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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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初めて竜を退治します。(11)


 「『宝玉』をどこか人目につかない場所に隠しておくべきだったということはわかっている。だから聖堂に据え置いたのは単なる私情だ。我がままだったと言っても良い」


 私情。何を思ってそうしたのかは俺にはわからない。ジークにとってあれがどういう意味を持つものなのかも正確に推し量ることなどできない。ただ、それは間違いなく、ルーシイさんやエルザのことを想ってのことだということはわかる。


 「せめてもと思い、俺は持ちうる限りの知識と魔力を持って結界を形成した。現代においてあれを解除できるものはいないと踏んでいたが、どうやら慢心が過ぎたらしい。結果として村を危険に晒してしまった」


 「おいおい、らしくもないことを言うなよ。今回の件はどう考えても村を襲撃した奴らが悪いだけであってお前に非はないだろうさ。お前はお前にできることをしてくれたよ。ほら、ちゃんと警告のようなことまで言い残してくれたじゃないか」


 「さすがに『宝玉』を目的に襲撃があると予想した訳ではないがな。まさかお前に庇われる日が来るとは思わなんだ。少し昔のことを思い出して感傷的になってしまったようだ」


どうやら今回の襲撃についての心当たりがあったというわけではないようだ。しかし、そうすると益々ジークが先日の遠征でなぜ不安を抱いていたのかということについての疑問が増していく。


 「俺がこの村にも危険が及ぶかも知れないと感じた理由と、俺が最近頻繁に村を空けることになった理由とは決して無関係ではない」


 ジークはここ最近、月に1回の頻度で村を出ている。そうして村を出ると2~3日は帰ってこない。長い時には10日村を空けることもあった。


 以前にも、そのように他の町や村に助けを求められることもあったが年に数回近くの村や町へ奉仕活動に行く程度であったし、1一度に7日以上も村を空けることなど年に一度あるかないかだ。


 薄々ではあるが村の住人は誰でもそのことに違和感を感じている。しかし、ジークが説明をしないということは何か意図があるのだと、誰も問いただすことはしない。


 普段は粗暴で無茶苦茶な振る舞いが目立つ男ではあるが、それ以上に他人(俺以外)を慮る男でもあるのだ。秘密にするのであれば、そうする必要があるということだ。それは他でもない俺たちのためなのである。


 「それで、その理由というのは教えてもらえるものなのか。ここまで話してくれたんだ。ここであとは秘密というのは無しだぜ」


 「3だ」とジークはその本数分、左手の指を立てて見せた。普通は人差し指、中指、そして薬指を立てるものだがジークは薬指の代わりに親指を立てていた。それだけで相当の捻くれものだということが分かるがそれどころではない。


 「もったいぶるなよ。なんだエルザに言い寄ってお前に消された男の数か」


 「もしそんな奴がいれば犠牲は1人だ。その1人を見せしめにするため、同じ過ちを犯そうとする考えが浮かばないように凄惨な目に合わせてやる」


 「お前はさっきのことを微塵も反省していないようだな。」


 「そしてその一人はお前になるのではと俺は確信しているのだがな。せいぜい抵抗して見せることだ。お前があがけばあがくほど、盛り上がるというものよ」


 「お前は気づいていないようだな。そのような挑発が踏んではならない虎の尾を何度踏みつけていることか。圧政を強いていた牧師が成敗されるところを披露してやるぜ」


 そんな軽口を叩く。この先に深刻で切迫した事実が待っているということがわかるからこそ強がる。これは俺の癖のようなものだ。覚悟が決まるまでの時間稼ぎだと言っても良い。


 ジークは俺の心の準備ができるのを待ってくれたようだ。そして少し間を置き、その口を開いた。


 「この3か月で全滅した町や村の数だ。建物は無残に破壊され、住民は皆殺しだ」


 「皆殺し」言葉としては知っているが、想像できない。いや、したくない。言葉通りだろう。1人、2人の生存も許されない。そんな惨憺たる状況が頭に浮かぶことを心のどこかで頑なに拒んでいる。


