39.深い緑色は、、、
「サイズを測って、着れる物を全て出してくれ」
ディランの執務室にて、国王からの呼び出しに着ていくドレスがないと気付いた、ほんの1時間後、シーラは今、城下のブティックのふかふかのソファに腰掛けている。
1時間で、ディランは店を貸切にしたので、今現在、このブティックにはオーナーとデザイナーとお針子達の他はシーラとディランしかいない。
さすが、領主様、、、、。
何だか、小説みたいな事になっているわ、、、。
なんて感心している側から、シーラはお針子達によって、別室へと連れていかれて、サイズをくまなく測られた。
「特別な方へのドレスでしたら、オーダーメイドがお勧めですが、、、」
隣の部屋からオーナーの猫撫で声が聞こえてくる。オーナーはディランが辺境伯その人であると知っているようだ。
うわお、オーダーメイド、高いわよ。そして、そんな時間はないわよ。
シーラとて、侯爵令嬢で、王子の婚約者だったのだ、オーダーメイドのドレスくらいなら実家にある。もう絶対に着れないけど。
なので、それがとても高価で、手間のかかる事は十分に知っている。
「時間がないんだ、明日までにドレスが1着は要る。まずはそれを見繕いたい。サイズは記録しておいてくれ、オーダーメイドについては後日また相談する」
えっ?
驚くシーラに、お針子達がにっこりする。
「こんなにお綺麗な方ですもの、もちろん、ドレスもオーダーメイドがよろしいですよ」
「ええ、お肌もとても綺麗です。手は少し荒れておりますね、後でクリームも塗りましょうね」
「それにしても、本当に細くていらっしゃる」
にこにこしながら、手際よくサイズが測られる。
オーダーメイドは後日相談って、どういう事かしら、、、、オーナーに合わせただけかしら?
疑問に思うシーラだが、すぐにサイズ計測は終わり、ディランの居る部屋へと戻ると、そこには圧巻のドレス達が並べられていた。
「わぁ、、、」
因みにこれは、歓喜の声ではない。
ドレスは大嫌いなので、ちょっとげんなりするシーラだ。
「そんな顔をするな、好みはあるか?」
「ないです」
「分かった、着やすくて、露出の少ない物を」
オーナーとデザイナーが直ぐ様、数着持って来てくれる。
「ふむ、、」
ディランは、持って来られたドレスをシーラにあてていく。その様子は意外にも手慣れていた。
シーラは思わず、「慣れておられますね」と少し険のある声で言ってしまった。
あら?
言ってしまってから、自分のその声の響きに驚くシーラだ。
「母上の買い物によく付き合わされていたからな。それにこれでも貴族だ、かなり上位の。なんで怒ってるんだ?しょうがないだろう、ドレスは必要だ」
ディランは一旦むすっとしたが、その後は真剣な表情でシーラのドレスを選んでくれる。
顔映りや、肌色との相性を見ているのだろう、ディランの深緑色の強い眼差しが、自分の肌や髪に注がれているのが分かる。
シーラは少し、動悸が速くなるのを感じた。
「、、、とりあえず、これと、これ。あと、これを試着してみろ」
「あ、はい」
押し付けられた3着を持って、シーラは試着室内へと入る。3着は深い緑のビロードのものと、紺色のエンパイア型のもの、深紅に銀糸の刺繍が入ったやはりビロードのものだ。
試着してみると、3着ともびっくりするくらい着やすく、楽だった。
侯爵家で着ていた、とにかくきついドレスとは大違いだ。
深い緑のドレスを纏って、ディランの待つ部屋へと戻る。
シーラを見て、ディランは息を呑んだ。
「どうだ?流行りの最先端とはいかないだろうが、、、」
「はい、とても着やすいです。きつくないし、苦しくないです」
「一体、今まで、どんなドレスを着ていたんだ、、、、」
「出来るだけ細いものを、と」
「そうか、、、、サイズは問題ないな」
「サイズは少し詰めた方がよろしいかと」
お針子が、シーラの胴回りを確認して言う。
「あんまりきつくしないでください」
シーラは慌てて注文をつけた。
「畏まりました」
お針子が、にっこりする。
「明日までに直せるか?」
「させていただきます」
「なら、3着とも貰おう」
「えっ?領主様?」
「何だ」
「そんなに要りませんよ」
「俺が買いたいんだ」
「いやいや!」
シーラは慌てて、ぐいぐいとディランを壁際へと引っ張って行き、小声で抗議した。
「1着で十分ですよ!陛下と会う時だけ着るんです!」
「シーラ、無理を言って貸切にして、明日までに直させるんだ、これくらいは買う必要がある」
「でも!」
「支払いなら心配しなくていい。これは完全に必要経費だ」
ディランの言葉にはっとなるシーラ。
そうだ、お会計だ。陛下に会うのにドレスがない事で頭が一杯で、支払いまで考えていなかった。
ドレスはとても高い。シーラのお給料では何年かかっても買えないものだ。
「お金、、、、」
「シーラ、必要経費だと言ったぞ、あなたは辺境伯夫人として行くんだ。使用人としてじゃない。ここは俺が出す」
「でも、、、」
「それとも、気に入らないか?」
「、、、いえ、どれも素敵でした、きつくなかったし」
そう、どれも素敵だった。何度も言うが、きつくなかったし。久しぶりに着たせいもあるだろう、少し、テンションは上がった。
「なら、問題ないな」
ディランは優しく笑うと、シーラの頭をポンポンと叩いた。
「!」
何、いまの、ポンポン!
真っ赤になるシーラはお針子達により、サイズ直しの為に再び試着室へと戻らされ、3着分の直しを調整した。
ドレスの後は、同じブティックでドレスに合わせた靴を買い、城に戻ってからは、大奥様が残していったアクセサリーの中からドレスに合うイヤリングがディランによって見繕われた。
「ドレス、ない」と告白してからの本日のディランは、頼れる年上の男性で、調子の狂うシーラだ。
怒濤の1日が終わり、部屋で明日からの王都行きに向けて荷造りしながら、ふと、イヤリングを手に取る。
イヤリングは、深い色合いのエメラルドが入ったもので、なかなか美しい。
深緑色のドレスに合わせて選んでくれたようだ。
王都では、あのドレスを着る事になるんだな、と思う。
ドレスもイヤリングも、ディランの瞳の色で、これではまるで、溺愛されているようではないか、と恥ずかしくなるのは、シーラが都に着いてからの話だ。
翌日、直されたばかりのドレスと共に、シーラは旅の装いで馬車へと乗り、王都を目指した。




