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第1話:ちょっと来て!城内魔物管理士さん!①

幕田卓馬と申します(*´Д`*)

なろうに100近い小説を投稿していますが、異世界ファンタジーはこの『キャモン』が初めてです。

所謂『異世界もの』のセオリーや慣習に無知な未熟者ですので、ざっくりとドラクエ的な世界観だと思って読んでもらえるとありがたいです(^◇^;)

どうぞよろしくお願いします。

 クチャクチャという音で少女は目を覚ます。


 夜の部屋は真っ暗だ。0.1ビョン(約10センチメートル)先も見えない闇の中で、粘つく音と生臭いにおいは、異質な生物の存在を主張していた。


 音のする方に顔を向け、目を細める。

 ……ボヤけて何も見えない。

 布団の中から右手だけを出して、目やにがついた瞼を擦る。


 その手の甲が、何かに触れた。


 腐ったリンゴみたいな、グチャグチャでドロドロの何かに——


 少女は手を止め、大きく息を吸い込む。


 そして、夜を切り裂くような叫び声を上げた——



   *   *   *



 剣と魔法、人と魔物の世界を舞台にして、この物語は始まる。


 国の中枢である『城』。

 それを有する城下町の外は危険な魔物が闊歩し、城衛騎士(ナイト)と呼ばれる王直属の衛兵部隊が、日夜魔物の侵攻を食い止めている。


 『城』は国の政治を担う重要な建造物だ。

 王とその家族、大臣達、そして彼らに仕える騎士や使用人が生活し、各国の要人が頻繁に出入りする。万が一にも強力な魔物の侵入を許してしまえば、その国の統制は一気に崩壊するだろう。

 

 だからこそ城には、専属の高等魔導士が幾重にも結界を張り、鉄壁の守りを保持している。


 しかし、強力な結界にも弱点はある。


 結界はいわば太い鉄棒で組まれた堅牢な鉄格子だ。体の大きな魔物であれば、その身を阻まれて通過する事が出来ない。

 

 しかし、格子をすり抜けられる程に小さな魔物にとって、それは何の障害にもならない。

 

 すると、どうなるか?

 

 結界の内側は、小さな魔物たちにとって『天敵の大型魔物がいない楽園』となる。

 

 数匹程度であれば何の問題もない。

 しかし彼らが『城』の中に棲み着き、繁殖し、増え続ければ……?

 

 食料を食い漁り、生活圏を汚損し、神出鬼没に人々を驚かせる。城に住む人々に様々な害を及ぼすのは、想像に容易いだろう。

 

 城内魔物(キャッスルモンスター)——

 

 縮めて『キャモン』と呼ばれるその魔物達は、城内で生活する者達から、たいそうウザがられているのだ。


 これは、とある巨大な城を舞台にした、少しワガママだけど根は真っ直ぐなお姫様と、城のキャモンを監視・管理する専門職『城内魔物管理士(キャモンマネジャー)』である陰気な青年の、愛と勇気と成長……そんな感じの物語——






  『キャモン・オーバー!

    〜ちょっと来て、城内魔物管理士さん〜』





 

「その件なら、城内魔物管理士(キャモンマネジャー)さんに相談するといいぞ」


 書類に目を通し、時々ペンでガシャガシャとサインしつつ、ベンズロン王は言った。クマができたその目は、昨晩の大騒ぎを物語っている。

 

 だってしょうがないじゃん、とベンズロン国の第一王女、ミディー・ベンズロンは思う。

 夜中に目が覚めたら、グチャグチャでドロドロでベタベタで臭い物体が、枕元にいたのだ。おしとやかで清楚で儚げな女子に、悲鳴を押さえ込む胆力なんてあるはずがない。

 

 それなのに、パパったらそっけない態度――

 ミディーは唇を尖らせて、ベンズロン王を睨みつけた。


「城内魔物――キャモンについては、専門家に相談するのが一番じゃよ」


 書類から目を離しショボショボの目を細めながら、ベンズロン王はグッタリ笑った。


「キャモン?」


 聞き慣れない単語だ。ミディーは聞き返す。


「おやおやミディー。子供の頃に『お城での暮らし方講座II』で読み聞かせたはずじゃが?」


 そんな10年以上前の話、覚えているわけがない。


 ベンズロン王はミディーから視線を外すと、手元の資料を見つめ、眉間に皺を寄せた。書類のタイトルから察するに、直近の城下町周辺の魔物の生息状況が芳しくないらしい。

 

 城は強力な結界でガードされているため、ここにいれば魔物に怯える必要はない。でも、町の外の魔物が増えて、町中の人達がここに避難するとなると、これだけ広いお城でも流石にパンクしてしまうだろう。

 街の外では『城衛騎士(ナイト)』のみんなが侵攻を食い止めてくれているが、彼らの安全だって蔑ろにしてはいけないし——


 いろんな事を心配しなくちゃいけないから、王様も大変だ。多忙な父の手を煩わせるのも憚られ、ミディーは渋々踵を返そうとした。


 そこで、重たいドアが勢いよく開く。


「まったくミディーったら! パパの仕事の邪魔をしないの!」


 突入してきたママ——ベンズロン王妃が金切り声をあげた。

 聞き飽きたその声に、ミディーは眉を顰める。王妃はシュークリームみたいにまとめた金色の髪をユラユラと揺らしながら、蛇みたいな目で彼女を睨んだ。


「だって、キャモン? が私の部屋に出たから……」


 カエルの如く身を縮めるミディー。パパは優しいが、ママは厳しい。

 ベンズロン王国の長女として、次期国王となる人を迎え入れ、この国を率いていかねばならない立場なのだから、厳しくなるのも当然ではある。

 当然だけど……。

 

