第百二拾五話 ケンカ
日本では、中華系の人達は大声で話すのでうるさいと言われています。
もともと彼らの地声が大きいということもありますが、中国語は日本語よりも口を大きく開けてハッキリと発音しないと通じない言語のため、よけい大声に聞こえるようです。
ちなみに日本人でも『中国駐在経験者は話し声がうるさいのですぐ分かる』と言われています。たぶん喧騒のなかで声を張って話すクセがついているため、知らず知らずのうちに地声が大きくなっているのかもしれませんね。……関西系お笑い芸人みたいなもの?
さて、普段の会話でもケンカ腰のように聞こえる中国人同士が、実際にケンカをするとどうなるのでしょうか?下記の3つから選んで下さい。
①すぐに殴り合う
②ひたすら相手の非を述べて言い負かそうとする
③黙って我慢してやり過ごす
正解は①と②です。(まぁ、当たり前ですよね)
ただし、地方によって正しい答えは違います。
北京では、①が正解です。私は1995年頃に北京の道端で別れ話をしていたカップルの女性が、その場で履いていたハイヒールを脱いで、男性の頭をヒールで思いっきりぶん殴ったのを見たことがあります。ちなみに男性は流血していましたが、すぐに女性に反撃して、最終的にパトカーが来ていました。
北京ではケンカになっても、せいぜい靴のヒールで殴ったりするくらいですが、もっと寒い地方、例えば哈爾濱に行くと、ケンカになったら拳で殴り合うのではなく、すぐに刃物が出てきて殺傷事件に発展します。あまりにも寒いために、口を開いて相手を罵倒したり、外気温に拳をさらして殴り合うということがやりにくいため、すぐに勝負が付けられる”一撃必殺”のナイフに頼ってしまうそうですよ……。((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
では、②が正解なのはどこでしょうか?
それは、上海や広州のような南方の大都市です。
特に上海人は外聞を気にする人が多いため、他人の目が光っている場所で暴力沙汰を起こすなんて、『育ちが悪いと思われる』、『マナーの無い田舎者みたい』と言って嫌がります。
彼らのケンカは、大声で相手の非を理路整然と述べたてて、周りの人達の賛同を得たほうが勝ち、というものです。相手の理屈(屁理屈も含む)にやり込められて、手を出してしまったら、即、”負け”なんだそうです。だから、道端でケンカしている人がいれば、その周りに野次馬が沢山いて、それぞれ「アンタの言っていることは正しい」、「いや、間違っている」などと勝手なことを言いながらワイワイやっています。野次馬の意見を巻き込みながらワイワイ言っているうちに、何となく場が収まる(または警察が来る)のが上海のケンカのよくあるパターンです。
日本人はムッとしたりしても、その場は我慢してしまうことが多いのですが、中国人は違います。すぐに相手にクレームを出します。
以前、上海で私が現地の友人と一緒に会食した際に、点心の肉まんが傷んでいたので、慌てて食べるのを止めたことがありました。
「……あ~、この肉まん、食べないほうがいいかも。」
「何で?」
「ちょっと味が変なの。たぶん傷んでいると思う。」
「(肉まんを割って確認して)……本当だ、ちょっと待っていて下さい。レストランにクレームを出してきます。」
「いや、大きなトラブルになるとイヤだから、このままお金を払って出ましょう。ここに二度と来なければいいんだし。」
「なぜ相手が悪いと分かっているのに言わないんですか!日本人は黙って我慢してしまいますが、ここは中国ですよ!クレームはきちんと相手に言わないといけません。」
と言って、友人はすっと席を立ち、レストランのマネージャーを捕まえて、長い、長~い時間、ずっと”話し合い”という名のケンカをしていました。その間、手持無沙汰な私はひたすらお茶を飲んで友人の帰りを待つのみ。(´Д`)ハァ…
ようやく友人が席に戻ってきて、誇らし気に私に言いました。
「胖姐さん、やりましたよ!(^▽^)ようやく相手に非を認めさせて、肉まんだけでなくて、今回の食事代がタダになりました!」
たぶん日本人ならばクレームを出したとしても会計時に店側にそっと伝えるだけだと思います。(友達と一緒という状況なので)
でも、中国人は違うのですね。我らと彼らの考え方の違いを改めて認識させられる出来事でした。