第百二話 台風と雨漏り
日本に大型台風接近中で、首都圏には明朝上陸予定だとか……。
中国でも、黄河より南にある上海や広州などには、時折台風が上陸して、かなりひどい被害が出ます。
1990年代後半の上海市内は、日本ほど下水道が整備されていなかったので、ちょっとした夕立でも雨水を排水することが出来ず、道路が冠水してしまうことがありました。
また、第八十四話でもご紹介しましたが、建築物全般に渡って手抜き工事がひどかったので、新しいマンションでも天井が落ちたり、雨漏りするなんて日常茶飯事(◎_◎;)
ゼネコン某社にお勤めのAさんいわく、『最近の上海の建築物は、”ドッグイヤー”で老化する』そうです。つまり、犬の年齢と同じように、普通の三倍速以上の速さでボロボロになる、ということですね。
私の上海勤務時代、最後に暮らしていたマンションは、上海西北部にある新興住宅地にありました。
今でこそ地下鉄が開通して便利になりましたが、当時は公共交通機関がまったく傍を通っておらず、通勤にはタクシーを使うしかありませんでした。
マンションのディベロッパーから聞いたところ、地区内に居住している外国人の奥様達から、公共交通機関が地区に乗り入れすると、胡乱な輩がヨソから入り込んで治安が悪くなる、と大反対されたため、バス路線を通すことが出来なかったのだとか。(^_^;)
そんな一見”高級住宅地”にあるマンションでしたが、窓枠からの雨漏りがひどかったです!
築10年も経っていない高層住宅なのに、大雨が降ると、窓枠の隙間から壁伝いに水がチョロチョロ漏れてきて、床に水たまりが出来ます。
明け方に台風が接近した時など、雨漏りの処理に追われて、会社を半日休みましたよ~~。あまりに雨漏りがひどかったので、マンションの管理事務所経由で、専門業者に修理をお願いすることになりました。
約束した時間に現れたのは、マンションの管理事務所の職員と、修理屋らしいツナギを着た中年男性でした。
「すみません、雨漏りしているのはどこですか?」
「この窓のあたりです。」
「(窓をあけて外壁の状態と内側を確認しながら)……あ、窓枠沿いに壁にヒビが入っているみたいだなぁ。とりあえず外からパテで埋めて処置するか……。ちょっとすみません、この部屋に柱はありませんか?」
「???柱???」
「窓から外に出ますので、命綱を結ぶ柱が必要なんですけど。」
修理屋さんから、いきなり命綱を結ぶ柱が必要、と言われたのですが、あいにく私の部屋には目立った柱がありません。(普通は部屋の真ん中に柱はないよね)
結局、修理屋さんは、部屋のクローゼットの中にあった水道管にロープを結び、反対側の端を自分の腰のベルトの金具に付けたあと、ロープの真ん中あたりを私にポンと渡して、こう言いました。
「お客さん、悪いんだけど、ロープの途中を腰に巻いたあと、手で持って支えてくれないかなぁ?あなた太っているから、重しになりそうだし。この人と一緒にロープを引っ張って。」
なんですとぉー(# ゜Д゜)
確かに私は中国女性のようにスマートではありませんが、重し代わりになるとは、妙齢の女性に対して何たる侮辱(~_~;)
でも仕方ないので、マンションの管理事務所の職員と一緒に命綱を持ち、修理屋さんの合図とともに、ロープを力いっぱい引っ張りました。
修理屋さんは、開いた窓から外に出て、私達が支えるロープ一本を頼りに、20階の高さの空中にぶら下がり、外壁のヒビをパテでぺたぺたと埋めたあと、よっこらしょと這い上がってきて、
「もうこれで隙間は埋めたから、雨漏りしませんよ。いやー、お客さんのガタイが良くて助かりましたよ~。(*^^*)」
……本当に重ね重ね失礼な奴だなっっ!