Act38:ギルド
街へ入ります。
町並みは中世ヨーロッパ、ギルドはウェスタンというちぐはぐさ。
静也達一行を乗せた馬車は程なくして城壁にある門の前に到着する。
門は馬車二台が悠々と通れる程の幅であり、門の両脇には磨き上げられた真っ白な鎧に身を包む二人の兵士が、直立不動で周囲を伺っていた。
馬車を見止めた兵士の片方が手を挙げて馬車の停止を促す。
尖った耳と額から黒い角を生やした黒髪の男性は、御者台のジョーを見て声を掛けた。
「ジョーか。……見慣れない者達も居るな。何者だ?」
「ようドルガー。心配しなくても、この人たちの身元は保証する。なんせ俺達の命の恩人だからな」
ドルガーと呼ばれた男性が窓から顔を出した静也とレインを見て訝しむと、ジョーは笑いながら頭を振った。
「ほう、一応名前を聞いておこう」
ドルガーは懐から名簿のようなものを取り出し、ジョー達の名前を書き連ねた後、静也達に名前を言うように促した。
「どーも、シージャ・アクツィークです。上にいるのは相棒のケル坊」
『ワンッ』
「レイン・シチリカです」
静也、ケル坊、レインの順で自己紹介する。
「ほうほう、シージャ・アクツィーク、ケル坊、レイン・シチリカ………レイン・シチリカ!?」
つらつらと魔人語で名前を書いていたドルガーだったが、レインの名前を書いた瞬間目を剥いて顔を上げた。
「ま、まま、まさか、『虹の姫騎士』!?」
「正解。因みに俺はレイン様の従者ね」
驚くドルガーへレインに代わって静也が答える。
当事者のレインは居心地が悪そうに苦笑していた。
その後、ジョー達の口添えとレインのネームバリューであっさりと通行許可を貰い、門の内側に入っていく。
門番、ドルガー・ジードはレインがベッジに立ち寄ったことを歓迎し、質のいい安い宿の情報や美味い食事処を紹介してくれた。
かっぽかっぽと馬車は街の中を進む。
現在馬車が通っている場所は中央街と呼ばれ、馬車専用の道路と歩道が分けられた広い道だった。
「へぇ。亜種も人間も入り乱れてスゲェな」
道行く人々を眺めて一言。
獣人、魔人、エルフ、人間、その他もろもろ。
様々な人種が歩道を行き交う様を見て、改めて『自分は異世界に居るのだ』と再確認した静也だった。
「あ、なあ、チェインさんチェインさん」
「なに?」
静也が話しかけると、チェインのくりくりとした瞳が彼を捉える。
どこか儚げな、可憐な見目のチェインだが、その表情は殆ど動かず、外面的な感情の起伏も乏しい。
明るく朗らかな父親とは正反対な娘である。
「そう言えば、今俺らどこに向かってんの?」
「……ギルド」
「ぎるど?」
チェインの返答に静也は首を傾げる。
「あんた…ギルドを知らないって、余程の田舎育ちだったんだねぇ」
その様子がどこか可笑しかったのか、モラノが笑いながら割り込んだ。
「……なんスか。悪いスか」
「ああ、ごめんごめん。バカにしたわけじゃ無いよ」
「………」
苦笑気味に謝罪するモラノに対し、目を細めて鼻を鳴らす静也。
主人に似て妙な子供っぽさを滲ませるその態度に、モラノはぷっと吹き出しつつ、ギルドについて説明する。
「ギルドってのは、あたし達探索者の寄り合い所みたいなもんさ。宿舎や食堂、酒場も完備されてるから重宝してるよ」
モラノの話では、ギルドは依頼の仲介や迷宮で得た資材の買い取りも請け負っており、依頼金や買取金額の1割を上納することでギルドを利用することが出来るそうだ。
「因みにここベッジのギルド長は領主であるジーナ様だよ」
「へー」
少し興味が湧いた様子の静也を見て、モラノは少年の無邪気な反応に口元を吊り上げた。
程なく経ち、一軒の建物の前で馬車は停まる。
「ここがギルドだ。……ってもレインさんは知ってるだろうがな」
「ええ、まあ。わたしの知っている頃と殆ど変わり無いようですね」
馬車から降り、木造三階建ての建物を見上げてレインはそう言った。
彼女はこの施設を利用したことがあったらしい。
中からは結構な喧騒が聞こえており、かなり賑やかな場所らしい。
