↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/15

世界樹、顕現+Dragoon of salvation

 

 掴まれた腕を咄嗟に振り払う虹葉の顔に、初めて焦りが浮かぶ。無理もないだろう。つい少し前、横で這いつくばる紅葉と共に彼が敗北する姿を見届けたのだから。

『あの時、確かに破壊されたと思ったんだけど……?』

「お前の言う通りだ。俺のデータは損傷した身体を離れて、死んだ状態に限りなく近づいた」

 彼岸だけではない。ブレイクソードもプラグローダーも健在である。

「弟切の錆の侵食から逃れる為に、一時的にプラグローダーへ俺のデータを避難させた。出来る可能性は限りなく低かった上に、長時間そんな事をすれば二度と戻れなくなる賭けだったが」

『そう、賭けに勝ったわけ……』

 しかしそこで虹葉の顔に笑みが戻る。同時に桜も気がついた。未だ彼岸の身体には三筋の深い傷痕と、そこから漏れ出す火花に。

『錆から逃れる為に、って、フフフ、そんな傷じゃあどの道戦えないじゃない! あぁ、少しびっくりしたけど、別に何てことないかぁ』

 意識の無い紅葉へ再び手を伸ばそうとする。しかしその瞬間、黒い一閃が走った。


 虹葉が伸ばした右腕が霧散する。


「っ!?」

 彼の行動に桜は思わず絶句する。しかし当の虹葉は少し苦い表情を浮かべたのみで、痛みを感じている様子はない。

『そう。もう躊躇いはないのね』

「融合を始めた時から既に、忌魅木蒼葉の身体組成は変異しつつあった。俺達スレイジェルと、いや、ノアと同じデータのみの存在に」

 虹葉の腕からは切断された箇所から紐のような光が何本も生え始めている。それが彼岸の言葉が真実だと言う事を告げていた。

『分かってるなら、もっと注意しなきゃ。こんな事だって!!』

 光が幾重と絡まり合ったかと思うと、ヤツメウナギに似た口を形成。紅葉を呑み込もうと迫る。

 彼岸は再びブレイクソードを振るおうとする。だがその時、桜の背中を押しつける力が消えた。

「彼岸、危ない!!」

 桜の叫びへ僅かに反応したおかげか、飛来した錆色の弾丸は彼岸の目前を通り過ぎ、電子回路の壁の一部へ直撃。爆風で投げ出された。

『相変わらず雑な仕事。まぁいいわ。もうこれで、用は無くなる』


 紅葉は成す術なく、虹葉の腕に頭から呑み込まれてしまった。閉じた腕の端から光の粒が食べ滓のように零れ落ちる。


「紅葉!!」

「口を開けばその名前ばかり。やはり貴様はバグに侵されているな」

 駆け寄ろうとした彼岸の前に立ち塞がるのは、弟切。

 彼の眼は生きていた彼岸を見て怒りに燃えているのに対し、口元は歓喜で吊り上がっていた。

「弟切。……分かった。お前を倒さなければ、紅葉達を救えないのなら」

「大層な口を聞く。貴様は私に敗北したのだぞ? それに、あの人形があぁなってしまったらもう人類は滅ぶしかない。貴様は、貴様達は負けたのだよ」

「まだ光は消えていない」

 彼岸が指差した先を、弟切は目で追う。そこにはプラグローダーから光の柱を放ちながら立ち上がる、桜の姿があった。

「あのジェノサイドが何だというんだ。まさか、奴が救うと?」

