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【後日談、或いは前日譚】訪れたるは新たな、狂った恋物語の兆し


皆さん、お久しぶりです。島田莉音です。


この度、シリーズの新作としてチビナの物語を投稿することにしましたので……

こちらにも、前日譚(※多少内容が違う前日譚を、新作にも投稿予定です!)を投稿させていただくことにしました!


ちなみに、チビナの作品タイトルは『小さな邪竜は初恋を手放さない。』です!

更新開始は9月20日(日)より開始となります!


登場キャラの都合上、今までのシリーズものとは傾向が違う作品になります。

グロあり、残酷描写ありな恋物語であるのは変わらないので……興味がある人はどうぞよろしくお願いしまーす!

【注意!】ただし! 読む人によって合う合わないがあるので、苦手だなっと思った人は読まないよーにしてください! 自衛大事!


ではでは、最後のご挨拶〜。

今後とも〜よろしくどうぞっ( ・∇・)ノ


島田莉音


 




 ーー《邪竜の花嫁》となってから、どれほどの時間が経っただろうか?



 人の一生は軽く越している。国が出来上がって滅びる以上の刻が流れた。

 気が遠くなるほどの時間が。常人ならば正気でいられなくなるほどの時間が経ったのは確かだ。

 それほどの時間、ミュゼは最愛の伴侶ーー《破滅の邪竜》ラグナに愛された。骨の髄まで愛され、愛され尽くして。人から《邪竜の花嫁》という人外に変化させられ、心も。身体も。魂さえも離れられなくほどに、変質させられた。

 そのためなのか……昔であれば直ぐに不安定になっていた(狂気に陥っていた)精神も安定し。今ではちょっとやそっとのことでは動じなくなった。


 しかしーー……。

 その日、夫である《破滅の邪竜》ラグナが連れ帰ってきた存在には。

 流石のミュゼも多少は驚かずにはいられなかったのであった……。



「すまん、ミュゼ……。コイツを預かることになった……」

「…………」


 サロンのソファで本を読んでいたミュゼは、入り口で固まる夫を見つめる。

 〝心底面倒くさいことに、どうしても断ることができない相手から呼び出された〟と言って出かけていった伴侶《ラグナ》。

 確かに行きは手ぶらであったというのに……帰ってきた彼の手では、緑色と橙色の鱗が混じった仔竜が首根っこを掴まれてジタバタと暴れている。


『はーなーせー!はーなーしーてーよぉぉぉ!』


 ギャーギャー騒ぐ仔竜。声からして雌《メス》ーーではなく、小さな女の子らしい。

 ミュゼはちんまい手足をバタバタさせるソレを、驚きに満ちた視線で凝視する。

 それから……朝とは比べ物にならないほどに窶《やつ》れたラグナを見上げ、その疑問を口にした。


「ラグナ……この仔は、一体……?」

「えーっと……関係性を無理やり当て嵌めるなら……姪??」

「…………姪!?!?」

「そう。なんかコイツ、色々とやらかしたらしくて?呼び出された理由がお仕置き兼ねて俺に預けるためだったみたいで……断りたかったんだが、無理やり押し付けられてな……。仕方なく連れ帰ったんだ……本当に悪い……」

『ぴゃぁぁぁぁぁぁ!お父様お父様お父様ぁぁぁぁぁぁぁ!!』

「煩っ……」


 衝撃的な言葉に間抜けにも口を大きく開けて固まるミュゼに、げんなりとするラグナ。そして、ついには泣き出した仔竜。

 混沌。まさに混沌としか言えないこの状況を変えたのは……騒がしさに何事かと顔を出した小さな邪竜の存在であった。


『うるさーい!誰ぇ!?お昼寝の邪魔するぐらい煩いのは!もうっ、何があったの!!』


 ーーバァンッ!

 扉を勢いよく開け放って現れた小さな、漆黒の竜。

 《破滅の邪竜(ラグナ)》の力を分け与えられて生まれた分体ーーチビナは〝ぷんぷんっ!〟という効果音が似合いそうなほど怒りながら、サロンへと飛び込んできた。


「あら……久しぶりです。チーちゃん」


 そんな小さな邪竜に。かつて自身の護衛役としてラグナから生み出されたチビナに、ミュゼは薄らと微笑みかける。

 彼はキョトンと。その小さな黄金の瞳を丸くしてから……ニンマリと、彼女に笑い返した。


『久しぶりだねぇ、おねぇちゃん。ぼくのこと、覚(・)え(・)て(・)た(・)んだ?』

「い(・)い(・)え(・)?今、思い出しただけですよ」

『あはっ!だ(・)と(・)思(・)っ(・)た(・)〜!』


 随分と酷いことを言われているというのに、言われた当ニンであるチビナはクスクスと笑っている。

 ミュゼがその存在を忘れていたことも。ラグナが自分が生み出した存在を気にかけないのも。チビナがそれを知りながら、笑っているのも。何もおかしくない。

 何故なら、ここにいるのは全員が壊れているからだ。

 繰り返された死で壊れた花嫁に、どこかが壊れている(異常性を保有する)竜。そして、その竜に生み出されたモノ。

 《邪竜の花嫁》ミュゼと《破滅の邪竜》ラグナは、互いに互いしか見えていない。二人だけの世界で完結している。気まぐれで他者を救うこともあるけれど、それは何か理由がある訳ではない。ただそんな〝気分〟だったからそうしただけで。ミュゼとラグナは伴侶がいればそれでいいと。それで終わってしまうフタリだ。