「だったらさっさと、城内魔物管理士(キャモンマネジャー)に相談すればいいの! 人の上に立つ者として、もっと下々の責務を把握して、適材適所で使役できるようになりなさい! 大体あなた、また城下町に遊びに行ったらしいじゃないの! また変な物買い込んでないでしょうね!? まったく、妹のサリーはレッド大公のとこで王国次女の務めを学んでいるというのに、当のあなたがそんなんじゃどーたらこーたらがみがみがみがみ——」


「はいはいわかりましたよ!」


 ママの説教は終わりがないから困る。そっちの金切り声の方がよっぽどパパのお仕事の邪魔じゃん、とミディーは思う。


 でも、何も言い返せない。

 自分このお城を継ぐ器量がないことも、妹のサリーの方が遥かに優秀なことも、全部本当の事だから……。


 ムクれていると、急にドアがノックされ「国王、入りますよ!」と大臣。

 

「どうしたのじゃ?」と問う国王に、大臣は顔を顰めながら早口で捲し立てる。


「先日の雨による増水で、東の河に架かる橋が倒壊したとの情報が入りました。東側との交易に多大な影響が考えられますので、早急な修繕が必要です。しかしながら、近年の魔物の急増に対応して防衛に予算を回していたため、財源の確保が難しく、解決策としましては国民からの納税額を2%引き上げるか、冒険者達からの――」


「それはいかん、魔物が活性化して国民が不安を感じている中で、税の上乗せは更なる不安を煽る結果になる。それに冒険者達が持ち帰る新技術も、国の発展になくてはならないものじゃ。城の運営資金からなんとか捻出しよう。すぐに現状の経費内訳をまとめくれ、1時間後に会議を開く」


「承知です」


 大臣は駆け足で去っていった。


 パパはいつも難しい事を考えている。ママだって口うるさいけど、それがこの国の未来のためだってわかってる。これが国を管理するという事なら、自分には絶対無理だ。

 居心地が悪くなったミディーは無言で踵を返した。


「ミディー」

 

 背後からベンズロン王に呼び止められ、ミディーは立ち止まる。


「今日は城内魔物管理士(キャモンマネジャー)のトリンが、来城する日だったはずじゃよ。声をかけてみなさい」


 振り向かないで、頷く。



   *   *   *



 城内を歩き回る、デカいショルダーバッグを下げたおかしな男に出会ったのは、それから間も無くの事だった。

 廊下の壁をジロジロ眺めながら、時々指でなぞったり、レンガの隙間に指を突っ込んだりしている。

 

 前情報がなければ、確実に不審者認定して衛兵に突き出しているところだ。

  

「あの、キャモンマネジャーさんですか?」


 ミディーが尋ねると、男は壁を見つめていた目をこちらに向けた。その目は切れ長で、唇はへの字に曲がっている。そんな陰気臭い顔の半分を、ボサボサの黒髪が隠している。

 城の外で目が合ったら、瞬時に50ビョン(約50メートル)くらいは後退りしてしまいそうな、ヤバい人物の顔だ。


 でも……負けない!

 ミディーはスカートを持ち上げ、毅然とした態度で挨拶を繰り出す。


「わたくし、ベンズロン王の第一子、ミディー・ベンズロンと申します」


 そう言ってニヤリと笑う。

 この城の姫が直々に声をかけてきたとあれば、このぬぼーっとした男も慌てふためくに違いない。

 

 しかし男は特に取り乱す様子もなく、手短に、というかあからさまに『邪魔すんなよ』って素振りを見せながら、ペコリと頭を下げた。


「この城を担当する城内魔物管理士(キャモンマネジャー)のトリン・シフェノです。それでは、仕事の続きがあるので……」


 そう宣うと、あろう事かその場から立ち去ろうとしてきやがった。 

 

「ええ!? ちょっと待てよ!」


「なんすか?」


「姫が直々に声かけてるのに、その反応ってなくない!?」


「いや、仕事は何よりも優先されるので——」

 

「相談があるのよ、キャモンについて!」


「はあ」


 その態度はひどく気に触るが、背に腹は変えられないと無理矢理に飲み込んでやる。そしてミディーは、昨晩の出来事をこのトリンという男に話した。

 トリンは私の話を聞き終えると、何度か頷いてショルダーバッグの中から使い込まれた冊子を取り出した。ページをめくり、ミディーに見せる。

 昨日見た魔物と似た絵が描かれていた。


「そいつは、この『プチスライム』ではないかと」


「確かに、似てる」


 ミディーは頷く。


「プチスライムはごく一般的なキャモンです。雑食性で何でも食べますが、人間に害をなす事はほとんどありません。至適温度帯は25〜30ポッカ(25〜30℃)。至適温度帯では、幼生の状態から約1週間で繁殖可能な成体まで成長します。主に分裂によって繁殖するため、一匹いれば指数関数的に増えていきます。ですので――」


「あーあー、わかった! わかったから、とりあえずちょっと来て!」


 理屈っぽい言葉を並べ立てられそうだったので、強引に話を終了させる。

 とりあえず、すぐにでもやっつけてもらいたい。またあの気持ち悪いのに安眠を妨げられるなんて、絶対に嫌だ!

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― 新着の感想 ―
こんばんは! 異世界ファンタジーが初めとは思えないくらいの しっかりとした造りの作品ですね。 こういうお仕事系のお話も好きです♪
始まりましたねー。 シロアリ駆除屋さんみたいなキャモンマネジャー。。 追いかけますよぉ。
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