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空へ融ける憎悪+It ’s not hatred, it ’s a mission.

 

 水晶の輝きが見えた瞬間、リンドウは一瞬で間合いを詰める。ユグドラシルが拳を打ち出して反撃した瞬間、リンドウの拳が放たれた。ぶつかり合った瞬間、辺りを超新星爆発と見紛う光が包む。

 弾かれた2人は互いに大きく距離が離れる。リンドウの拳にも、ユグドラシルの拳にも、深い亀裂が走っていた。

『こんな、事……っ!』

 ユグドラシルは右腕を、何重にも絡み合った枝に似た光の鞭へ変化させる。床を抉り取りながら迫る腕に対し、リンドウは左手に盾を出現させた。

 見た目こそ《イノセントシールダー》のものに似た小さな盾だが、何倍もの質量差がある鞭を難なく防いでみせる。

 それでもなお盾ごとリンドウを砕こうと乱れ撃たれる鞭を、右手に出現させた光の槍が斬り裂いた。

『盗作でここまで張り合うなんて気に入らない!』

 今度は腕を地面に突き刺したかと思うと、リンドウの周りに虹色の樹木が生長を始める。それらは瞬く間に実を成し、雨の様に光線を放った。

 対するリンドウは盾から更に光の波動を展開、ドーム状のシールドでそれらを防ぐ。

「虹葉。お前達はこの世のどの人間よりも深い絶望を味わった。他人全てを恨む権利もきっとある」

 光の雨の中、リンドウはユグドラシルへ言葉を投げる。

「けど、だからこそ、蒼葉と紅葉の記憶を見たら分かる筈だ。世界中の誰もが敵なわけじゃない。2人を想って、2人がまだ必要な人達がいるって事を!」

『この世に何十億という人間がいて? その内の何人よ? 何%よ!? そんな想いが何になるっていうのよ!!』

 光線が苛烈になっていく。ドームを突き破る物が出始める中、それでもリンドウは言葉を止めない。

「そんな想いが、2人の心と運命を変えてきたんだ! 知らないふりをしないでくれ! 2人と1つになっているなら、2人の姉さんならきっと!!」

『いつまで英雄気取りで偉そうに、うぅっ!?』



── どのみち俺がやらなかったら2人共死ぬ!…………あぁ、やれるさ、俺なら絶対にやれる!! ──


 最初はどんなに無茶で、どんなバカかと思ったけど。



『何よこれ、何が起きて……』



── お前を、救い出してみせる……紅葉!! ──


 長い間待たせて、そんな事よくも言って。



『こんな事、知らない……こんなの私達の記憶じゃない!』

 ユグドラシルは自身に言い聞かせる様に叫ぶ。目の前に見えた幻覚と、それを見て湧き上がった温かい心を否定する為に。

「俺達は忘れない。お前達がこの世界にいた事を。お前達のおかげで、蒼葉と紅葉が俺達と出逢えた事を!!」

『ぃ、ぁぁ、やめて、そんな事、言わないで……!!』

 姉達がいなければ蒼葉はいなかった。蒼葉がいなければ紅葉は救えなかった。

 自分達の存在は決して無意味じゃない。誰かからそれを伝えられたかった筈なのに。今のユグドラシルにとって、最早それはこれまでの計画と行いに対する否定にしか聞こえない。


『私達は、存在しない……必要、ない……だから、この世界も、人間も……!!』

「必要なんだ!!」

『うぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!』

 慟哭が響く。降り注ぐ光線が自身を避け始めた瞬間を見逃さず、リンドウは背中から巨大な竜翼を展開。乱れ撃たれる光を羽ばたきで全て押し返し、ユグドラシルへ接近する。

「俺達はお前達を拒絶しない!」

『いやぁぁぁぁぁぁ!!!』

 拒む為に振るう拳を、リンドウも全て拳で受け止める。打ち返すのではない。受け入れるように。

 その時だ。リンドウの持つプラグローダーから再び光の柱が放たれたのは。

『ぁ……』

 ユグドラシルもまた、リンドウの、桜の過去を見た。



 両親はいない。同じく連れ去られたエリカのインフェルノコードを解放する鍵を埋め込まれ、ジェノサイドとしてその身を転生させられた。

 そんな事すら知らぬままに人間として過ごし、やがて蒼葉と出逢ったことで仕組まれた運命が動き始める。得たものよりも、失うものが多く。傷つけた数と同じだけ、傷ついた。そんな残酷な運命が。

