第四十話 コワイコワイ博物館 その③
第三十四話で中国の怖い博物館を追加で紹介しましたが、おまけで香港のコワイコワイ博物館を紹介したいと思います。
赤柱にある『懲教博物館』(刑務所博物館)です。
赤柱と言えば、海辺にお洒落なオープンカフェやレストランが立ち並ぶ、日本でいえば”湘南海岸”のようなところです。
そんなお洒落な街からちょっと奥に入ると、赤柱監獄があります。
その監獄に付属しているのが、『懲教博物館』です。
お洒落な街のバスターミナルから、その名も”監獄行き”の路線バスに乗り、終点で降りると、道路の突き当りが赤柱監獄で、その脇に2階建ての博物館があります。
中に入ると、清代末期に斬首刑に処された囚人の写真(白黒)に始まり、昔から現在に至るまでの刑具が展示されています。むち打ち刑の鞭がマジで太くて痛そう……。SMの女王様が持っている鞭などとは比べ物にはならないですよ。むち打ち刑に合うと、一生跡が残るほどのひどい傷を負うそうです。
また、ベトナム難民が収容されていた時代の、手作りの武器や麻雀牌なども展示されています。空き缶を利用して作ったナイフが面白かったです。人間って限られた条件でも、結構DIYって出来るのね。勉強になりました。(……何の?)
そして、2階に上がると、過去から現在に至るまでの監獄の独房が、囚人のマネキン人形付きで再現されています。もちろん檻の中に入ってみることもできます。
結構、今の独房って広めで、日本のワンルームマンションよりも、ずっとゆったりとした間取りです。
はっきり言って、私が北京時代に住んでいた留学生寮よりも、よっぽど広くて文化的な感じ。
当時、私は香港の監獄以下の部屋に住んでいたのか……(´・ω・`)
そして、圧巻なのが、『絞首刑の死刑台』。
現在、香港では死刑を廃止しています。最後の執行は1966年だそうです。(当時の新聞記事が展示してありました)
歴史的な遺物として、実際に使われていた”本物の”死刑台が展示されています。
かつて香港は日本と同じように、落下式(死刑囚の足元の踏板が開き、落下する)の死刑台を使っていました。
本番で失敗しないように、死刑執行の前には、死刑囚の体重と同じ重さの砂袋を使って、刑務官が夜間に何度もリハーサルをしたそうです。そして、囚人達はその音を遠くに聞いて、『あぁ、誰かが近々執行されるな…』と分かったのだとか。
絞首刑の際に、死刑囚を苦しませずに、人道的に一発で昇天させるには、囚人が落下する速度を利用して頚椎を折るのがベストだそうで、そのためには、きちんとした力学に基づき、囚人の体重から、セットする縄の長さや錘の重さを算出する必要があるそうです。
死刑台のとなりには、この力学に基づく錘の重さの一覧表が展示されていました。
この絞首刑の力学については、夏目漱石の『吾輩は猫である』の文中でも、登場人物の1人である理学士の寒月さんが詳しく説明していますよね。私はてっきり小説の中の架空の学説かと思っていたのですが、実は実際に活用されている”本物”の理論でした。
絞首刑のロープは、運動会の綱引きに使うくらい直径が太く、これまでにたくさんの人の脂を吸ってきたためか、ちょっと底光りした感じで、実に気持ち悪い(-_-;)ところどころについている黒っぽい染みが、さらに気持ち悪さを倍増させています。
あのロープを首に巻かれるだけで、私はその場で首が締まって窒息しそうです。
また、輪っかになったロープの下の踏板がきちんと開いており、下を見ると、入口まで吹き抜けになっていました。つまり、博物館の入り口で上を見上げれば、絞首刑のロープがブラブラぶら下がっていたわけです。残念ながら入館時に私は気づきませんでしたが……。
館内は、写真を撮ってもOKだったのですが、さすがにこの死刑台の写真を撮ることは出来ませんでした。ヤバいものがいっぱい写りこみそうだったので。
絶対に霊能者の人は立ち入ることが出来ないスポットだと思います。




