありませか。ここで奴らを取り逃がせば、あの3人のような犠牲者が増えるかもしれません」


正論だ。正論だが、俺は自分の中から沸き起こる焼けるような気持ちを冷ますことができないでいた。ここで飛び出せば3人は救えるかもしれない。しかしその代わりに、もっと多くの救える子を見捨てることになるかもしれないのだ。痛みにでも耐えるよう、奥歯を強くかみしめた。


「双子の出品などこのオークション始まって以来、初めてのこと。皆様の高貴な知識欲を掻き立てること間違いなしでございます」


「そうだ、二人いるということは観賞用と実用用に分けられるということではないか。片方が壊れてしまっても替えがいるというのは良いな」


「いえいえ、それよりも双子を全く異なる環境に置いても同じように育つのか実験してみるというのは?片方には劣悪な環境を与えてみるというのも面白いかも知れませんな」


「あのもう一人の女の子もカワイイわあ。ずっと近くに置いておきたいわ。でも大きくなったら可愛くないわね。そうだはく製にしてしまいましょう!そうすればいいわ」


聞くに堪えない。このオークション参加者が同じ人間だとは到底思えなかった。こいつらのマスクを外してしまえば、この言動に相応しい魔獣の本性が現れるのではと本気で考えてしまうほどだ。


ステージ上のメイたちは状況を正しくは理解できていないだろう。しかし、異様なまでの狂気にその身が蝕まれつつあるのを感じてか、その顔はまるで得たいの知れない魔物を目の前にでもしているかのような恐怖に染まっていた。


エルザは冷静を装ってはいたが、その視線は決してステージには向けられず、左手は震える口元を押させていた。そうでもしなければ、何かが流れ出てしまうことを恐れているように見えた。


競りが始まり、参加者は手元の木札で落札の意思表示を次々と表明する。


100万、150万、220万、350万。と会場の狂気と比例するかのようにその金額は膨れ上がっていく。


「1000万!」


500万以上跳んでの金額提示に会場はどよめきに支配された。先ほどまでに互いに競争していた参加者が続々と木札を下げる姿が見える。


その男は1人で三人分の席を占領するほどの肥満体系であり、呼吸をするのも辛そうである。そしてその傍らに2人のメイドを従えているのをみると、名のある富豪なのだとわかる。


しかし、その人間性は常軌を逸していることはその二人のメイドを見てわかった。露出が多いデザインであるはずが、その素肌もほとんどは包帯で覆われ、目には眼帯が装着されていた。その理由は、常に主人の顔色をうかがうメイドの態度から察することができた。


「もう、いませんね!では1000万での落札が決定いたしました」


競売が終了しステージから運び出されるメイは必至に声を上げた。「ごめんなさい」、「ここから出して」と繰り返し、泣き叫んだ。


シルビアが俺の腕を掴む力が強くなっている。わかっている。それだけ俺があの場に駆け出そうと力が入ってしまっているからだ。落ち着くんだ。シルビアが言っていたじゃないか。オークションが終わって、捕縛の準備が完了し、全てが終わったあとで迎えに行けば大丈夫、大丈夫だから。


「お兄ちゃん、助けて」


俺は気づけばシルビアの腕を振り切っていた。メイが俺を呼んだ。もしかしたら幻聴だったのかもしれない。それほどまでに不確かな声だったが俺には聞こえた。


無謀な奴だと笑うが良い。好きなだけ責めてもらって構わない。そもそも俺が後先考えられる性格だったらな、この身に魔王なんて匿っていないし、生まれ育った村から出ていくこともなかった。こうなったらトコトンだ。あとのことなんて他の奴が考えて救ってくれよ。


「俺には目の前のことで手一杯だってんだよ!」


俺はステージに飛び上がった。虚を突かれた司会者と、檻を搬送しようとしていた男をそれぞれ体術で意識を奪い、魔法で檻の鍵を破壊した。


「メイ!大丈夫か!?」


「うあああああ」と涙と一緒に内にたまった恐怖を全て吐き出そうとでもするかのように大声で泣きだした。双子少女たちもメイを包む形でその身を寄せて泣き出した。


「もう大丈夫だからな」


メイたちの無事を確認して油断していたのだろう。倒したと思っていた司会者の男がいつの間にか立ち上がり、片手剣を振り下ろそうとしていた。全く持って詰めが甘いな俺も。


「ぐわ」


しかし、その剣は俺に届くことなく司会の男は炎の砲撃に吹きとばされた。かろうじて息はあるようだが、今日中に目を覚ますことはないだろう。こんな絶妙な力加減をできるのは彼女を置いて他にいないだろう。


「全く仕方ないわね。本当に困った男だわ。勢いに任せて行動する人って私、本当に嫌いなんだけど。どうするのよ、ここからは」


心底、呆れたような口ぶりで加勢に来たエルザだが、その物言いとは裏腹に腕をぐるんぐるんと回し暴れる準備は万端とばかり、そう水を得た魚とはこのことだと言いたげな雰囲気である。