「そんじゃ、ようこそ、探索者ギルドベッジ支部へ、ってか?」
茶目っ気たっぷりにジョーが一礼し、スイングドアを開く。
中に入ると、一瞬喧騒が鎮まり、視線が入り口に集中した。
静也は向けられる奇異の目を気にする様子もなく周囲を伺う。
剣を腰に収めているもの、斧を背負っているもの、杖をテーブルに立てかけているもの。
種類は様々だが、皆一様に武装しているのが見て取れた。
剣や斧といった武器を手にしている者は、服の上からでも鍛えているのが見て取れる。
魔法使い然とした者は油断を許さない雰囲気が滲み出ていた。
「(……なるほど、退屈はしなさそうだ)」
主に荒事関連で、と静也は内心で呟いた。
「おう、ジョーじゃねえか。誰だそいつらは?」
辺りを見回していた静也を他所に、オレンジの坊主頭をした厳つい男が此方に歩み寄ってジョーに話しかける。
作りの丁寧な皮鎧に包まれた、身長180㎝程の肉体は筋骨隆々という言葉が似合っており、その背中には細かな傷が目立つ斧が背負われていた。
見た目からして歴戦の勇士いう言葉がよく似合うと、静也は思った。
「おう、ランド。この人達は俺らの命の恩人だよ」
ジョーは話しかけてきたランドという男に手を挙げて応える。
その言葉にランドは訝しげな施設を3人に向けた。
「ほぉ、こんなガキとダークエルフ達がお前らの命の恩人ねぇ…」
此方を侮るような目を向けられ、静也は皮肉げに肩を竦める。
「俺はともかく、この人を甘く見ない方がいいよ。多分、あんたよか万倍強いから」
「ちょっ…!?」
「あぁん?」
静也の挑発にレインはぎょっとして、ランドは目を剥いて彼の顔を見た。
「シージャッ、何を言い出す!?」
「事実だろ。体術だけでも俺が勝てねぇんだから、このオッサンが勝てる道理は有んめぇよ」
「オッサンじゃねぇ!俺ぁまだ28だ!」
更に煽る静也の言葉に、ランドは憤りを顕にする。
「このガキ!舐めたこと言いやがって…!」
「あ?何?素手喧嘩なら相手になるよ?」
ゴキリと首を鳴らし、パキパキと指を鳴らしながらランドと静也は額を突き合わせる。
いきなり始まった険悪な状況にレインはおろおろと顔を右往左往させた。
「お、おい、シージャ…!」
「構わねぇよレインさん。………どうやら、シージャは分かってるらしい」
「し、しかしジョー殿…」
肩を掴んで諌めるジョーにレインは振り返るが、その瞬間に睨み合う二人が動いた。
「ふん!」
「オラァッ!」
ゴヅン!と鈍い音を響かせて二人は額をぶつけ合い、身体が離れる。
そして互いを睨み合いながら、同時に構えをとった。
ランドは一般的なボクシングスタイル、対する静也は、少々代わった構えを取る。
「……なんだその変な構えは?」
僅かに動揺を見せるランドと向き合う静也は、左半身で腰を落とし、左足は爪先立ちで右足は横を向け、左手は握りを開いて前に出し、右手は拳を作った構えを取っていた。
「……………有限を以って無限とし、有法を以って無法とす。考えるな、感じろってか?」
そう口にした静也は前に出る。
「っ!」
人間離れした速度から繰り出される拳をランドは仰け反って躱し、右のカウンターを放つ。
しかし、静也はそれを左手で払い、腕を取ってそのままランドの頭上を飛び越えた。
腕を取られたランドは仰け反った事で重心がズレており、バランスを崩して仰向けに倒れる。
引き倒された直後、顔の右側に拳が突き刺さった。
「うっ…!?」
「はい、俺の勝ち。………で、値踏みは済んだか?オッサン」
拳を引いて立ち上がり、そう告げる。
それに対して少し意外そうな顔をしたランドだが、数秒経つと吹き出した。
「ぷっ…ガハハハハ!そこまで読まれてたか!中々頭のいい坊主じゃねぇか!」
ランドがそう言うと同時に周囲から拍手喝采。
「え?え?」
レインはわけが分からぬという表情。
笑いながらランドは立ち上がり、バシバシと静也の背中を叩いた。
それに対して呆れたように口元を歪める静也。
「おう、俺ぁランド・ゲイリーだ。坊主、名前は?」