 そして、そんなラグナから生み出された存在であるからこそ。分体であったとしても、どこかが壊れている竜であることは間違いないチビナだからこそ。

 チビナはミュゼが自分から興味を失くす理由も理解できたし。チ(・)ビ(・)ナ(・)の(・)方(・)も(・)別にミュゼからも、本体《ラグナ》からも忘れられようが興味を失くされようが、ど(・)う(・)で(・)も(・)よ(・)か(・)っ(・)た(・)。

 とはいえ、会えば認識ぐらいはするし、会話だってする。

 チビナはラグナに掴まれて泣き叫んでいた仔竜の前で空中停止《ホバリング》しながら、本体《ラグナ》へと声をかけた。


『んでー?なんでこの仔、こんなに泣いてるのー?』

「ん?あー……思い通りにならない癇癪だろ。ま、お仕置きだからな。泣いてもどうしようもないし、どうにもしない」

『ふぇ?お仕置き?この仔、何かしたの?』

「と……そうでした、ラグナ。詳しく説明してください。一体、どういうことなんです?」


 ミュゼ達に問われて、ラグナは未だに『お父様ぁぁぁ!』と言いながら泣き叫ぶ仔竜をチラリッと見る。

 流石にこの煩さでは話の邪魔になると思ったのだろう。ラグナは仔竜の周りに膜を張るように遮音結界を展開し、更に逃げ出さないようにと丸い結界に閉じ込めて、サロンのテーブルに放り投げる。

 そこでやっと一息つけると言わんばかりに、愛しい花嫁の元へと移動し……その隣に腰をかけ、ぐったりとミュゼの肩に頭を預けた。


「あー……まず俺を呼び出した相手なんだが。所謂《いわゆる》親?的なヤツだったんだ」

「…………ラグナ、親なんていたんですね……」


 疲れ切った彼の頭を撫でながら、ミュゼは思わず呟いてしまう。

 なんせ、彼から親族の話が出たのは今日が初めてだ。驚かずにはいられない。

 だが、ラグナはなんともいえない顔で嫌そうに答えた。


「……アイツが親とか心底寒気がするが……まぁ、それでも一応親(仮)なんだ……うん」

「…………」


 永い付き合いであるからこそ感じた違和感。

 それ以上語ろうとしないラグナに、ミュゼはかつて彼が語った〝制約〟が働いていることに気づく。

 ミュゼはすりっと彼に寄り添い……。ラグナも握った手を親指で撫でながら、衝撃的な言葉を口にした。


「……とにもかくにも。コレは仕置きのために、俺に預けられた。母親の力を奪うために母親を殺そうとして。ついでに父親からの寵愛を得るために、他の兄弟も全員をぶっ殺そうとしたコイツには……思い通りにならない俺の支配下に置かれるのが、何よりの罰になるらしいからな」

「『…………はい??』」


 ーーピシリッ。

 ミュゼと、チビナが不自然に固まる。

 そんな二人の反応を見て、ラグナも〝分かる、そうなるよな……〟と納得顔だ。

 ギギギッと、壊れた玩具のような緩慢な動作で結界に包まれた仔竜の方を見る。

 ジタバタ、ジタバタ。見た目は仔竜ではあるが……見た目に反して、かなり凶暴らしい。家族を殺そうとしたとは思えない。

 けれど、忘れてはならない。竜は壊れているのだ。どこかしらがおかしいのだ。

 一個体一個体、何かしら異常性を有している。この仔竜だって漏れなく、その異常性を保有する。


「コイツの司るモノであり、異常性は〝強欲〟なんだと。簡単にいえば、とんでもない欲しがりだ。欲しいモンは殺してでも奪おうとするみたいだが……身内に甘いアイツらと違って、コイツを甘やかすつもりもない俺の支配下にいる限り、コイツは好き勝手できない。いや、させない」