「あら?そんなに嫌でしたらさっさとお帰りになられればよろしいのに。空気を呼んでわたくしとエリック様の二人きりにしていただけませんか。夜はこれからなのですから」


「そうね、そうしてあげたいのはヤマヤマなんだけど、出口が見当たらないのよね。教えてもらっても良い?」


いつの間にか俺たちは囲まれていた。黒スーツの奴らはいつの間にか姿を消し、代わりに現れたのはそれなりの鎧に身を包んだ傭兵たちだ。それに加え、恐らくは調教済みなのだろう。魔物の集団も彼らに加勢する形で次々と襲いかかってくる。


俺も何とか奪った剣と子供だましの魔法でしのいではいるが、子供3人を庇いながらコレはきつい。シルビアとエルザがそのほとんどを相手してくれているとは言え、まずいな。何とか逃走経路を見出さないと。


「ちょっとアレは何なのよ!?」


エルザのいら立った声が向けられた先を見ると、ボロボロの布切れの身を纏った一つ目の大型の魔物が棍棒を持って歩いてきている。その体は2階建ての家に相当するほどの体長で、脂肪なのか筋肉なのか判別はつかないが、とにかくその一振りで俺の体を3度破壊してもおつりがくることだけは確かだった。


「あれはサイクロプスじゃな。知能は高いとは言えんが、戦闘能力に関して言えば昼間のガーゴイルに劣るまい。ククク、ちゃんと切り札も用意しているではないか」


「おいおい、ただでさえ手一杯なんだぜ!あんなのが戦闘に参加したら終わりだっての!」


「その前に貴様の命が終わりそうなんじゃがの。ほれ攻撃がくるぞ」


強大な魔力が放たれるのを感じた。直感に従い、メイたちを抱え咄嗟に前方へ回避行動を取る。鋭い攻撃魔法が俺の後方を鋭く駆け抜けるのを感じた。周りの魔物の断末魔が短く発せられたかと思うと、石の壁が破壊され崩れ落ちる音が聞こえた。直撃していればマイラの言う通り、ここで命が終わっていた。


音のしたほうを見ると、風が穴が空いており、僅かであるが風を感じる。外につながる道だ。それに今なら先ほどの攻撃で敵はなぎ倒されており、一本道だ。


エルザは既に脱出経路に向かって走り出していた。


「シルビア、こっちだ!」


戦闘に目を輝かせていたシルビアだったが、なんとか欲望に打ち勝ってくれたらしく。あからさまに残念そうな表情を浮かべながらも逃走を開始した。


後ろを振り返る。己の利益を無に帰した乱入者は逃すまいと剣を高くかざしながら雪山が雪崩を起こすような勢いで追いかけてくる。その後ろからは巨体からは想像ができないほどの速さでサイクロプスがグングンスピードを上げて距離を詰めてきている。


その一団から巨大コウモリのような魔物が飛び出してくる。両手に女の子3人を抱えている俺は追いつかれまいと足に力を入れる。


その瞬間、壁の向こう側から炎の柱が飛び出し、俺の頬を掠めた。激しい爆発音のあとにドサっと魔物が倒れたような気配も感じた。攻撃のもとを辿ると壁の宇高川で息を切らしたエルザがちょうど地面にへたりこむ姿が見えた。足に力が入らないくらい限界が来ていたのだろう。


助かった。しかし、それでもあと数メートルというところまで追手は迫っている。くそう!がんばれ俺の両の足よ!


「飛び込んでください!」


俺は反射的にその声に従い、頭から少女を抱える形で穴に飛び込んだ。もちろん、滞空時間で仰向けの体制を取り、メイたちには傷一つ付けさえないようにした。


壁穴を越えたと同時に視界の端に一つ目のサイクロプスが俺の足を掴もうとその大きな腕をこれでもかと伸ばしている姿が見えた。その手は俺の足に届くところにまできている。これはもうはっきり言ってお手上げだぜ。こうなったらあとは簡単だ。力いっぱい握りしめる。それだけで俺は成す術もなくとらえられるだろう。


そう覚悟していたのだが、サイクロプスが俺を捕まえる瞬間を訪れず、その馬車の車輪よりも大きなその手は時が静止したかのようにピクリともしない。それもそのはずだ。俺が穴に入ると同時にシルビアが穴を氷魔法で閉じてしまったのだから。


その腕は氷の壁の一部と化していた。


「助かったよ、シルビア」


「これくらい大したことではありませんわ。それよりも逃げるなら早くしたほうが良いかもしれません。別の道から回り込まれる恐れもないでもありませんし」


俺は腕の中にいるメイを見る。恐怖が限界に達したのか、それともやはり着地の衝撃を緩和しきれなかったのか。三人とも意識を失っていた。


「まずは安全なところまで運びだすぞ」









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