第四十五話 ニーハオトイレとは?
最近、中国の公衆トイレがきれいになってきました。
とは言っても、日本の都心のデパートのように、きちんと備え付けのトイレットペーパーがあり、洗面台にもハンドソープがあって、安心して使用出来るレベルには、まだまだ遠いのですが……。
1990年代の中国では、大都市部でも、いわゆる『ニーハオトイレ』がまだまだ主流でした。
『ニーハオトイレ』とは、個室の仕切りもドアもなくて、コンクリート貼りの大部屋の床に、便槽に直接繋がる穴だけがいくつも開いており、用を足す時には穴をまたいで、トイレ入口方向に頭を向けてしゃがんで使用するトイレです。(つまり”ぼっとん”式トイレ)
自分の隣で用を足している人が誰なのか丸わかりだし、順番を待っている人とも『ニーハオ』と会話出来るという、何ともオープンなトイレなのです。
ちなみに、ニーハオトイレは、汲み取り式なので、用を足した後の汚紙は、専用のゴミ箱ではなく、排泄物と一緒に穴の中に入れてしまってもかまいません。
『ニーハオトイレ』がちょっと進化した水洗バージョンは、タイル貼りの大部屋の端から端まである大きな1本の溝を、またいでしゃがんで使うかたちになります。(さすがに前にしゃがんでいる人のお尻は見たくないのか、半個室になるように、前後の簡単な仕切りだけはあります。でも仕切りの高さは、しゃがんだ時に自分の肩までが隠れるくらいしかありません)
一定時間がたつと、溝の端から勢いよく水が流れ、溜まった汚物を一気に洗い流します。
だから、一番後ろの排水孔に近いところを使った時に、まさに"ウン"が悪いと、他人の汚物が自分のところに一気に押し寄せてくるという非常に恐ろしい思いをすることになります。((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
なお、用を足した後の汚紙を溝に入れると、下水管を詰まらせる原因になるので、仕切りごとにある専用のゴミ箱に入れます。(これだけを別途回収して焼却するらしい)
あまり日本人として使いたくないトイレばかりなので、私は、週末などにプライベートでよく行く場所については、”無料・キレイ・水洗・トイレットペーパーが備え付けてある”トイレの所在地を覚えておき、緊急時以外は、出来るだけニーハオトイレを使わないようにしていました。
しかしながら、仕事先では、やむなく『ニーハオトイレ』を使うこともありました。
上海勤務時代、研修を行っていたスーパーには、店内にトイレがありませんでした。
店舗があるのは、”里弄”とよばれる2階建ての戦前からの長屋が並ぶ下町で、お店どころか、付近の一般家庭にも、自宅内にトイレがありません。
地区の住民は、昼間は公衆トイレを使用し、夜間は、”馬桶”と言われるオマルを使用するのが一般的でした。(木製あるいはプラスチック製の桶に蓋がついている)
朝になると、住民は公衆トイレに馬桶の中身を捨てに行き、自宅の外で、専用のブラシを使って、汚れた桶をゴシゴシ洗って、通りに並べて干すのです。
私がスーパーに出勤する時間帯が、ちょうど住民が馬桶を洗っている時間帯で、汚水をかけられないように、足元に注意しながら、毎日歩道を歩いていました。
馬桶は、丸っこくて赤い色をしていて、ちょっとカワイイ形なので、新品を記念に買おうかと思っていたのですが、とうとう上海在住時代に、売っている店を見つけられませんでした。
(自分の研修先の店舗にも売っていなかったです。日系企業なので、馬桶を取り扱うという認識が無かったのかも?)
店舗に出勤してから退勤までの間は、お店の向いにあった公衆トイレを利用していました。
管理人を兼ねた清掃員さんが常駐しており、トイレットペーパーもある有料トイレです。
しかし、トイレの利用料金の支払いが必要なのは、よそ者だけです。
管理人さんは、ちゃんと地区の住民や店舗で働いている人の顔を覚えており、その人達からはお金を取りませんでした。
私も、最初のうちは、きちんと料金を支払っていたのですが、店舗に働いている外国人社員ということが徐々に認識されたらしく、働き出して1ヶ月くらいしたら、もう料金の支払いは不要になりました。(管理人さんから、ある日突然、『あなたは料金を払わなくていいよ』と言われました。地区の住民として認識されたみたいで、ちょっと嬉しかったです(^▽^))
夕方になって、日が暮れてくると、公衆トイレの中は灯りがとても暗くて、あまり使用したくない感じになります。管理人さんも帰ってしまい、無人となってちょっと危険なので、出来るだけ夕方からはトイレに行かないようにしていました。
今は、駅のトイレでも、きちんと個室でドアも灯りもある水洗トイレが主流となりました。
トイレットペーパーは備え付けされていないことのほうが多いので、自分で持ち歩いていますが、あまり気にせずに街でトイレに入れるようになったのはありがたいです。
相変わらず汚紙を専用のゴミ箱に捨てなければならないのだけが、日本人としてちょっと生理的にイヤですが……。早くきちんとした下水管が普及してもらいたいものです。




