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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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人は見た目で判断しません(3)


「見ましたか?」


「絹のような光沢を放つ柔肌に、清らかな渓流のようになびく銀髪を持つ見目麗しいお前の姿ならバッチリ見えたぞ」


「いちいち比喩表現が気持ち悪いですね」


心の底から悪寒を感じているかのように眉間のしわをいっぱいに寄せたその表情は俺の好みではないため、すぐにやめて欲しい。コロコロとした表情で笑っていて欲しいものだ。全く、こんな少女が心から笑っていられない世界に誰がしたのか。


「間違いなく貴様じゃろうに。あまりに度が過ぎると寛容なその娘も口をきいてくれなくなるぞ」


それは勘弁してほしい。やっと久しぶりに心からリラックスして会話ができているというのに。何とか誤解を解いて俺の印象を改善しなくては。


「まあ、良いです。今回は不問とします」


しかしどうやら今回のことに関しては何とか許容範囲に収めてくれたらしく、俺の心配は杞憂に終わった。


「しかし、勿体ないな。そんなに整った顔立ちだったら隠すどころか見せびらかしても良いだろうに」


「やめておきます。あなたみたいな変態が寄ってきても困りますから」


「もしかして、エルフだってことを隠しておきたいのか」


ピク。っとその瞬間わかりやすく動きを止める。やはりそうか。その大き目のローブはエルフの特徴である銀髪や尖った耳を隠すためのものだったのだ。


「人間は嫌いです。私たちがエルフというだけで、まるで見世物の珍獣かのように扱います。この誇り高きエルフの五体は決してそのような扱いをされるためにあるのではないのです」


「だからそうやってローブで身を隠しているのか」


確かにエルフ見たさに町を訪れる人もいるっていうし、俺も最初は好奇の目で見てしまったことは否定できない。尊敬の眼差し、とはまた違うものなのだろう。それはきっと対等の関係とは言い難いものだ。人間の中にはエルフを自分の意のままにしたいと考える者もいただろう。その欲望を突き詰めればどんなことになるかは想像に難くない。


この子はきっとそれを知っているんだ。だからエルフであることを隠した。そりゃ、友達なんかできるわけがない。友人関係なんてのは自己開示していくことで築いていくものなのに、自分の正体を明かせないのでは。知り合うことすらできない。友人以前の問題である。


「だけどこの町では、そんなことしなくても別に大丈夫なんだろう?ジルのところのエルフたちは堂々とこの町で生活しているじゃないか」


「ジルに会ったのですか」


ジルの名前を出した途端、明らかに声色が変わった。触れてはいけない領域に踏み込んでしまったかのような恐怖を感じたが、俺は領主の名前を出しただけである。もし誰か罪に問われるとしたら名前を出しただけで機嫌を損ねられるジルが悪い。


「俺たちがジルの商売の損失を未然に防いだってことでご馳走してもらったってだけだよ。別に親しいって訳でもない」


「『俺たち』ということはあなたのような人間にも仲間がいたんですね。今日一番の驚きです。感謝してください。あなたと共にいるというだけでその人たちはいわれのない悪評に悩まされることになっているのですから」


「全く心当たりがないな。俺が住んでた村では女子供に優しい好青年で通っていたんだぜ」


「女子供というのは『女と子供』ではなく『女の子供』という意味ですよね」


「否定はしない」


「自分で言っといてアレですが否定してください。流石の私も身の危険を感じてきました」


何だかピりっとしてしまった雰囲気を和ますための冗談だったのだが警戒心を生んでしまったのなら申し訳ないな。女とか子供とかそんなことで俺は人を区別しない。可愛いか可愛くないかだ、重要なのは。


「今のセリフを声に出さずにいて良かったの。もし口にしていたらそこで終了、この子と会話できる世界線は消えておったことじゃろうよ」


「それで、ジルからは何か聞きましたか」


どうやら今までのやりとりこそが少女にとって場を和らげる冗談だったらしく、一息ついたこのタイミングで話を戻す。ジルから聞いたこと?


