アンダーピープル 中編
まさか地下で入れると思ってなかった風呂から上がり、一応ウワバミのポーチに入れている遊撃班の訓練着を着た。
アンダーピープル達の拠点に1つだけあった共同体で運営している宿泊施設に通されていた。
ロドリーはギルドの教練所の訓練着を着ていて「懐い」と言ったら「ついこの間だろ?」と真顔で返されてそう言えばそうだな、と。東方遊撃班に入ってまだ1ヶ月経ってなかった。
脱衣場を出た先にある魔工冷風機が効いた休憩所に既にノイノイさん、ドルタマ、レイミがいた。
ノイノイさんは私服のタンクトップ(久し振りに見た)。ドルタマは教練所の訓練着、引き続き魔力封印の手錠をしているレイミはアンダーピープルが用意したらしい彼らの平服と同じ古風な貫頭衣を着せられていた。
「ノイノイさん達、早かったんッスね」
「ノイノイさん、湯上がりも素敵です!」
「ありがと。レイミさん、長風呂は苦手みたいで」
「いきなり手錠をされたまま風呂に入れられたら気味が悪いだろ?」
もっともだけど、ノイノイさんは苦笑するしかなかった。
しかしこうして改めて見るとレイミは所々肌に岩の様な特徴があったが、左腕だけはそれらの特徴がほんとに全く無い。
肌の見える範囲で身体にいくつも傷痕もあったが、これも左腕だけは綺麗に無傷だ。
「何をジロジロ見ている? ニーベルング混じりが珍しいか? 一輪車にでも乗ってやろうか?」
「いやっ、一輪車??」
特有の比喩か何かか?? ともかくやっぱそうか。話には聞くし、資料でも見たことはあったが、ニーベルングの血を引く人物に直に会うのは初めてだ。
ドガラ火山のワードラゴンといい、アンダーピープルといい、様々なモンスター達といい、この稼業、色んな連中に出会すもんだ。まず味方からして特異な人達ばっかだったしな。
俺が軽く回想に入ろうとすると、お構い無しにロドリーが進み出た。あ、ヤベっ。コイツ、デリカシー無い問題があった!
「ニーベルングとの混血は被差別対象と聞く。お前ぇは自分が差別され、痛い目に遭わされたからテロに走ったのか? 自分が受けた痛みの何百倍も被害も撒き散らして、満足かよっ?!」
「ロドリー!」
「ロドリー君っ」
俺とノイノイさんが慌て、ドルタマは無反応でアイスコーヒーミルクを飲んでいるっ。一方でレイミはスッと目を細めた。
「こんな剥き出しの脳筋に絡まれたのは久し振りだな。この手錠が無ければ、貴様は私のアンデッドどもに引き裂かれた上でその一端に加わっているところだ」
「質問の答えになってねぇなぁっ! 俺は思想犯の類いが私怨と妄想と選民思想以外で動いてんの見たことないぜぇっ?!」
「ロドリーってばっ」
「もうやめてっ」
「己が単純だからと、我々の活動まで単純化するな!」
「己は複雑だからってのは言い訳にならねーぞ? お前ぇらは単純に人殺しだっ! 地上に戻ったら当局に引き渡すっ。それまで複雑ぶって言い訳しとけっ!!」
「ぐぅっっ」
歯噛みするレイミっ。あたふたする俺とノイノイさん!
ここでアイスコーヒーミルクを飲み終え一息ついたドルタマが口を開いた。
「そろそろ、モグラとトカゲが来ます」
言った側から休憩所のドアが開き、ワーモウルのジョモーンとワーリザードのデンバが入ってきた。
ジョモーンとデンバは結構手間取ったようだが、伝言ゲーム状態の水晶通信で地上の状況と他の近辺のアンダーピープル達の状況は一応把握された。
まずやはり冥翼王は太古火の槍を振るうヴィマ達によって致命傷を受けて撃退されていた。それから程無く遺跡とその上の砦の廃墟は完全に崩壊! 現地に大穴が空き、周辺に地震や地割れ、1部は隆起等が発生していた。
下層域で行動していた突入隊はギリギリ通信が届いたヴィマ達から報せを受けて離脱。中層域と上層域も各攻略ルートから外れていなかった隊は下層からの通信を順に伝えて離脱。
砦廃墟は順に伝わる通信よりも崩落の方が早かったが、使い魔を飛ばしたアマネさん達凍結系魔法使い達が多くいたので砦廃墟の底を側面に張り付く形で凍り漬けにして一時的に崩落を止め、なんとか離脱に成功していた。
崩落被害は中層と上層の攻略ルートから外れていた数十名。俺達も亡くなったと思われていたようだ。
中途の攻略その物や、氷の冥翼王との戦いでも数十名亡くなっており、今回の作戦の総犠牲者は80名前後とみられていた。
一方、リーラティアラで撃破された土の冥翼王とその眷属達との交戦では数千人規模で連合軍に被害が出ていた。物量戦の結果だ・・
状況が錯綜している崩落後の遺跡では、その場で調査隊や捜索隊が組まれだしていたが俺達の通信で地下水脈の洞窟との繋がりが明らかになり、別ルートでのアンダーピープル達との交渉も始めることになった。
ヴィマ隊の報告や様々な観測からも氷の冥翼王の消滅と、負の奇跡の達成、ニーベルング族の復活は成されたとみられている。
今のところ冥王信奉者達に大きな動きはないが、今回の騒動はニーベルング混血閥の暴走によるところも大きいらしく、冥王教団本営もむしろ教団の乗っ取りを警戒しているという話もあった。
俺達への指示は、レイミからの情報の聞き出しと地上への移送だった。
「報酬は国と州とギルドが保証してくれたからお前達は何も心配しなくていいぞ? 逆に色々欲しい物があるなら言え! 後で請求できるっ」
めちゃ稼ぐ気満々のジョモーン。
