第百二拾七話 パンダ
中国の活きる国宝……パンダ(大熊猫)。
海外の動物園がパンダを飼育する場合は必ず中国政府からの貸し出しとなり、年間数億円とも言われる超高額なレンタル料金を支払わなくてはらない上、繁殖に成功したとしても、生まれた子供は海外動物園のものにならないという、何ともスゴイVIP待遇の動物です。
日本を含む海外ではセレブ暮らしをしているパンダですが、実は、中国ではそれほど特別待遇になっておらず、一番人気のある動物というわけではありません。
もちろん生息地の四川省にはパンダ専門の保護区があって、たくさんのパンダが飼育されていますし、北京や上海の動物園にはパンダ舎があって、見学のためには特別料金を徴収されます。しかし、何というか日本よりもパンダの扱いが全般的に”雑”なんですよね……。(;^_^A
例えば、日本のパンダはきちんと毛並みが清潔に保たれていて、もふもふした体毛が黒と白、はっきり分かりますが、中国のパンダは埃っぽく薄汚れていて、あまり黒と白がはっきりしない……というよりも白の部分が何となく茶色い……。
パンダ自身もちょっと小汚い分、愛想でカバーしようと思っているのか、日本のパンダよりもツンツンしておらず、見学客のほうを向いてお座りして時々手を振ってみたり、滑り台を下りてみたり、まるで漫画の『しろくまカフェ』のパンダくんのようです。(^▽^;)
今となっては考えられないことですが、1990年代の中国にはサーカス団にパンダがいました。有名なところでは重慶のサーカス団にいた”英英”ですね。なんと彼は日本にも公演にきたことがあるらしいですよ。
私は2000年に上海のサーカス劇場で曲芸をするパンダを見ました。
当時、現地の友人が『田舎のサーカス団から借りたパンダで、上海生まれじゃない』と言っていましたので、もしかしたら私が見たのは重慶サーカス団の”英英”だったのかもしれません。
カワイイ犬や猫の曲芸が続いたあと、いよいよパンダの演目です。
それまで調教員のお兄さんはドラムスティックのような指揮棒を持って動物に指示を出していたのですが、急に竹刀のような大型の指揮棒に持ち替えて、舞台に上がりました。
その後ろをお目当てのパンダが……ヽ(^o^)丿
もふもふしてカワイイ~~♪と全力で言いたいところなのですが。思っていたよりもごっつくてカワイクナイ……。どうやらパンダはその日は仕事をする気分じゃなかったらしく、調教員の言うことをきかず、落ち着かない様子で舞台の上をウロウロしています。
……と、気乗りのしないパンダの様子を見た調教員のお兄さんは、突然、竹刀のような指揮棒(どうやら鉄棒だったらしい)を持って、思いっきり床を”ガツーン!”と叩きました。
その音を聞いて、急に”ビクッ”と身体を震わせてキビキビした動作になるパンダさん。( ;∀;)
『サーカスの動物だもんね……。普段から言うこと聞かないと叩いて分からせているんだろうね……。今日はちゃんとご飯をもらえるのかな?』
恐らく舞台を見ていた誰もがそう心の中で思ったことでしょう。
パンダは、いったんは調教員の指示を聞いて芸を始めたのですが、やはり気乗りがしないらしく、”パンダのバスケットボール”の演目のところで、芸を止めて座り込んでしまいました。そして、そんなふてくされたパンダを見て、笑顔のまま無言でまた指揮棒を床に思いっきり叩きつける調教員のお兄さん。
『パンダちゃん、お願いだから立ち上がって芸を続けて!お兄さんに今日のご飯抜かれちゃうよ~~(´;ω;`)』
私が心の中でハラハラしながらそう思っていると、パンダは調教員に叱られたのが納得いかないらしく、
「ぐぉ、うわぅっ!うわぅっ!」
としきりに吠えて反抗しています。その吠え声の何とも恐ろしいこと!((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
パンダの不気味な吠え声を聞いて、ちょっとざわつく観覧席。
反抗するパンダに対して、調教員のお兄さんは慌てず騒がず、相変わらず無言のまま指揮棒で”バシッ、バシッ”と今度は直接パンダの足元を数度叩きました。(中国の国宝で保護動物なのに……)
お兄さんに叩かれたパンダは仕方なくノロノロと立ち上がり、ボールを持って、また芸を続けました。
日本の動物園にいるパンダは厚いガラス窓の向こうにいるため物音が聞こえてくることがなく、つい愛玩動物のような感覚になってしまいがちですが、実はパンダは”ネコ目”(食肉目)に属する猛獣なんですよね~~。ナマの吠え声を聞いて本当は怖い獣であることを実感させられました。