 ラグナが甘やかすのはミュゼだけ。

 それ以外には甘くも、なんでもない。興味すらない。

 ゆえに、身内であろうがなんだろうが。罰することに躊躇いもない。容赦なく、切り捨てられる。


「そんな理由で適任だと押し付けられたんだから……本当、迷惑極まりないが……。預けられた以上、務めは果たすつもりだ。ミュゼに害をなされても困るからな」


 ーーパチンッ。

 ラグナが指を鳴らすと結界が消え、黒い粒子が集まり、仔竜の首に黒い首輪として巻きつく。

 ギュウッと強く首を締め付けられ、仔竜は苦しさから声にならない悲鳴を漏らした。


『…………!?』

「よく聞け、《強欲の罪竜》マリアン」

『……!!』


 声が発せなくなったらしい仔竜ーー《強欲の罪竜》マリアンが、ビクリッと震える。

 そこでやっと、今の状況が自分にとってよろしくないのだと理解できたのだろう。

 ラグナは自分との力の差を感じ取って、ガクガクと震え始めたマリアンに駄目押しをするかのように。邪竜の威圧を強めながら、言い聞かせた。


「俺は、お前の《強欲》を許さない。俺のモノを奪おうとすることを許さない。お前の暴虐を許さない。…………育てば俺に逆らえるとでも?今は雌伏の時だと?そんなはずないだろう。甘い考えは捨てろ。逆らうな。俺は《破滅の邪竜》だ。お前に甘い奴らとは違う。本当は、今直ぐにでもお前を殺してしまいたいぐらいには、貴様を煩わしいと思っている」


 ピキピキッと、その頬に漆黒の鱗が浮く。

 掴まれた手から、指先から伸びた鋭い爪が、マリアンの身体に食い込んでいく。


「だが、家族を大切にしている貴様の父からの懇願で、こうして預かってやったんだ」

『…………!』

「とはいえ、アイツが最も〝大切〟にしているモノを殺そうとしたお前に、アイツは憎しみさえも抱いている。じゃなきゃ身内を手放そうとしないアイツが、俺に貴様を預けるはずがない」

『………!!』


 喜んだかと思えば、悲しみ嘆きにくれる顔。

 ラグナは大きな溜息を溢しながら。面倒だという態度を隠しもせず、告げた。


「だから、反省しろ。大人しくしていろ。自分の思い通りにならないことがあるのだと理解しろ。そうすればいつか……アイツから許される日がくるかもしれないぞ」

『…………』


 ポロポロ……。

 大粒の涙を溢す仔竜。その姿はとても、可哀想だ。

 しかしーー……。


 ここにいるのは彼女に同情するようなモノ達ではない。


 ミュゼは。ラグナは。チビナは。

 なんの感情も宿らぬ視線で、淡々と。静かに泣く仔竜を見る。


「……という訳で。この屋敷に居候することは許すが、問題は起こすなよ?俺の手を煩わせたら殺す。ミュゼに手を出そうとしても殺す」

『…………』

「チビナ。ここに居合わせた縁だ。コイツの監視役をやれ」

『…………えっ!?なんで!?』


 急に話を振られたチビナはギョッとしながら叫ぶ。

 邪竜の力をおさめたラグナは、先のチビナと同じように。ニンマリと、笑いかけた。


「曲がりなりにもお前も邪竜だろう?竜《コイツ》相手じゃ他の眷属《ヤツ》らには荷が重い」

『いや、まぁ……それは、そーかもだけどぉ……』

「それに、暇だろ?」

『………!確かに、そーだけどぉっ!』


 ラグナからの正論に、チビナはどんどん押されていく。

 誰かの監視をやるのは別に構わないのだ。ただ、面倒そうな相手《マリアン》であることが、心の底から嫌なだけで。この仔竜以外であればきっと素直に頷けるのに……。

 そんな風にあからさまに引き受けたくなさそうなチビナに、ラグナは有無を言わさぬ笑顔を向けた。


「決定だ。拒否権はない。偶には仕事しろ」

『えぇぇぇぇ……!!おねぇちゃんとイチャイチャしてるだけのラグナがそれ言うぅぅぅ!?』

「残念。俺はコソコソと仕事してるからな。お前とは違う」

『…………』


 固まるチビナ。

 だが、直ぐにハッと我に返ると。信じられないと言わんばかりに、ラグナの顔を凝視した。


『嘘ぉぉぉ!?知らなかったんだけどぉぉぉ!?なら、本当に日頃遊んでるだけのぼくとは違うじゃぁぁぁん!』

「あぁ、違う。だから、コイツの世話ーーごほんっ。監視をよろしくな。チビナ」

『監視だけじゃなくて世話もやらせる気だったぁぁぁぁ!』

「頑張ってくださいね、チーちゃん」


 駄目押しとばかりにミュゼからも応援されて、チビナは逃げ道が完全に失くなったことを悟る。


『はぁぁぁぁ……分かりましたよぉ……やりまーす』


 チビナにできることは……素直に頷くことだけだった。







 かくして、チビナは本体《ラグナ》の姪(?)の世話係になったのだが……。

 きっと、この時の誰もが思わなかっただろう。



 これが……チビナにまつわる、新たな物語の序章となることをーー……。



 この出会いがチビナの運命を変えていく。


 それが語られるのは……もう少し先の、話だった。





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