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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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人は見た目で判断しません(2)


宿はジルが手配してくれた。


木造建築が主だった村で育った俺にとっては石造建築の宿屋は目新しく、子供のようにわくわくしてしまった。「そんなに喜んでいただけるとジル様も嬉しいと思います」と、よほど俺たちの目が好奇心で輝いていたのか、案内役のエルフはどこか誇らしげに笑みを浮かべていた。


 給仕係は全てが女性のエルフであったが、どうやら当たり前ながら男のエルフもいたらしい。エルフは長寿である。生きてきた年月は伊達ではないのか。見た目は俺と同じ年齢に見えるが、村の村長ぐらいの余裕が感じられる。


 3階建ての部屋から見える夜景は美しかった。建物の中から漏れている明かりはもちろんのこと、町の至るところで芸人が己の技を披露したり、それを肴に酒を飲んだり、それぞれが自分なりのやり方で夜を楽しんでおり、その姿一つ一つが夜の町を彩っていた。もう日が暮れているというのにも関わらず、人の往来はまるで減っていない。


 俺たちが住んでいた町も、これまでに通ってきた町や村も日々生きていくだけでやっとで、その過程に娯楽を見出していたものだが、娯楽そのもののためにお金を払い、また娯楽を糧にして生活を営んでいる人がいるというのは平和の印なのかもしれない。


 夜景から目を離し、ドサッと体をベッドに預けてそんなことを考えているうちに俺は強烈な睡魔に襲われた。そうだ、ついでにマイラに会いにいくか。ちょっと思いついたこともあるし。


 朝が来て、シルビアとエルザそしてキースは早速、奴隷商を捕まえようと出かけて行った。恐らくは奴隷印でよからぬことを企んでいると思うが、それがこの都のためとなるのであればコレ以上のことはないだろう。


 俺はもちろんバックレた。奴隷商の存在は許されることではないが、それはあくまでこの都に住む人たちの問題だろう。それにジルのように都を守ろうとしている奴らが長いこと手を焼いている奴らを俺らが2,3日でどうこうできるとも思わないからな。


 存分に観光してやる。そのために昨夜はわざわざ真理図書館イデア・ライブラリーに足を運んでこの村の観光名所を下調べしたんだからな。長いこと顔を合わせていなかっただけにマイラが少々機嫌を損ねていた(というか泣いていた)が、俺の膝の上に座ることを許可した途端にまるで雨上がりの青空のような笑顔になった。


 ちょうどマイラの頭が顎のところにあったので、寄りかかるように読書ができたおかげで俺も楽な体勢で努力に集中することができた。


 「『商業都市ヘルメス 完全制覇ガイド 改訂版』をそんな熱心に読むとはついに貴様も魔王様のように世界征服に乗り出す気になったのかのう」


 期待を裏切るようで若干心苦しいが、俺が攻略しようとしているのは「幸運の一本杉」とか「縁結びの泉」とかである。確かに領主の屋敷への忍び方とか、ターゲットの奇襲ポイントなどの情報の詳細が盛りだくさんであったが、そんなものは知らん。


 日があるうちはそこらへんの観光名所を手当たり次第訪れるつもりである。そして日が落ち、時が来たら、今回の下調べに置いて最も俺の関心を引いた店、「セクシーウィッチ」という店に行くのだ!


 どういう店かは説明は省く。しかし一人の男として行かねばならない場所なのだ。ええ、やましい気持ちなどまったくありませんよ。


 そんなことを考え、まだ朝も始まったばかりだというのに忙しなく足を動かす人々の流れに身を任せ歩いていると、広い場所へと出た。


 それは全身を巡った血液が心臓へと戻り、再び遠い指先まで旅をする様子を連想させた。この広場に通ずる道からは次から次へと人が流れ込み、そして一面に並び立つ商売小屋を物色し、そこで食べ物、工芸品や衣類などを購入し、それぞれが来た場所へと戻っていく。


 「おー、こりゃすごいな」


 「あまりキョロキョロするでないわ。そのようでは田舎者と額に大きく書いておるようなものじゃ」

 