「世界の平和が簡単には続かない事と同じだ。世界が簡単に滅ぶ事なんてない。それを日向桜が証明する」

 だから彼岸は信じて弟切へ向かい合う。コネクトチップを入れ、ブレイクソードへ手を掛ける。

 その信念と願いを断ち切る為、弟切は《イロージョンローダー》へ手を掛ける。


「変身」

「変身」


《Scars don′t disappear Grudge is eternal 復讐者よ、怒りのままに力を奮え!!!》

《英雄 失意の果て 錆びた剣で全てを砕け Rust of Hero》


 三度邂逅した2人のブルームの、最後の戦いが始まった。



『どぉしてまだ立ち上がるの、日向桜くん?』

 紅葉を喰らった虹葉の身体を、寄せては返す波のように何度も紅い波動が巡る。そして背後では種子が動きを止めた。

 ヒビが入り、中から吐き出されたのはケーブルに繋がれた異形のプラグローダー。9つのコネクトチップが直接埋め込まれ、中央でそれらを繋ぐ種に似た制御装置。

 虹葉はプラグローダーを手にすると、左手首へ巻きつけた。蔦のように虹葉の肉へ食い付く。

『もう終わり。あなたが私を倒す力はない。見える? このプラグローダー、いえ、シードローダーがあれば、草木ヶ丘だけじゃない、全世界の人類を消去出来る』

 しかし桜は歩みを止めない。

『それとも、あなただけは残してあげようかしら? 私達の一部が世話になったみたいだし……まぁ、それくらいの温情なら』

 歩みを止めない。

『っ……もういいわ』


《Wake up Server Seed》


 シードローダーが起動。9つのチップから葉が生えた蔓が伸び、中央の制御装置へ根付くように集結。


『変身』


《創生 終わり 滅亡 始まり 9の魂交りし時 生命 遍く崩壊すべし!! Our name is Yggdrasill!!》


 身体を突き破る大量の蔓。やがてそれは虹葉を締め付けるように絡みつき、中心から双葉が開く。双葉はすぐに虹色の花を咲かせ、そして花弁は散る。

 散った花の中から現れたのは、少女の姿ではなかった。


 身体の各部に埋め込まれた眼玉に似た宝玉。身体中に走る木の根の様なライン。背中から翼の様に伸びた枝葉から垂れ下がる9つの水晶で出来た花は、それぞれが全く違う色に輝いている。


《End of The World》


『完成した、完成した! 遂にこの時が!!』

 色鮮やかな姿とは真逆の、深淵の様にぽっかりと空いた顔面から響く声。反響する様な音を並の人間が聞いたなら、根源的恐怖に心を蝕まれて精神が崩壊してしまうだろう。

 桜の歩みが止まる。しかしそれは恐怖に囚われた為ではない。


「変身……!」


 構えすら取らずに変身した姿は、《ピュアフォーム》。桜が初めて変身し、最も性能が低い原初の形態。

『今更そんな力が役に立つと思っているの?』

 虹葉は言う。そんな力と。それはピュアチップが起こしてきた様々な奇跡を知らない、あるいは信じていない何よりの証拠だった。

「あぁ。必ず役に立つ。お前達から蒼葉と紅葉を助ける」

『やってみなさいよ、偽善者!!』

 虹葉は、《ユグドラシル》が叫ぶと同時に、枝の水晶から七色の光線を放った。走り出したリンドウは光線の間に出来た僅かな隙間を潜り抜け、スラスターブレイドを振り下ろした。

