表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/15

呪いの連鎖を断ち切る力+I will never forget you

 

 錆行く刃に刻み込まれた制限時間を、ヒガンバナは予想できない。ブレイクソードの錆に目をやったことが見えたのか、リンドウ・イミテーションのマスクの裏側から不気味な笑い声が響く。

「追いつく事は出来そうか?」

「言った以上はやってみせる」

「そうか、ならば!!」

 ヴァイティングバスターを叩きつけた場所から隆起する床。突き出したのは錆びついた槍の様な鉄塊だった。これ以上触れればいよいよヒガンバナは肉体も精神も汚染されてしまうだろう。かといってブレイクソードで凌ぐことも厳しい状況。


 ヒガンバナが狙うのは、切り札が使えるようになる時間を稼ぐこと。いつか届くであろうあの力を、今は待つことが最善の作戦なのだと。


 二度、三度と、転がりながら回避し、レールガンモードでの牽制を繰り返す。リンドウ・イミテーションの装甲を貫くことが叶わないと知りながらも、その体勢の安定性を僅かでも崩す為に。

 それを知ってか知らずか、リンドウ・イミテーションが苛立つようにマスクを搔きむしる金属音を鳴らし始める。

「怖気づいているのか……?」

「お前に勝つ為には必要なことなんだ。……そして、間に合ったな」

「間に合った……?」

 ヒガンバナの奇妙な発言と同時に、何かがタワーの壁を突き破って飛来した。


 その正体はアルゲンタヴィスフォン。その背にあるものを背負い、そしてそれをヒガンバナの元へ投げ渡した。


 リンドウ・イミテーションは、弟切はそれを知らない。ヒガンバナの、彼岸の手にあるそれが、彼の大きな転機となった力であることを。

「それは……まさか」

「デストロイローダー。俺が復讐者でなくなった証だ」

「あの人形が、特別な出自のものは全て奪った筈だ。何故今になって……?」

「サーバーセムに復元させた。一度きりしか使えないが……お前との決着はこの場で付けなければならない。十分だ」

 自身を一度データに変えて難を逃れた時、サーバーセムに複製させた切り札。出自の特殊性故にセムですら一度の使用に耐えうるものしか作れなかった。しかしその力は奪われたものと一切遜色ない。このごく短時間で作り出したセムと、それを送り届けてくれた紅葉の相棒へ感謝の念を送る。

「最初に会ったときに言った筈だ。その力で私を倒す事など出来ない」

「戦えば分かることだ。この力をデータのみで捉える事の間違いが」


《Coad Break!!》


 デストロイローダーを接続。瞬間、ヒガンバナの眼が紅く染まる。


《I destroy everything,I sever all connections!! 運命、呪縛、因果!! 破壊者よ、全てを打ち壊せ!!!》


 その姿を、《コードデストロイヤー》へと変化させた。ブレイクソードに纏わりついた錆が弾け飛ぶ。戦う真の理由を見つけたあの時に得た力の前に、精神を狂わせる呪いなど届かない。

「これでようやく、お前と向き合えるな。No.3」

「ハハ、ハハハハハ……ハッハハハハハハハハハハ!!! 来い、No.1!!!」

 互いに走り出し、互いに振り下ろし、互いに刻み付けられる傷。自らの古き名を斬り捨てるように繰り出された一撃で2人はよろめく。が、再び振り下ろした刃同士がぶつかり合った。

「どうしても、お前に聞きたいことがある!」

 鍔迫り合いを制したヒガンバナが、ブレイクソードとデストロイセイバーを交互に叩き込む。

「お前が蘇ったのは、あの時の決着が納得いかなかったからなのか!?」

「ぐぁ、ぐっ、何度言わせる気だ!!」

 同時に振り下ろされたタイミングでヴァイティングバスターを合わせ、リンドウ・イミテーションは弾いたところへ反撃の一振りを打ち付ける。

「私を殺したあの時から、貴様は復讐の道を歩み続ける定めにあった筈だった! それを、それを貴様は、あまつさえ憎悪の対象だった人間を許し、その言いなりに!!」

 振り抜いた勢いを利用して打ち下ろされる大上段からの兜割り。ヒガンバナは2本の剣を交差させて受け止めた。

「人間に、憧れるなど!!」

 防御を崩し、左手の鉤爪で抉る様にヒガンバナの胸部を掴む。浸食しようとする錆は、鎧に食らいつくことが出来ずに剥がれ落ちていく。デストロイセイバーを足元に突き刺し、空いた手でリンドウ・イミテーションの左手を掴み返した。