「そうだな。ジルがここの領主だってこと。エルフがここで働いていて、それを見に来る人たちもいるってことと」


一見すると俺と一切目を合わせず、聞き流しているようであるが、微動だにせず静止しているその姿は俺の話からほんの少しの違和感すら見逃すまいとしているようにも見える。


「そのほかには、うーん。あとは奴隷商がこの町で悪さをしているってことぐらいか」


「ジルがそう言ったのですか」


「ああ、ジルも手を尽くしているが解決の糸口もつかめないらしいな。そういうことに手を出す奴らは抜け目ないからな。捕まえるのも容易じゃないだろうよ」


少女は神妙な顔つきで黙り込む。俺としたことが不安にさせてしまったようだ。人さらいが近くにいるだなんてこのくらいの年頃の娘にとっては恐怖でしかあるまい。


「心配するな、さすがの奴らも白昼堂々とは襲ってはこないだろうし、俺がいる間は守ってやっても良い」


「どうやって守るつもりですか。そんな奴らは人目につかないところに入った瞬間に襲ってくるでしょう」


「心配するな、トイレだろうが浴場だろうが俺が君を一人になんて決してしない。君がどこにいても俺が守る」


「誰かが現場に居合わせたらあなたが私を襲っているように見られるでしょうね」


「馬鹿な、俺がそんなことするような人間に見えると言うのか」


「そんなことするような人間のモデルケースですよ」


やれやれ、フェミニスト(使い方はあっているだろうか?)には生きにくい世の中になったものだ。誰かを守りたいという気持ちが疑われる日が来ようとは。


「ねえ、また会ったね」


その少女との会話を楽しんでいるといつの間にか、先ほど買い物に熱中していた例の少女たちがすぐ横に立っていた。3人組の女子のうち二人は肩にかかるほどの髪で、切っている人が同じなのか、幼い顔も相まってまるで双子のような出で立ちである。


その二人の女の子の前に立ち、俺たちに話しかけた女の子はうなじが露わになるほどの長さで、前髪も眉のかなり上のほうで一直線に切りそろえられているパッツンである。すでに買い物は終えたようで、手には購入したと思われる紅い花が一人1輪ずつ握られていた。


それにしても「また会った」とは?俺とこの子たちは初対面のはずだが、知らないうちに知り合っていた?そんなはずはない。俺が出会った少女の顔と名前を忘れるはずがない、絶対にだ。


「男の顔などすぐに忘れてしまうというのにのう」


男の顔など覚えていても何の得にもならん。「へのへのもへじ」にしか見えないし、それで十分だ。


「あなたたちと会ったことなんてありませんが。人違いではないですか」


しかし、どうやら面識があるのは(残念ながら)俺ではなく、先ほどまで俺が話していたエルフの子のことらしい。もしかして俺が仲を取り持つまでもなく既に何らかの交流はあったのだろうか。


「昨日もほら、教会の近くで私たちのこと見てたでしょ?そのまえは畑で、そのまた前は風車の近くで。近づいたり、話しかけようとするといつも逃げるんだもん。だけど今日はこうやって話しかけられて良かった」


なるほど、このエルフは今回だけでなく、いつもこの女の子たちを尾行しているらしい。しかも仲良くなりたいのに、先ほどの葛藤もあり、近寄れば逃亡を繰り返していたのか。


「今回は貴様に気を取られて逃げ損ねたというわけじゃな」


当初の予定とは違ったがコレはこれで良しとしよう。さて、女子供に優しいお兄さんが力を貸してやるとしよう。


「その手に持っている花は誰かへのプレゼントか?」


「うん、そうなの。私たち教会に住んでるんだけどね、毎月お小遣いがもらえるの。いつもどうやって使うか悩んでるんだけど、今回はシスターへのプレゼントを買おうってみんなで決めたの。シスター、お花好きだから」


「なるほど、なるほど。そのシスターは優しいか?」


「うん、困ったときはいつも助けてくれるし、悲しいときは抱きしめてくれるんだよ」


「そうか、そうか。ちなみにナイフを人に投げつけたり、縄で人を縛り付けたりはしないかい?」


「そ、そんなことは絶対にしないよ!悪いことしてもちょっと小突かれるくらいだよ」


「そうか、ならば良かった。覚えておきなさい。世の中には副業でシスターをやっているとしか思えないような暴力シスターもいるんだ。そんな人にあったら懺悔なんてしちゃいけないよ。弱みを握られるからね」