 難なく人差し指と親指で挟む様に刃を受け止めるユグドラシル。

『この程度、やっぱりそんな力じゃ──』


 その時、桜の頭を閃光が駆け巡る。




「……やはりあの子以外は、ダメか」


── お父、様…………お願い……消さないで ──


「虹の葉計画……無茶なものだとは理解していたが、それでも……いや、もう終わりにしよう」


── お父様……私は……私達、まだ…… ──


 指がパネルの文字へと伸びていく。1から6の培養器内に浮かぶ生命を、この世界から抹消する文字へ。


── やだ……やだ、やだ、やだ……私、私達、まだ……まだお母様の顔も…… ──


「……さようなら、愛している」


 水かきが僅かに残った手を伸ばしても、愛していた父親に彼女達の願いは届かない。身を砕かれる痛みと絶望に溺れながら消えていった。


 たった1人の妹を残して。




「今のはまさか、虹葉の……記憶、かぁっ!?」

 リンドウは動きを止めた隙を突かれ、、ユグドラシルから背中の翼で殴打され、床に叩きつけられた。

『まさか、今更怖気付いたのかしらぁ?』

「がっ!」

 腹を蹴り上げられ距離を離される。この後に来る攻撃が何なのかはリンドウにも予想出来ていた。

 降り注ぐ光線をスラスターブレイドで受け止めようとしたが、半ばから溶かされて折れる。急ぎ投げ捨て、痛みに悶える身体へ鞭打ってユグドラシルの元へ駆ける。


 今の光景が幻でないのなら。今の記憶が偽りでないのなら。


 光線が腕を掠めた熱さなどに構わず、リンドウはユグドラシルへ拳を打つ。




「お母様! お母様!!」


「…………」


 走っても走っても、幼い足では追いつけない。


「見て、見て!! 私の設計図!!」


 振り返ってくれない母を振り向かせたくて。ただ話して欲しくて。


「お母さ、あっ!?」


 もつれた足は小さな身体を支え切れず倒れてしまう。散る花弁の様に舞う設計図が、バラバラになって降ってくる。


 その内の1枚が母を追い越した。目に入った筈だ。きっと拾い上げてくれる、いや、立ち止まってくれるだけでいい。


 気づいて欲しかっただけなのに。


 母は設計図を踏みつけ、意にも介さず去って行ってしまった。最後まで、自分にも目をくれず。


「お母様…………」


 分かっている筈なのに、分かりたくなかった。母は自分を愛してもいなければ、嫌ってもいない。


 存在すらしていないのだから。


「お母様ぁ……ぅ、ぅぅ……ぁぁ……!!」




『何が、したいのかしら!?』

 反撃に振われたユグドラシルの拳がリンドウの頭部を捉える。アイレンズに亀裂が走り、小さな破片が散る。

「どう、して……!?」

『ンン? 今ので頭がやられた? なら今度は身体の番ね!!』

 水晶が輝き始める。あれをこの距離で喰らえば間違いなく死を迎えるだろう。

 だがリンドウには逃げる事など出来ない。この痛みを抱えてユグドラシルの前から逃げるという行為は、蒼葉と紅葉を見捨てる事に他ならないからだ。

 だからリンドウは、最後にユグドラシルの胸元に触れた。




「お父様、お母様、何か、手伝う……?」


 研究に精を出す2人の力に、少しでもなりたかった。子供の自分には何も出来ない事くらい、紅葉は理解していた。


「何でもやるよ。お茶、持ってくる? それともあそこの紙、取ってくる?」


 自分に無償の愛をくれる両親に少しでも恩を返したかった。


「もうちょっと待っててね。これが終わったら遊んであげるから」


「……じ、じゃあ私、ここのお掃除してる!」


 机に置かれた資料に手を付けようとした時だった。横から割って入った大きな手が、資料を全て持って行ってしまう。


「あ……」


「柑菜、これ」


「ありがとう、紫葉」


 微笑みあった両親を見ても、何故か今は嬉しさが湧かない。代わりに湧き出るのは、よく分からない感情。


 やがて父は目線を合わせ、冷めた目のまま頭を撫でた。


「仕事の邪魔だから静かにしていようね、紅葉」


 邪魔。


 あぁ、邪魔なのだ。自分が2人に何かを返そうとするなど、邪魔でしかない。


 ただそこで笑って、2人に可愛がられていればいい。それが自分に課せられた役目なのだ。


 なら、自分にある、価値は、人形と、同程度、という、こと。


 人形と、同じ。人形。




《Update Complete End of The World Finish!!》


 放たれた光に身体を呑み込まれる。熱い。ひたすら熱く、痛い。

 リンドウの薄い装甲など歯が立たない。身体を焼かれる最中で変身が解け、受け身すら取れないままに床へ墜ちた。

 全ての音が小さく聞こえる様になってしまった耳に、ユグドラシルの高笑いが入り込んでくる。だが桜の耳にはこれが、泣いている様にも、怒りに狂っている様にも聞こえていた。

 薄く開かれた瞼の隙間から涙が落ちる。あの記憶を見て、涙を抑える事など出来なかった。届く場所にいた筈の家族から突き放される絶望。自分の価値を見定められる絶望。それを否定される絶望。