 「その村や町にも、『宝玉』のような魔法具があったのか?それを狙う襲撃ということなのか?」


 「そのようなものは確認されていない。略奪など行われていない。そこにあるのは虐殺の痕跡のみであった。そしてそれらは魔族によるものであると判明している」


 魔族。数年前の『聖戦』にて魔王軍に加担した種族の総称。そう考える人もいるが順序が逆である。魔族であるから魔王軍に加担したのだ。


 教会の信教において神意に背く存在として「神命戦争ラグナロク」の時代から淘汰されるべき存在と記録されている。


 神の使いとして現存している種族は人族、エルフ、ドワーフのみである。それ以外の種族は魔族とされている。


 魔王は教会の信仰に剣を向けた。それは神意に背くことであり、人間を敵に回し、魔族の味方をするということと同義なのだ。そして数年前に魔王は敗れ去り、魔族の多くは人間に殺された。


 俺の中にいる魔王は、復讐の機会を望んでいるのだろう。虎視眈々と復活の刻を待ち、今度こそ俺たち人間を滅ぼさんと心に誓っているのだろう。


 そして、怨嗟の念を抱いていものは魔王ばかりではない。


 「あれは殺すことが目的で殺している。生きるために殺しているのではない。憎しみがそうさせる。対峙したからこそわかるものだ」


 「魔王軍の残党が暴れているっていう訳か」


 「ああ、報告の中には当時の幹部らしきものの姿も見られたという。奴らは再び集結しつつある。このままでは『聖戦』の再来ということも考えられる」


 俺の胸の鼓動は自然と高まる。魔王軍の終結、『聖戦』の再来、それは魔王の復活を意味しているのではないか。俺のなかであいつはそこまで力を取り戻しているというのか。


 「このまま奴らの好きにさせておけば、戦況は悪化するばかりだろう。現在、奴らは小さい集団で村や町への襲撃を繰り返しているだけだ。1つの集団として統率が取れた動きを見せていない今が叩くチャンスだ」

 

 口ぶりから察するにすでに襲撃を受けた町や村は3つどころではないのだろう。辺境にあるこの村にまで応援要請が来るほど困窮している状況になりつつあるということか。


 「それらの襲撃はこの村から遠く離れたところでしか起こっていない。いつこの村まで戦火が及ぶかわからない。しかし、そうさせるつもりは決してない。それにそうなるとしてもまだまだ先の話だと踏んでいた。お前に一言残し、村の警護に小隊を置けば何事もない、十分すぎる配慮だと楽観視していた。つくづく俺も間が抜けている」


 そんな状況にあったなど知らされてなどいない。俺たち村の住民はジークが魔族の襲撃の防衛にあたっているなか、いつもと変わらない生活を送っていたということか。


 「王都からの情報網はどうなっているんだ。そんな重要な話なら村を行き来する行商か、町の役人から連絡があって然るべきだろうが」


 その情報があれば今回の襲撃にだってもっとまともな対策が講じられた。


 「意図的に伏せられていた。言っただろう、この村まで戦火は及ばないと考えられていたのだ。そうであれば悪戯いたずらに住民を不安にさらすことはないということだったのだ。不安が募れば、人間がどのような行動を取るか、あの戦いで俺たちは十分に教わった」


 恐怖にかられた人間がどのような行動を取るか。真理図書館イデア・ライブラリーでのある一節を思い出した。


 戦いによって摩耗し、物資すらまともに届かなくなった集落の中には、その数少ない食べ物や資材を争い多くの人が息絶えた場所もある。救援隊が到着した時には住民が互いに争い合った痕跡が残されるのみだったという。


 読んだ俺でさえ、顔をしかめたくなる場面にジークは実際に立ち会ったのだと想像に難くない。その時、お前は何を思ったのか。


 「俺は明日にでもまたこの村を空ける。今回戻ったのは最後に『宝玉』の結界を張りなおすためだったが、どうやら無駄足だったようだな」


 「お前、また行くのか?しかも明日だって?」


 ジークが強がっているため失念してしまいそうになるが、この一か月まともに休んでいないはずだ。移動の馬車では寝ているだろうが、そんなもの休息には入らない。そのうえ現地では命のやり取りをしているのだ。気が休まるどころの話ではない。


 「世界が俺を求めているんだ。それなら行かないわけにいかないだろう?何だ、お前だけは喜んでくれると思ったが。俺は当分の間戻ってこない。此度の残党どもをまとめて消し炭にするまではな。だから安心して、その間にエルザと会えるじゃないか。わざわざ、俺の動向を探る必要もない」