「シージャ・アクツィーク。………いっつもこんな真似してんのか?」
「いや、実はな。ドルガーの野郎から、『ジョーが『虹の姫騎士』とその従者を連れて来た』って聞いてな、興味が湧いた」
「………んなこったろうと思ったよ」
肩を竦める静也。
そんな彼にレインが動揺しながら話しかけた。
「し、シージャ?一体どういうことだ?」
「ああ?……このオッサン共、俺らを試してたんだよ」
親指でランドを指さしながら静也は答える。
「初めまして、『虹の姫騎士』さんよ。ジョーが世話になったな」
先程の荒っぽさは鳴りを潜め、ランドは豪快な笑みでレインに頭を下げた。
「ああ、いえ、こちらこそ。………それで、一体どういうつもりでこんな真似を?」
「いや何、ここに顔を出す人間の実力を測る為に、ちょいと試すのがここの通過儀礼みたいなもんなのさ」
ガハハと笑いながらランドが答えると、静也がため息をつく。
「それにしても坊主、よく分かったな?」
「ああ、そりゃアレだな。『こういう場所』ってのは、無秩序に見えてそれなりに規律があるもんだ。組織に属してる人間が自分から和を乱す真似はしねー。なのに喧嘩ふっかけてきたって事は、こっちを値踏みしてんだろーなって考えただけだよ」
「やられたこっちはたまったもんじゃねーけど」と鼻を鳴らして静也はそう締めくくった。
「ガハハハハ!悪い悪い!けど、気に入ったぜシージャ!レインさん!改めてようこそ、探索者ギルドベッジ支部へ!」
「よろしくな!」「ジョー達の命の恩人サマだ!飲め飲め!」「スゲェなさっきの動き!」「ランドが転ばされるのなんて初めて見たぜ」「俺もだ」「中々出来る坊やじゃない?」「少なくともそれなりに場数は踏んでるな」
ジョーの歓迎の言葉を皮切りに、ギルドの皆は口々に静也達へ言葉を掛ける。
「……賑やかだなぁ」
「……う、うむ」
『クーン…』
「ハハッ、みんな良い奴だよ。よろしくしてやってくれ」
目の前の騒ぎに若干圧倒される3人に、ジョーが笑いながら騒ぎの中心へ押しやっていくのだった。
ランド曰く『通過儀礼』の後、ギルドの酒場は飲めや歌えやの大騒ぎになった。
「さあ飲め!やれ飲め!どんどん飲めぇ!」
「お、おい待て!俺はまだ未成年…」
「ミセイネンってなんだぁ!男は十で一人前だぁ!」
「おぶっ!?」
ランドから酒瓶を直接口に突っ込まれる。
初めて呑む酒は酒精が喉を焼き、腹にガツンと衝撃が走った。
「ぶはっ!ちょっと、レイン様助け…」
瓶の半分程を飲み干した静也は、レインに助けを求めようと彼女の方を見ると、
「んっ…んっ…んっ…ぷはっ。………おかわり」
彼女は淡々とグラスを煽っていた。
テーブルの上には空のグラスが積み上げられ、見事なピラミッドができている。
「意外とノリノリでいらっしゃる!?じゃあケル坊…」
レインが役に立たないと分かり、次いでケル坊を見れば、
『ごぐっ…ごぐっ…グルッフ。アオォォォォン!!!』
酒樽の端を咥えてそのまま中身を煽っていた。
「こっちも超酒豪!?………はっ」
立つ瀬の無くなった静也の背筋に悪寒が走る。
キリキリとぎこちなく振り向けば、そこには酒瓶を両手に持った数人の男女が並んでいる。
「お、おい…俺は酒は…」
「堅いこと言うなよぉ。楽しもうぜ?」
一歩後退すれば、一団が一歩前進。
じりじりと退いては進み、壁際に追い詰められる。
「これも『通過儀礼』だ。諦めなシージャぁ!」
ランドの声を皮切りに、皆が一斉に静也に跳びかかった。
「テメーら待………んぶぅ!?」
栓の抜かれた瓶の口が一斉に静也の口の中に入り、多種多様な酒が流し込まれる。
「んぶぐ…ぶぶぶぶぶ……」
アルコールが一気に回って頭の中がくらくらと回る。
――――取り敢えず、これから酒は絶対飲まん。
薄れゆく意識の中で、静也はそう心に固く誓うのだった。
ジークンドーかっこいいですよね。
※当作品は未成年の飲酒を助長するものではありません。
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