「俺にとっての救いが、お前にとっての裏切りになった。……憎しみに任せてお前を破壊したあの時、呪いを刻んだのは俺も同じだったわけ、か」

 憎しみが伝染する。その苦しみを体現したものが、リンドウ・イミテーションが、弟切がこの世に蘇った時に得た能力だった。

 ならば猶更、この因縁は終わらせなければならない。

「ならば俺には、もう一度お前を葬る責務がある!!」

「それは私とて同じだ!! 今度こそ貴様を憎悪の感情と共に地獄へ送る!!」


《Coad Buster Program Install》

《Rust Loading!!》


 ヒガンバナはブレイクソードを、リンドウ・イミテーションはヴァイティングバスターを投擲。切っ先が衝突し、回転しながら宙を舞う2本の剣。風を斬る音だけが、空間に響く。

 剣が床に突き刺さった瞬間、


「「ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!」」



《Update Complete Destroy Finish!!》

《Update Complete Rust Finish!!》



 全てを振り切るような絶叫。破壊の剣と錆びた鉤爪がぶつかり合う轟音。崩れかけた部屋から大量の瓦礫が降り注ぐ。

 同じ人間に生み出された2人の運命は異なるものだった。ぶつかり合うことは必然だったのだろう。


 強烈な光が空間を包んだ。爆発はない。先ほどまで周囲を震わせた衝撃と轟音も消え失せ、静まり返っている。

 背中合わせになった2人の内、1人が背中を預けるようにもたれかかった。変身が解け、弟切の素顔、スレイジェルとしての姿を晒す。

「貴様には……届かなかったか……」

「……悔いはまだ、あるのか?」

「もう、どうでもいい事だ……決着はついた……私には貴様のように逃げ込む場所も、還る場所もない」

 ならば散りゆく体は何処に行くのだろう。地獄は人間が行く場所。スレイジェルがこの世界から去った時、何処に、誰に救いや償いの機会を求めるべきなのか。

 そんなヒガンバナの思考を察したのか、弟切は途切れ途切れな笑い声を零した。

「何処にも行かない、ただ消えるだけだ……初めから、世界に存在していないことに、なるだけ……」

「そう、か。それならきっと、お前は消えない」

 ヒガンバナの不可解な発言に閉口する弟切。だが発言を否定することはしない。続きを待つように口を閉ざす。

「誰かが覚えている限り、存在がなかったことになんてならない。俺は絶対にお前を忘れない」

「それに、意味はあるのか……」

「ある。俺はそれを、彼等を、人間を見て知った」

「ふ、ふふ……人間か。どうやらよほど、人間に憧れているみたいだな……」

 弟切の右手からプラグローダーが落ちる。きっとこの中に彼の記憶や魂は入っていないのだろう。崩れ行く体と一緒に消えていく。

 変身を解除した彼岸の手に弟切の灰が降る。小さな山を形作ったその時、背中から重みの全てが消失した。



「心配することはない……貴様は十分、人間だよ」



 最期の言葉を聞き届け、灰の山を握った。


 砕けたデストロイローダーの破片をかき集めるアルゲンタヴィスフォンへ近づくと、手に取ってセムからの情報を確かめる。

「……そうか。理論上可能なら十分だ」

 背後で崩れ落ちたシードから彼岸のプラグローダーに舞い戻るもの。再び融合を遂げたデスレイズローダーを確認し、空を見上げる。

「宇宙に行くのは初めてだが……」

 すると、彼岸の側へあるものが近寄ってきた。


 蒼葉が操られて以降、姿を見せていなかったプレシオフォンだった。シードローダー生成と同時に役目を終えたように消えてしまったダークプレシオフォンと入れ替わるように現れたが、同様に乗っ取られていたのか、それとも兄弟機のような存在だったのか。

 ただ一つ理解出来たのは、彼も主人を救いたいという意思があるということだけ。

「当然だ。一緒に行くぞ」

 隣に並んだアルゲンタヴィスフォンもまた、頷くように飛翔した。



続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