 俺がジークを避けてエルザと会っていたことなどお見通しか。いや、そんなこと今はどうでも良い。


 「また村が襲われたらとか考えないのかよ。今度こそやられちまうかもしんないぞ」


 もう『宝玉』の魔力に頼ることもできない。戦力という戦力などこの村には無いのだ。シルビアが毎回手伝ってくれる保証もない。


 「安心しろ、これから先、騎士の奴らが交代で常駐することになった。普段頼りなさそうに見えるが、先日村を襲ったという傭兵程度なら十分に渡り合える連中だ」


 本当か?お前ひとりに苦戦していたぞ。


 しかし、ジークがここで冗談を言うとは思えない。あの人たちは信頼に足るということだろう。少なくとも、あのジークが不在の間に最愛の娘を預けるくらいには。俺のときとは比べ物にならないくらいの信頼感である。


 「もう、あの惨劇は繰り返させない。『宝玉』はもう二度と使用されることなどない。俺の娘、そしてそのまた子供たちの命が脅かされることのない世界を今度こそ実現させる。魔王復活などという悪夢は俺が許さない」


 俺は自然と自分の胸に強く拳をあてていた。「魔王復活」。もしそれが為されることがあればそれは間違いなく、俺のせいだ。


 ジークが真に世界の救済を望むのなら、真にうち滅ぼすべきは目の前にいるのだ。俺の存在はジークを裏切っている。いや、世界を裏切っている。


 こうなって思い知らされる。


 もし、魔王が復活すれば、今回のような襲撃は繰り返されることになる。誰かの最愛の人が俺の行いによって殺される。俺はその事実を受け入れたと思っていたが、どうやら単に理解できていないというだけだった。


 どうか他の誰かを救ってやってくれなど、願う権利は俺はとうに持ち合わせてなどいないのだ。


 「大丈夫か、エリック。顔色が悪いぞ。お前でも不安になることがあるんだな」


 俺が話を聞いて不安になったと思ったらしいジークが心配そうに顔を覗いてくる。不安になどなっていない。後悔に胸が押しつぶされそうになっているだけだ。


 「まあ、お前は安心して俺の帰りを待っていてくれれば良い。今回はエルザの身を守ってくれとも言わん。あいつらもいるしお前にもうそんな機会は訪れないよ」


 さて。とそう言いながらジークは来た道に引き返し始めた。


 「もう良いだろ。俺も準備があるし、残りの時間はエルザとともに過ごしたい。いつもなら煙たがられるのだが、今回ばかりは我がままを聞いてもらえるだろう。いや、本当に反抗期はつらいな」


 「なあ、一つ聞いても良いか」


 言うべきこと言い切ったと迷いなく足取りを進めるジークを、しかし俺は呼び止めた。聞かずにはいられなかった。この胸に渦巻く感情を少しでも鎮めたかった。藁にもすがる思いで俺は問いを口した。


 「もし、俺が村の誰か、例えばニーアを救うために魔王軍の仲間となって多くの人間の敵になるとしたらどうする?」


 殺すことになったらどうする?とは聞くことはできなかった。言葉を変えても事実は変わらないというのに。


 「なんだ、倫理の問題か。お前、牧師にそんな問いを投げるなんて勇気があるな。いやむしろ殊勝な心掛けだとほめるべきか」


 支離滅裂な質問な上に、タイミングも最悪。聞く人が聞けばあまりの不謹慎ぶりに激怒されてしかるべきだろう。しかし、ジークはそんな問いを邪険になどせずに、受け止めてくれた。


 俺がどんな意図で質問をしているのかはわからないだろうが、どんな気持ちで質問を投げているのかは見透かしているようなやつなのだ。そんなところに村の多くのやつらが救われている。


 あー、そうだな。とこめかみを指でかきながらジークはっきりと答えた。


 「お前をぶっ殺す。どんな理由があろうと人間の敵は俺の敵だ。安心しろ、そのあとにニーアは俺が助けてやるよ」


 そうだよな。お前なら魔王だって倒してくれるさ。例え、その依り代が俺だとしてもな。そう考えて、少しだけ気が軽くなったような気になった。


 エルザの幸福を壊すのは、やはりジークではなく、俺自身なのだ。


 

 

 




 

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