「そのレイミという信奉者のこともある。教団の動きはよくわからないし、あまり1ヵ所にジッとしない方がいい。俺達2人が地上と繋がった拠点まで案内するから明日の朝には出発しよう」
デンバの方はテキパキと事を進めたいようだった。
協議後、食事になった。虫食材や地下特有の茸や苔は慣れないと当たり易いのと癖が強いからと、淡水魚や甲殻類、藻、水草の料理を食べ(塩気は薄いが辛味は強く量が多く穀類をあまり食べない独特な物だった)、仕切りは立てられるが男女一緒の広い寝室に案内された。
姉夫婦にもらった懐中時計で確認するとまだ午後7時前だがもう死ぬ程眠い。
それでも! 俺達はレイミから話をもう少し聞く必要があった。
「これなんだ? ・・サンストーンか。地下だと貴重だからか? あったけぇけどな」
ロドリーは、ムッツリと簡素なソファの端に座っているレイミを刺激しないように? 離れた位置で部屋の一角にあった、太陽の装飾のされた電灯に見えた魔力に反応して吸収して陽光を再放出するサンストーン灯を点けてみたりしていた。
「魔工ラジオがありますね」
部屋のラジオのスイッチを入れるドルタマ。
「はぁいっ! ジョモーンのモグモグモグーンのお時間だぞ? この放送はリーラ・南西部・ニョ041から037、038、039、040、042、043までお届けしてるぞ? 今夜も張り切って」
「ドルタマ」
「・・了解」
俺はドルタマにラジオを消させた。ジョモーン、魔工ラジオDJでもあったか・・
「えっと、レイミさん」
クッションを抱えたノイノイさんは遠慮がちにレイミからギリギリと見た位置に椅子を置いて座った。
こういう役回り苦手だろうし、立場的にはギルド本体所属の遊撃班の俺が聞くべきなのかもしれないが(ノイノイさんはファジーネーブルのスクールの指導員だがギルド本体の職員ではなかった)、俺が下っ端過ぎて、なんな警戒され過ぎてて、面目無い・・
「もう少し、詳しく話を聞かせてもらえませんか? その、諜報部からの尋問となると、ちょっと、厳しくなるでしょうし」
ちょっとじゃ済まないた思われる。
「・・・」
レイミはたっぷり5分は黙っていたと思う。短気なロドリーの忍耐が限界な辺りでようやく、左手を見ながら話しだした。
観念したというより最低限度、整理がついたような淡白さがあった。
「状況に関しては、私が知り、お前達が知らないことはそう多くない。既に私と、私の同志達の目的は果たされ、たどり着くべきにたどり着き見るべきを見た・・そう、無理からぬことだったのだ。むしろ、我々の血統を残した者どもの浅ましさと間抜けさを思い知った」
レイミは大きく息を吐いた。
「やはり、ニーベルングとその血統は、滅びねばならないのだろう。それが、事実、と、理解できた」
「貴女・・」
「ちょっとよくわからねぇぞ?」
「・・・」
ドルタマ以外の俺達は困惑したが、レイミはあくまで淡々と、最下層の儀式の間で起きた出来事を語った。
翌朝、俺達はジョモーンとデンバの案内で地下拠点ニョ041の脱出用転送門でニョ042近くの魔除けの安全地帯内の転送門にテレポートした。
一番近い地上に繋がった地下拠点ミュ103までこうしてショートカットを繰り返し、7日は掛かるそうだ。
随分不便に感じるがアンダーピープル達はそもそも用が無ければ地上に出ないので地上まで最速7日の位置はむしろ、浅い、領域らしい。
「遺跡の崩落や、冥翼王が暴れたせいで地下のモンスター達はディープフィッシュ達が活性化してるのと、通れないルートも出てきてるから注意するんだぞ? それから途中必要な物があれば色々持ってきたから、どんどんオイラに注文するんだぞ?」
「あんまボッタクんなよ?」
「へへへっ」
ジョモーンがロドリーに軽くツッコまれつつ、俺達は魔除けの安全地帯を出て、ニョ042を目指して歩きだした。
俺の防具は耐寒防護服から動き易く損耗してない汎用防護服に切り替えていた。ノイノイさんも補修したゴーレムスーツは重い耐寒仕様から軽量の汎用型に変えている。
ロドリーとドルタマとレイミは代えを持っていなかったのでニョ041で購入していた。アンダーピープルの装備が古風な為、3人とも古い時代の冒険者のような格好をしている。
レイミは引き続き魔力封印の手錠をしているが、防護だけはしっかり装備し、ウワバミのポーチにポーションや解毒薬、最低限度の探索用品だけは持たせていた。
全員、モンスターを刺激し難く、遠目にアンデッドと誤認させ易い陰火を灯したカンテラを持って進む。
「・・・」
昨日、レイミは個人的なことは何も話さなかったから、およそ事情は察せられるが、レイミのグループの必死さや寄る辺無さは掴み所が無い印象もあった。
それでも一定の信憑性はあると伝言ゲーム方式で地上に情報を送ったが、今朝起きて俺達とジョモーン達だけて返信記録を開くと、
レイミの離脱幹部認定と、冥翼王の一部顕現者認定がされていた。
そして地上への移送任務が地上へたどり着くまでに討伐すること、にも変わっていた。
「歩き難いだろうけど、次の拠点でベルト式の封印具を用意してるそうだから」
「礼でも言えばいいのか?」
「いや、別に・・」
舌打ちは減ったけど、当たり強いなぁ。俺は暗い緑の火のカンテラを揺らしながら、同じ暗い火を持つ岩の肌のレイミの後をついて歩いていた。
胃が、痛くなってきたぜ。