 「実際、田舎者なのだから良いじゃないか」


 「たわけが、勝手が分からぬ旅人ほど騙しやすいものはおらぬわ、よからぬことを企むものにとってはな」


 確かにマイラの言うことには一理あるな。景色一つひとつに表情を変えるなど自分がこの町に来たばかりだと宣伝するようなものか。では、ここの住人がどのように振る舞っているか観察してみようか。」


 俺は広場の中心にある噴水の近くに腰を下ろした。どういう仕掛けだろうか。中央に設置された白い石像の持つ杯から際限なく水が溢れ続けている。その水は太陽光に反射してまるで液状化したダイヤモンドのように輝いていた。


 「どうなっているがわからないが、見ていると和むな」


 「ふん、恐らくは魔法か何かの技術を応用しておるようじゃが、たかが噴水にそんな工夫を凝らしてどうするつもりなのか理解に苦しむのう。そんな暇があるなら防御魔法の研究にでも精を出せば良いものを」


 「無駄なことに全力に取り組むから面白いんじゃないか。必要性に駆られた努力からは創造性が失われてしまうぜ」


 「それはキースが仕事を怠けるときの決まり文句じゃな」


 カッコよくて言ってもだめか。好きなことだけやって生きていきたいものだ。


 若干の沈黙が続いたため、話題のネタを見つけようと視界を探ると3人組の少女たちを見つけた。彼女らはちょうどニーアと同じくらいの年齢に見えた。質が良いとは到底言えない、修繕を繰り返した跡が見えるワンピースのような衣服に身を包んでいる。大事に両手で何かを握っているのが見える。太陽光で一瞬光ったところを見るとどうやら銅貨か何かだろうか。


 店頭に並んだ商品を眺めては顔いっぱいに笑顔を広げるが、値段を確認すると瞬く間に収縮していく。久しぶりにもらったお小遣いで買い物中というところか。


 「なんじゃ、あのぐらいの年頃の娘がやはり貴様の好みなのか。止めておけよ。余のような非現実的な存在ならまだしも、現実であのような少女に手を出せば社会的に死亡じゃ、いや貴様に限って言えばシルビアに知れた時点で物理的に死ぬの」


 「そんなんじゃねえよ。ただやっぱり無邪気な姿に心癒されていただけだ。決して他意などない。そう愛玩動物を愛でる愛好家のような心持ちだ。恋愛感情じゃない。ただ横に置いて愛でたい。あの無邪気な笑顔に癒されたい。現実の女子なんて俺の心をただただ追い詰めるだけの存在だぜ」


 「少女を愛玩動物に例えている時点で多少の危機感はもっておけよ。自覚がない変質者ほど恐ろしい者もおらんじゃろ。それに現実の女子がシルビアとエルザを指しているのなら、それは間違いじゃと言うておこう。あの二人が異常なだけで、普通の女というのは少なくと男を少女好きの変態にするまで追い詰めたりせんわ」


 「誤解をしているようだな、マイラ。安心してくれ、俺は年上もイケますよ」


 「貴様が言葉を重ねるたびに余の不安は募っていくばかりなのだが」


 「おいおい、人を異常者扱いするのはもう止めてもらおうか。このままでは俺が幼い女子にしか興味がないみたいじゃないか」


 「そのとおりじゃろうが、では貴様は幼い男子に癒しやらを感じるのか」


 「何を言っているんだ」


 俺はつい語気を強めて否定してしまった。しかし悲しいぜ。マイラにそんな風に思われていただなんて。


 「いや、すまん。少々疑ってしまった、そんな訳あるはずが」


 「あの年頃の少年なら俺にとっては少女みたいなものだぜ。俺は性別で差別はしない」


 「前半部分のせいで、後半の意味が著しく犯罪性を帯びてしまっておるわ」


 どうしたというんだ?あのぐらいの年頃でれば特に性別になんて関係ないだろう。男の子がお母さんに連れられて女の子と水浴びすることだってあるんだから。俺だってそのときのことは覚えている。というか鮮明に記憶に刻み付けた。


 ふむ。どうやらマイラの勘違いを糾すことには失敗したようだな。そう思い、何と無しに右側を見ると、俺と同じく噴水に腰かけている小さな女の子の姿があった。


 ローブを着ているが、その小さい体には大きすぎるのだろう。今は座っているが立ち歩くと引きずってしまいそうなくらいマントの部分は長く、かぶっているフードは顔の大部分を隠してしまっていた。