 彼が幼い頃に信じていた英雄像は、幾度となく裏切られた筈なのに。



『どうして貴方は……貴方でいられるの……?』

 消え入るような声で投げかけられた問いに、リンドウははっきりと答えた。


「信じているから。仲間を……俺自身を」


 受け止めたユグドラシルの拳が、力無く垂れる。虚空の様な顔から漏れ出る微かな息は、啜り泣く様に、それでいて笑う様に吐き出されていく。

『……そう、なの』

 他人を信じる事はきっと出来なかっただろう。だがそれ以上に自分を信じられなかった。必要ない、価値がない存在だと思っていたのは、自分達だったのだ。



 戦いの手が止まった2人に視線を僅かに向ける彼岸。だがそれもほんの一瞬しか叶わない。

「彼岸!!!」

 振り下ろされるヴァイティングバスターを受け止め、すぐにそれを受け流す。

「あんな茶番に構うな……もう一度死にたくなかったらなぁ!!」

 再び振るわれるヴァイティングバスターを持つ手を蹴り、拳をブレイクソードで弾く。リンドウ・イミテーションに迂闊に触れれば次は助からない。

「あれが茶番に見えるのか、お前の目には」

「茶番以外の何に見える? 人類を消す、世界を滅ぼす。大層な題目を唱えながら、結局同類の説得で思いとどまる。半端者同士の傷の舐め合いなど!」

 伸ばされた腕に囚われないよう、ヒガンバナは大きく飛び退いた。まるでそれを予測していた様にリンドウ・イミテーションがヴァイティングバスターを振るうと、澱んだ衝撃波が襲い掛かる。

 ブレイクソードで撃ち返すが、威力を相殺しきれずに吹き飛ばされる。地面に着いたヒガンバナがブレイクソードを見ると、刃に僅かな錆が付着していた。

「遂に貴様の頼みの綱も限界か」

 身体の各部から火花が散るヒガンバナを見る目は憐みすら抱いている。しかしヒガンバナの動きに躊躇いの様なものは全く見られない。

「日向桜の言葉が忌魅木虹葉に届いた。この事実が見えないのか」

「届く事自体が、人間の不完全さ、醜さを表していると、貴様こそ見えないのか? 忌魅木博士がノアを生み出し、人類を滅亡から救う為に管理したがる訳だ。……あんな狂人の事などどうでもいいか」

 追い討ちで突き出されたヴァイティングバスターを躱すと、先程までヒガンバナがいた場所に巨大な蜘蛛の巣状の亀裂が走る。

 ブレイクソードをレールガンモードにしてリンドウ・イミテーションを狙い撃つが、一切効いている様子がない。

「弟切、人間が不完全だと言ったが、それは違う」

「何?」

「人間に限らない。この世界に完全なものはない。皆、不完全な存在、何かが欠けている存在だ。人間も、ジェノサイドも、俺達も」

 リンドウ・イミテーションがマスクを掻く。錆がボロボロと溢れ落ち、床を腐らせる。

「誰もが欠けた部分を埋めてくれる何かを求めている。欠けた部分を埋められる人間が何処かにいる。だから一人では生きられない」

「彼岸、戯言を良い加減……」


「完全な存在がない様に、この世界に何の意味もない存在なんかない」



「虹葉……」

 攻撃の手が止み、項垂れるユグドラシル。リンドウは彼女達へ手を差し出す。

『ありがとう。最期に・・・、良い言葉を聞けた』

「最、期……っ!?」

 ユグドラシルの背中の樹が急速に枯れたかと思うと、9本の根が突き出す。やがてそれらは巨大な虹色の葉へ変わり、顔面の深い穴から一輪の花が咲く。

『もう、遅かッタ……世界、は、削除、すべき……削除、します……削除、削除、しマす……』

「何が起きて……虹葉!!」

 ユグドラシル身体を突き破り、辺りを無差別に刺し貫く枝。理解が追いつかない状況の中、それに目の当たりにしたリンドウ・イミテーションが苦笑した。

「人格が消えてプログラムになってきているのか。どうやらお前達の思い描いた幸せな結末は来ないらしい」


「虹葉!!」

 伸ばした手が枝に弾かれる事も厭わず、リンドウは名を呼ぶ。項垂れた花が、僅かに持ち上がる。


『さようなラ……大嫌いナ世界……大好きな人達』


 ユグドラシルの身体が、光の様な速度で飛び上がった。タワーの最上部を突き破り、光は空の果てへと突き進んで行く。

「そんな……」

「奴の狙いは衛星ノアだ!! 辿り着かれたら人類全てが消滅するぞ!!」

 呆然としていたリンドウはヒガンバナの叫びで我に帰る。

「行け、日向桜!! 彼女達を追え!!」

「彼岸……」

「俺も後から追いつく。心配はいらない」


 傷だらけの身体で言い切るヒガンバナの姿。しかしリンドウにとって、これ以上に無いほど頼もしく見えた。


「っ、あぁ!!」


《Come On Justice Dragon》


 プラグローダーから出現する、白銀の甲冑を身に纏った黄金の飛竜。それに跨ると、ユグドラシルの跡を追って飛翔した。


 空の向こう側。衛星ノアが浮かぶ、宇宙へ。



続く

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