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胎動する種子+Reaper of Fire

 

「ぅ、ぅぅぅ……!!」

 時を同じくして、エリカの身体もまた薄れていた。

「エリカさん、ちょ、何が起きてるっすか!?」

「エリカ!!」

 セラと写見が叫ぶ声も、不自然に木霊して聞こえる。座る事すら苦しく、等々床に倒れ伏した。

(桜……ここで私が倒れたら、桜が……!!)

 この意識の繋がりが途絶えてしまえば桜は再び暴走してしまう。白葉から託された力を、任された役目を放棄する訳にはいかない。

(信じてる……大丈夫……きっと!!)


── エリカお姉ちゃん ──


「え……?」

 この場にいる誰のものでもない、しかし忘れる筈がない声が聞こえた。伏せた床に目をやると、小さなブーツを履いた細い足が見える。

「もし、かして……!?」


── 1人だけで頑張らないで ──


 幼い声と共にブーツが消えた。



「っ!!」

 意識が引き戻された。桜の前では、依然力を吸収しているシン・ユキワリがいる。だが音は無いものの、自分の目の前に佇む少女の姿に息を呑んだ。

「エ、ヴィ……!?」

「しょうがないから助けてあげる」

 周りの皆が反応しないところを見るに、頬を小さく膨らませた彼女は自分にしか見えていないようだった。

「どうして……」

「あの子達は記憶を欲しがってる。自分達がここにいた証明を欲しがってるの。だから、あの子達の心を救ってあげて」

 そう言うと、少女はシン・ユキワリの元へ歩み出していく。小さな背に手を伸ばすが、桜はすぐに行動の意味に気づく。同じだ。彼女もまた蒼葉達を助けようとしている。


「ァァァァァァァァゥゥゥ!!!」

 消えかけていた姿が再び戻り、ディノニクスジェノサイドは力を吸う奔流をかき消す咆哮を上げる。


《Evolution Loading!!》


 プラグローダーから現れた9匹の蛇がディノニクスジェノサイドの左腕に喰らい付く。黄金の炎が燃え上がると同時に、鉤爪は巨大な竜の顎門へと姿を変える。


《Update Complete Evolution Finish!!》


『なっ……!?」

 放たれた黄金の竜は奔流の中を泳ぎ、データを取り込み続けるシン・ユキワリへ衝突。堅牢な黒い鎧を噛み砕き、紅葉を捕らえた電子基板を破壊。紅葉の解放と共に、電子基板の中に隠された存在が露わとなる。

「ゥッ……はぁ、はぁ……!!」

 変身が解ける。すぐに倒れた紅葉へ駆け寄ろうとするが、

「っ、がっ!?」

「あれが忌魅木虹葉の言う、人類を消す為の切り札か」

 背中を踏まれ、床に押さえつけられる。弟切は溜息を深く吐いた。

「皮肉もいいところだな」


 まるで植物の種子。蔦のように伸びる無数のコードが、15個のローダーから養分を吸い取るように脈動している巨大な球体のサーバーだった。

 その内の2つは、セブンスローダーとデスレイズローダー。

『ン、フフ、何が皮肉なのかし、ら、クフッ!』

 変身が解けた虹葉は笑いながら吐血。止める為とはいえ蒼葉の身体にダメージを与えてしまった。桜は何とか拘束から逃れようとするが、更に強く踏みつけられる。

「っ、もう、こんな事やめろ……! 蒼葉と紅葉の姉さん達なら、2人が人類の滅亡なんて望んでいない事は分かるだろ!!」

『それこそ……っ、貴方になんか分からないわ』

 ふらつきながらも、球体型サーバーへ近寄る。その手には先程桜から奪った黒い蛇のコネクトチップを握っている。

 やがてチップは変異し、元のヘルズローダーへと戻った。

『これで、揃った……9人の妹、14個のローダー、そして……セブンスローダーとデスレイズローダー』

 最後の端子へ、最後の欠片が接続される。


《Growing up Server Seed》


 脈動は更に加速する。サーバーは心臓の様に拍動を早め、周囲に振動を響かせる。

『滅亡の時まであと少し。その前に、まだやるべき事があるけど』

 倒れた紅葉に視線が向く。言葉の意味が分からない桜ではない。このままでは世界が終わる。

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 プラグローダーが輝きを放つ。桜の懐に眠るピュアチップと、光の線で結ばれる。