「蒼葉姉さんは、自分の存在を。紅葉姉さんは、自分の価値を。名前すら貰えなかった姉さん達は、自分の全てを。一番認めて欲しかった2人に否定された」



 はっきりと聞こえる声がひとつ。蒼葉にも、紅葉にも、よく似ている。しかし桜が聞き間違える事はなかった。


「世界なんか、人類なんか滅べばいい。姉さん達の想いを知った時は私もその通りだと思った。でも、同時に、助けたいと思った。いつまでも2人に縛られたままの姉さん達を」

「分かってるよ。そうじゃなきゃ、裏切る時にあんな顔する訳ないから」


 自分を見つめる白葉の顔が僅かに笑った。申し訳なさそうに、切なそうに。

「あの時ピュアチップから出た光、あれは白葉が、俺と彼岸を、そして、俺と虹葉を繋いだもの」

「ピュアチップは、蒼葉姉さんが初めて完成させたコネクトチップ。たった1枚じゃ何も出来ない力。でも、沢山の力が繋がった今なら」

 光の柱は一層輝きを増し、やがてそれはユグドラシルの水晶の1つと繋がった。



『アッハハハ、ハ……な、に、この光……?』

 光を得た水晶は白く発光、そしてそこからあるものと繋がる。

『セブンス、ローダー……!? そんな、もう起動する筈ない!! 力は全て私のローダーが……!!』

「白葉は、残してくれていた……お前達を助ける方法を!」

『白葉……!? どうしてあの子が……ウグァッ!?』

 瞬間、水晶から飛び出した光の蛇がセブンスローダーを咥え、桜の元へ運ぶ。

『なるほど……あの子、最初からこのつもりで……でも残念。例えそれが起動出来た所で私達は倒せない』

「《セブンスロード》じゃ、シードの力を上書き出来ない。一生お前達を倒せないまま、時間切れになって人類は滅ぶ。お前達には、《セブンスロード》も《ヘルズドミネーター》でも歯が立たないだろうな」

 桜はユグドラシルが言おうとした言葉の先を、まるで最初から知っていたかの様に語り出した。

「なら、俺もお前達と同じ力を貸して貰う。そうすればきっと……」

『私達の……ユグドラシルの、力を? どうやって?』

「白葉がくれたプラグローダーが、もう集めてくれた」

 桜が掲げたプラグローダーの光を見た時、ユグドラシルはようやく気がついた。《ピュアフォーム》で戦いを挑んだあの時、触れた身体からユグドラシルのデータを取り込んでいたのだ。


「そして、今からそれを繋ぐ!」


 プラグローダーから吐き出されたピュアチップ。宙を舞い、桜が手にしたセブンスローダーと融合する。

 現れたのは、翼を持った騎士が刻まれたチップ。


 桜は迷いなくプラグローダーへ装填。合わせてドラゴニュートローダーとインフェルノフォックスチップも装填した。



《Connection Server Cem and Seed》



『っ!! させない!!』

 ユグドラシルは光線を放つ。桜を変身させてはいけない。そう理解しているというのに、いくら狙い定めて撃ち放っても桜には当たらない。


 周りを穿つ熱に構わず、桜はプラグローダーを掲げる。


 背後に感じた、尊敬する兄の幻影へ誓う様に。必ず助けてみせると。



「変身!!」



《英雄 進化の極致!! その身に砕けぬ鎧を!! その魂に折れぬ信念を!! 手にした力で己が正義を貫け!! Evolution of Hero!!!》



 ディノニクスジェノサイドの姿となるが、その漆黒の身体がすぐさま白く染まる。周りを囲む9つの光輪から鎧が現れ、ディノニクスジェノサイドと融合していく。

 純白と純銀の装甲に走る、黄金のエネルギーライン。胸の中央で輝く宝玉は紅から蒼へ変わり、顔を覆う兜から金色の一本角が突き出した。



《Through the Justice,Perfect Power》



 リンドウが辿り着いたもう一つの極地、《ジャスティスドラグーン》。

 静かに佇む竜騎兵のアイレンズが、眩い光を放った。



続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。