 手には本を持っており、一見するとただ読書をしているように見える。しかし俺にはわかる。あの少女只者ではない、何かを監視している。その少女の視線は本のページではなく、さきほどの買物を楽しんでいる女の子たちに注がれていた。手に持っている本はカモフラージュに過ぎない。


 「ふうん。そうだとすれば、見抜いた貴様は大したものじゃが。なぜそう思うのだ?」


 「あれは俺が子供のころの話だ、村の女子が仕事着やら部屋着やらへの簡単な着替えを行うときに『いや、俺は別に気にしていないから全然どうぞ』という雰囲気を作り出していた高等技術の応用だからだ。しかし俺に言わせれば甘い!頭が上がりすぎている!本のページと自分の頭頂部が平行になるように固定し、上目遣いをするようにしなければ相手に悟られてしまうじゃないか」


 「ああ、貴様がたまにしていたあれか。村の娘どもはとうに気づいておるぞ。上目使いでより不自然な分、一層気色が悪いと噂であった」


 「何でそのことを知っていて黙っていた!?」


 まあ、俺のことは置いておいて。子供が自分と同じ年頃の子を眺める理由なんて仲間に入れて欲しいからに決まっているだろう。こうなったら仕方がない。人生の先輩としてこの子の助けとなってやるか。


 「変態のロリコンに教わることなどないだろうに」


 ロリコンという言葉の意味は分からないが、なんとなく響きが気に入った。ロリコン。いいじゃあないか。


 こういうときは第一印象が大事だ。堂々と移動し、さわやかな笑顔を浮かべて紳士のように心の距離を埋めるんだ。


 「やあ、こんなところで何をしているのかな。何か困っているなら、お兄さんが力になってあげようか」


 「笑顔が気持ち悪いです。近寄らないでください」

 

 裏目に出てしまった。笑顔が気持ち悪いだと。いやいや待て、動揺するな、きっと知らない男に話しかけられて警戒しているだけだ。きっと両親の教育が良いのだろう。うん、関心、関心。


 「大丈夫だ。びっくりさせたかも知れないが、俺は全然怪しいものじゃないんだ」


 「こんな平日の真昼間から噴水に腰かけて、年端も行かない少女を気持ち悪い笑みを浮かべて10分強眺めているような男の人は十分怪しい人です」


 確かに客観的に説明されると怪しさ満点だった。こいつ、俺のことに気づいていたというのか。まずい、この誤解を解いておかなければ後程、通報されてしまうかもしれない。


 「待て、そんなことはしていない」


 「では、何をしていたんですか」


 「まるで愛好家が愛玩動物を愛でるように、年端もいかない少女をこの両目で眺めて、癒されていたのだ」


 「衛兵さーん、変態はここですよー!」


 「やめろ、違うんだ!」


 結局、通報されてしまった。しかし幸いにも近くに衛兵はいなかったようで精々、道行く人からゴミを見るような目で見られただけだった。そんな目で見られることは慣れているため(主にエルザから)ノーダメージである。


 「で、結局は何のようなんですか」


 どうやらここまでのやり取りで、危険性はないと判断してくれたか。とりあえず会話をしてくれる気にはなったらしい。


 「いえ、疑いはむしろ増しましたがここで動機を聞いておいたほうが後々法廷で有利になるかと」


 どうやら正式に容疑者として認定されたらしい。ふん、全くいつから美少女を眺めることが犯罪になったのか。少女は人類の共通財産だろうが。


 「そろそろ、余も貴様を弁護出来なくなってきたぞ」


 顧問弁護士が根負けしたようなので、本題に入ろう。


 「お前、あの子たちの友達になりたいんだろう?もしあれだった俺がきっかけを作ってやろうか」」


 その瞬間、その女の子は勢いよく視線を上げた。その勢いでフードは外れ、表情が露わになる。思いがけない提案に思わず飛びつきたいと言わんばかりの期待いっぱいの表情、しかし一瞬にして我に返り、慌てて外れたフードをかぶり直した。


 本心が表情に現れるのを恥じた。それもあるだろうが、彼女が隠したかったのは他にもあったのだろう。そのシルクのように白い肌、銀のように光輝く髪、そして尖った両耳、それはエルフである証であった。


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