 桜の叫びに応える様に、天へ光が放たれた。


『さぁ紅葉、私達の中へ、おい ──』


 虹葉の手が掴まれた。紅葉のものではない。視線を上げた先にいた存在に、その場にいる誰もが息を呑んだ。


「忌魅木虹葉。お前達の目論見はここまでだ」

『彼岸……どうして、貴方が……!?』



「エリカ、大丈夫……?」

 倒れたエリカを抱き上げ、椅子に座らせる睡蓮。

「大丈夫。だいぶ良くなったから……それより」

 自分を心配しながらも、時折何かを気にするように地下通路の扉を見る睡蓮にエリカは気づいていた。

「山神くん、心配なんでしょ」

「は!? い、いやいや、んなわけないって! 馬鹿だけど強いのは知ってるし、いくら馬鹿でも引き際くらい……引き際、くらい……」

 消え入る様な声になる。エリカは小さく笑うと、睡蓮の手を握った。

「行ってあげて」

「え? いやいや、ここを守らなきゃいけないし……」

「大丈夫っすよ。ていうより、安全地帯にいる自分達よりは山神さんの方が心配でしょ」

「いやいや……」

「ほらほら、後悔する前に、ですよ」

 写見とセラにまで後押しされる。睡蓮は口を尖らせて迷っていたが、やがて地団駄を踏んで駆け出した。

「あぁ〜もう! 何かあっても知らないからね!! 後悔すんなよコラッ!!」




「はぁ、はぁ、んぉぉ、全っっっ然減らん!!」


《Extinction Stage!! 絶・咬・爆・拳!!》


 一体ごとの戦闘力はホウセンカの足元にも及ばない。しかしながら数の暴力という言葉がある様に、多勢との継続した戦闘は確実に体力を削っていた。

「数ばっか多くてよぉ……ぁ、あぁおい行くんじゃねぇって!!」

 頭上を飛んでビルへ侵入しようとするスレイジェルへ、右手からマグマ弾を放って撃墜する。度々こういった個体を処理しなければならない事もスタミナを削る要因になっていた。

「お、ぉぉ、無理、だ、誰か交代してくれ……」

 ホウセンカが身に纏うマグマが黒く固まり始める。とうとう体力が尽き、温度が下がっているのだ。

 しかしスレイジェルが攻撃を止める事はない。次々と降り注ぐ剣と槍を両手両足で防ぐが、震えが止まらない。

「お、おいお前ら、良心が痛まねぇのか? こんなヘロヘロの奴ボコって楽しいのか?」

 続く3本の槍が、返答の代わりにホウセンカの頭へ突き出される。

「うぉぉぉ卑怯だと思わねぇのかコラァァァ!!?」


 ホウセンカが放つ迫真の叫びと同時に、スレイジェル達が突如爆散した。

 最初、何が起きたのか理解出来なかった。自分が知らない力が突然目覚めたのか、叫ぶだけで敵を爆死させる力なのか。しかしそんなわけがないと思い直し、急いで起き上がった。

「な、なんだ、何が起き ──」

 直後、何かが自身の胸元に突きつけられる感覚がした。見れば奇怪な形状をした銃の様なものがピタリとくっついている。


「やぁ。早速だが、助けた謝礼を頂くよ」

「待って、いや、待っ ──」


 またしても返答を待たれない。引き金が引かれた瞬間、ホウセンカの背中から橙色のガラス管の様なものが生える。

 目の前にいつの間にかいた少女は、それを楽しみにしているかの様にニヤニヤと見つめている。

「いやいやいや、何してくれてんだこのガキ!?」

「ガキだと!? まったく現代人は見る目がないな! 君より生きた年数が違うんだ、文字通り桁違いにねぇ!」

 詰め寄られた為、ホウセンカはマジマジと少女の容姿を観察する。赤と金が入り混じった癖の強い長髪、睡蓮に近い小さな背丈、それとは対照的に大人びた曲線を描く肢体。

 だが何より目についたのは銀色の瞳の中に映る奇妙な魔法陣だった。

「お前、なんだそれ……?」

「おいおい、なぁにをジロジロ私の身体を見ているんだね? まったく、盛りがついた男ほど見苦しい存在はないものだ」

「誰がお前の身体なんぞ興味あるかってんだ、っはぁん!?」

 電子レンジに似た珍妙な機械音と共に、ホウセンカの背中からガラス管が射出。少女の手の上に降り立った。

「ん〜、まぁ悪くはない。だが良くもない」

「何だそりゃ……って、うぉっ、危ねぇ!」

 ガラス管へ夢中になっているあまり、背後から迫っているスレイジェルに気がつかない少女を後ろに下げ、冷えて硬質化したマグマの拳で受け止めた。

「訳分からん事ばっかでなぁ、今日疲れてんだよほんと!」

 突き飛ばし、もう一撃加えようとした時だった。閃く赤い光。身体に感じる熱。自分が纏うものと同じ、もしくは近いものだ。

 しかし今度はホウセンカの前に影が降りた。


 炎が燃え盛る外套を纏った死神。その隙間から覗く外骨格に包まれた黒い筋繊維と、胸部中央と関節に埋め込まれた赤い水晶。ジェノサイドにも見えず、かと言ってスレイジェルにも見えない。


