第百九話 人中白
ちょっと今回は汚い話題なので、出来れば食事の後にお読み下さいね。
『漢方薬の原料』というと、どのような物をイメージしますか?
普通は、葉っぱやキノコのようなものが浮かぶのではないかと思います。
実は、漢方薬の原料には様々なものがあります。
動物由来のもの……セミの抜け殻や亀の甲羅、燕の巣や牡蠣殻など
植物由来のもの……霊芝、クコ、桂皮、生姜、甘草など
鉱物由来のもの……石膏、琥珀、金や水銀など
そして、ヒト由来のもの……胎盤や髪の毛、排泄物など
上海一の繁華街である淮海路近くに、漢方医科大学付属の有名な病院があります。
この病院は、中国医学と西洋医学を併用して処方しており、大きな待合室はいつも老若男女で一杯です。
私が上海で勤めていた外資系企業のオフィスもこの病院近くにありました。
毎日の通勤のたびに病院の傍を車で通っていたのですが、ある時、病院に隣接する公園で不思議なものを見かけました。
成人男性の腰の高さくらいまである薬瓶のようなポリ容器がいくつも園内に並んでいたのです。
蓋がしっかりと閉められた白っぽい容器には、黄味がかった液体が八分目くらいまで入っていました。
『……あれは何だろう?塗料?洗剤?』
疑問に思ったのですが、確かめる時間の余裕がなかった私は、その場を通り過ぎることしか出来ませんでした。
そして、そんなことが何回か繰り返されたある朝、容器の謎が一気に解明されたのです!
当時、公園内には大きな公衆トイレがあったのですが、清掃局の職員達が男子トイレから液体の入ったあの容器をいくつも運び出しているのを見かけました。そして辺りにそこはかとなく漂うぼっとん便所の香り……(゜-゜)
なんと、謎の容器は、男性の尿を回収する汚物タンクだったのです。
『……何で尿だけ回収?しかも男性のみ?』
女子トイレからは謎の容器が運びだされていないことを確認した私は、さっそく、上海出身の友人に、男性の尿を回収している理由を訊ねました。
「ヒトの尿は、漢方薬やホルモン剤の原料になるって聞いたことがあるよ。男性しか回収していない理由は、まぁ、単純に、余分な物が混じらないからじゃないかな。あの公園の近くには漢方処方で有名な病院もあるし、たぶん薬の原料を採取しているんだと思う。」
という回答がかえってきました。
後日調べたところによると、確かにヒトの尿からはリン酸カルシウムや希少なホルモン成分が取れるそうです。漢方では、”人中白”という薬材になるらしい……。
中華文化圏に伝わる”食べ合わせ”のタブーの中にも、この薬材が出てくるくらい、結構メジャーな存在です。でも今ではあまり使われていないんだって。(´▽`) ホッ
いくら薬効が高いと言っても、私はヒトの排泄物から出来ている薬材はちょっと処方されたくない気がします。(;^ω^) 皆さんはどうですか?