「う、うん」


オデコがキュートな女の子は困惑しながらも、年上の言うことに素直にうなずいて見せた。そうか、本物のシスターか。俺も一度は会ってみたいな。


「貴様にどう見えているか知らんがエルザもれっきとしたシスターなんじゃがな。あの年齢で中級攻撃魔法を使いこなすばかりか、上級防壁魔法も使えるシスターなぞ、他におらんじゃろうに。仲間としては破格の条件じゃぞ」


破格の条件かもしれんが性格が破綻はたんしてんだよ。何度殺されかけたことか。まじで飛王竜なんかよりも怖えよ。


「その花は部屋に飾られるのですか?」


ずっと沈黙を守っていたエルフの少女はあくまでも遠慮がちではあるが口を開いた。


「うん!シスターいつもお花を自分の部屋に飾ってるからこれもきっと飾ってくれると思う」


「それでは花を交換したほうが良いかもしれませんね。その花は香りが強すぎます。屋外では程よく香るかもしれませんが、屋内では強すぎる匂いにかえってストレスを感じてしまうと思います。先ほど眺めていたお店に香りも程よく、また花瓶に差しても長生きする花がありました。それにすると良いですね」


さすが本来は森に住むエルフ。植物に関しての知識はずば抜けていやがる。それにしてもエルフは人間よりも目が良いとは言え、遠くの店の花の種類もわかるほどガン見していたとは、恐れ入ったぜ。仕方ない。二代目ノゾキミストの称号を与えてやることもやぶさかではない。


「えっ。そうなの。どうしよう。花は生き物だから返品はもうできないってさっきお店の人に言われちゃった。これじゃシスターに喜んでもらえないよ」


さっきまでの明るい表情からは打って変わって、急に泣き出しそうな顔になるのを見て、俺は胸が締め付けられる気持ちになった。ようし、こうなったら俺が行ってやるぜ。なんなら有り金全部はたいて花を買い占めてやるぜ。少女たちのためなら安い買い物だぜ。


「貴様は本当に女をダメにするタイプの男じゃな。貴様に妹がいなくて心底良かったと思っておるわ」


「ばかな、俺は妹には厳しい男だ。毎朝起こしに来るよう言いつけ、異性へのあこがれなど根こそぎ奪って兄貴ぞっこんラブな妹に育て上げてやるぜ。できればこの場合、実は血のつながっていない義理の妹だったというほうが望ましいがな」


「貴様の倫理観はどうなっておるのじゃ!」


『少女は世界の共通財産』それが唯一にして絶対の命題ですけど何か?それ以外のことは割とどうでも良い。それが俺の倫理です。例外は認めないというのが倫理の基本スタイルらしいことをかんがみれば、俺の倫理観も評価されて然るべきだと思うのだが。


「私がいきます」


マイラとの会話に気を取られ、外からは棒立ちしているようにしか見えない俺を制してエルフの少女が幼くも、しかし有無を言わせない力強さを持って言い切った。


「返品不可能というのは、購入後にしおれた花を返されても困るということです。買って間もない今ならば交換は可能なはずです。大丈夫です。もし断られたとしてもなんとか交渉してみますよ。こう見えて場数は踏んでいますから」


そう言うと、持っていた本を置き、彼女たちが持っていた花を受け取るとスタスタと迷いなく歩き始めた。


「私たちも行くよ。私たちのお花なんだから」


「いいえ、ここでその変質者を見張っていてください。この一件が片付いたら町の屯所とんしょへと突き出すことになっていますから」


何だと?変質者がいるのか。それなら俺も残らなければ。この子たちは俺が守る。特におでこちゃんのひたいは国宝として死守する所存だ。


「だから変質者は貴様のことじゃ。次から次へと新しいフェティシズムを開拓するな。ひたいフェチとか聞いたこともないわ」


少しずつ離れていく彼女に届くように、おでこちゃんは両手を筒に見立てるように口にあてながらエルフの少女に呼びかけた。


「ねえ!そういえば名前聞いてなかったよね?名前なんて言うの?わたしはメイ!メイっていうの!」


「メイ。いい名前ですね。私はメイヴと言います。なんだか似ていますね。花を交換してきたら他の友達の名前も教えてもらえると嬉しいです」


そう言いながら市場の人込みに入り込んでいくその姿はどこか楽しそうに、嬉しそうに見えた。「人間は嫌い」と言ったのは本心ではないのだと、ヤケに大きく手を振りながら歩くその姿が証明している。




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