「誰だお前? いや、それよりも助けてくれてありがとう、が先か」

「気にしないでくれ。俺達にとってもこれは困った状況だ。いや、正確にはそこにいる奴にとってだが」

 死神の視線の先には、未だガラス管に見入っている少女がいた。あんな事になってもブレないその姿勢にむしろホウセンカは感心の念すら抱いていた。

「その通りだよ。草木ヶ丘市で起きていた事件に目をつけたはいいが、まさかこんな面倒事になっているなんて。まぁフラグメントは手に入ったし? これでこの街からおさらばしても構わないってわけだ」

「いや。この場にいる奴等は片付けていく」

 そういうと死神は踵を返し、空を覆い尽くすスレイジェル達の方へ歩いて行く。

「おい待ちたまえよ、リスクとリターンが見合ってない。戦う意味なんか皆無だぞ」

「ここで彼を見捨てる意味も無い」

「……なんか、似てるな」

 口調も雰囲気もまるで違うが、その言葉に込めたものは確かに彼と、日向桜と同じものだった。

「なら仕方ねえ! もうちっと延長戦行くか!」

「俺は空の敵をやる。君は地上を頼む」

「任せろ! ……え、お前空飛べるの?」


 駆け出して行く2人を呆れた顔で見送る少女。だがやがて諦めた様に立ち上がり、懐から大量の試験管を取り出した。

「あんな無限に湧いてこられても困るしねぇ……早く帰りたいし、ここは、ほいっ」

 ホウセンカを撃ち抜いた銃の後部へ小さな試験管を装填。中の液体が空になるまで充填すると新たな試験管へ交換、これを何度も繰り返す。

 地面に落ちた試験管が10本に達した時、銃のラインが発光し始めた。それを確認し、トリガーを引く。


《フルジューテン! フラグメントバレッジ!!》


 小さな銃口から撃ち出される大量の光弾。しかしそれらはスレイジェル達を撃ち抜く事はせず、虚空へ着弾。それぞれを結び、巨大な陣を創り出したかと思えば、ビルの周囲を覆うドーム状の膜へ変化した。

「これで外の連中はしばらく入れない。その間に早く収拾を付けてくれ」

「お、おう。ありがとな」

 更に少女の正体に疑問符が浮かぶが、一気に形勢逆転の糸口が見えた。地上のスレイジェルは力任せに暴れ回るホウセンカを止められない。空に関しては、


《ヴィトロサイズ!!》


 2つに折り畳まれた双刃に似た鎌を振り回し、空を飛ぶスレイジェルを斬り裂いて回っている。翼もないままに空を飛ぶ姿は異様だった。

「何で当たり前みてぇに空飛んでるんだよ……って、おらっ! よし、数も大分減ったし一気に片付けるぞ!」

 最後の大技を構え始めたホウセンカの姿を見た死神も、携えた鎌へ赤い試験管を装填する。


《Playback Start!!》

《イグニスサラマンダー!! ネンショウ!!》


 ホウセンカは拳にマグマを、死神は鎌へ炎を纏わせ、群れなす天使へ突貫。沸る一撃を余す事なくぶつけた。



《Extinction Stage!! 絶・咬・爆・拳!!》

《バーニングスラッシュ! イッセン!!》



 空と地で擦れ違う爆発。耳を澄ますが、羽ばたく音は聞こえない。少女が張った結界らしきものはしっかりと機能しているらしい。

「あっはは、なんだかんだサンキューな……ん?」

 見渡すが死神の姿も少女の姿もない。忽然と消えてしまった謎の乱入者達は、ホウセンカの礼も受け取らず、まともに名乗りもせずに帰ってしまったのだった。

「え……結局何だったんだあいつら」

「山神〜!!」

 入れ替わる様に聞こえてくる声。その正体に気づいたホウセンカは疲れた喉に鞭打つ様に叫ぶ。

「おまっ、何で来たんだよ!? いや、てかこの膜あるのに来れたの!?」

「お〜っ! 全員やっつけたんじゃん! やるぅ!」

「いやまだ膜の外の連中が……ん?」

 目をやるが、いつの間にか膜の外側にいたスレイジェル達の姿が消えていた。

「桜達がやったのか……いや、にしては何かまだ嫌な予感が……」

「山神、これからどうす ──」


 その時、不意にホウセンカの腕が睡蓮目掛けて突き出された。同時に彼女の身体が抱き寄せられる。


「サク、ジョ、シマ、シマ、シマ……!」

「ったく、危ねえよ本当」

 半壊したスレイジェルの頭を握撃で完全に破壊。沈黙した事を確認し、変身を解除した。

「睡蓮、怪我とかしてねぇよな?」

「……」

「あのー、睡蓮さーん?」

「ぇ、あっ!? し、してねーし!? べべ、別にびっくりなんかしてねーし!?」

「何で怒ってるんだお前」

 抱き寄せ、抱き寄せられた状態で、スレイジェルのいない空へ2人の声が吸い込まれていった。



続く

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