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Act28:懐かれました。

男ならされて大恥をかくこと第一位。

 それから数日間、静也は保健室に泊まりこんで療養することとなった。

 だが、それは静也にとっては胃痛との戦いの毎日である。

 というのも、静也は両手の怪我の所為で戦闘は愚か、日常生活レベルでの不自由を強いられていた。

 主な胃痛の原因は二つ。


「はい、静也、あーん」


「……………………あー、むぐ」


「美味しいか?」


「………美味い、けど、恥ずかしい」


「文句を言うなら、自分を恨みなさい」


「ぐぬ…」


 ひとつは、食事の際はアリアやレインがスプーンを口元に持って行き、「あーん」をされる日々。今回はアリアが授業中なのでレインの番だった。

 普通の男なら嬉しいやら恥ずかしいやらだが、静也の場合は「弱みを握られた」という考えの方が強かった。


「つーか、3日も寝てたのな、俺」


「そうだ。だからよく食べて体力を戻さないとな」


 静也の言葉にレインは頷いてぐいぐいと口元に粥の入ったスプーンを持っていく。

 子供どころか赤子同然の扱いに「ウゼェ」と思いつつそれを口に入れる。

 帰還直後、疲労と出血で体力が落ちに落ちていた静也は泥のように眠っていた。

 ユーツ曰く麻酔も要らない位ぐっすりだったらしい。

 それを聞いた静也は「執刀中に起きたらどうするつもりだったんだ」とツッコミたい衝動に駆られた。


「………ごちそうさまでした」


「うん、お粗末さまでした」


 かちゃかちゃと食器を片付けながらレインは笑顔を向ける。

 そのタイミングを計っていたかのように、ユーツがカーテンを開けて現れた。


「げ…!」


「何が『げ』なんだい小僧?楽しい楽しい排泄の時間だよ?」


 にやりと笑いながら尿瓶を手に持った状態で。

 静也の胃痛の原因、その二つ目は、排泄の補助。

 早い話がトイレの問題である。

 静也も生物なので生理現象に関してはどうすることもできない。

 かと言って両手が使えない上に歩くこともままならないので、自分でトイレに行くことも出来ない。

 そこから導き出された結論は、ユーツが直接的排泄させるというもの。

 無論静也は抵抗した。

 しかし全身大怪我で動くことも出来ない人間に碌な抵抗など出来ず、ユーツに昏睡の魔法を掛けられ、寝ている間にさっさと済まされるという結果に終わった。


「……勘弁して下さい、ユーツ先生。レイン先生が見てますから」


「だとさ」


 レインをダシにしてこの場を逃れようとする静也だが、ユーツがレインに目を向けると、既にレインは食器を持って保健室を去ろうとしていた。


「では、ごゆっくり」


 すちゃっと右手を上げて保健室を出て行くレイン。


「テメーちったぁ羞耻心に震える生徒を助けろやコラァァァァァ!!!!」


「はいはい、すぐに終わるから天井の染みでも数えてな」


「が…!」


 叫んだ静也の額にユーツが魔力の乗ったデコピンを当てる。

 それだけで静也は思考が朦朧とし、あっさりと意識は落ちた。






 十数分後。


「…………チクショー、もうおムコに行けない…」


 起きた時には全てが終わっていた事に、さめざめと泣く静也。


「ふふふ、そう落ち込むことはないさね。少なくとも『平均以上』だから」


「何がだ!?」


 凹んでいる静也にユーツはある意味追い打ちを掛けた。

 そんな漫才の最中、カーテンで仕切られた隣のベッドから物音が鳴った。


「……あん?」


「おや、漸くお目覚めみたいだな」


 ユーツはそう言ってカーテンを開ける。


「……!?」


「あ、あん時のケルベロス」


 隣のベッドには、黒髪紫眼こくはつしがんに黒い犬耳を生やした、ケルベロスだった少年が、入院着姿の上半身を起こして静也達を見ていた。

 その紫の瞳は動揺と怯えが宿っている。


「よー。俺のこと覚えてるか?」


「…ッ!」


 静也が声を掛けると、少年はびくぅっ!と身体を跳ねさせた。

 実に小動物っぽい。


「あー…覚えてるっぽいな。まあ、あんだけボコられればビビって当然か」


「………」


 静也の言葉に少年はぷるぷると震えている。

 どうやら静也の言葉通りの心境らしい。


「ああ、うん。あの時は悪かった。俺もお前もお互い命懸けだったんだ。おあいこって事に…なるのか?」


「自分で首を傾げてちゃ世話ないだろうに」


 疑問形で言葉を吐いた静也にユーツがカラカラと笑った。


「…?…???」


 おどけた様子の静也を見て少年はきょとんとしている。


「……ん?」


 頭に疑問符が浮かんでいる元ケルベロス少年の仕草を見て、静也は少し違和感を覚えた。


「なんでお前喋んねーの?」


「?」


 再び少年が首を傾げる。

 少年は目を覚ましてから一言足りとも言葉を発していない。

 暫く首を傾げあっていると、ユーツが口火を切った。


「ああ、パラセクトビートルに長いこと寄生されると、その生物はどっかしらに障害を抱えるのさ。多分その小僧は失語症になったんだろうね」


「は?」


 ユーツの言葉に静也が呆けた声を上げた。

 ケルベロス少年もぽかんと口を開けている。


「……ユーツ先生。その話マジすか?」


「嘘ついてどうすんのさ?」


「……治るんですか?」


 怖ず怖ずと問い掛けた。

 ユーツは目を閉じる。


「なーに、今まで操られてた脳の機能が急に戻った反動さ。放っときゃ、自然に治るさね」


 そしてあっけらかんと、問題なく快復に向かうと口にした。

 静也と少年は再び呆ける。


「………脅かしっこはナシにしてくださいよ。心臓に悪い」


「……~~」


「ふふふ、あんたらがビビりすぎなんだよ」


 唇を尖らせる二人にユーツは再びカラカラと笑った。





 時間は進んで夕方。


「おすわり」


「!」


「お手」


「!」


「伏せ」


「!」


「お周り」


「!」


「チ○チ○」


「…………!」


「うん、ごめん。ちょっと悪ふざけが過ぎた。俺が悪かったから脱ぐな」


「…………おい、静也」


 レインとアリア達がわなわなと身体を震わせて静也を見ている。


「なんぞ?」


「…一体、何をしている?」


「何って…」


 そう言って静也はケルベロス少年を見やると、少年は服を半脱ぎの状態で顔を真っ赤にしていた。


「懐かれたから、芸を仕込んでただけですが?」


「……………」


 静也が首を傾げて答えると、レインはつかつかと静也の枕元に歩み寄る。


「このバカちん」


「いてぇっ!?」


 そして静也の頭頂部に拳を落とした。

 静也の目の前に星が散る。


「何するんですか!?」


「いや、静也はん?あんさん今とんでもないことしてはりますからね?レイン先生が怒るのも無理ありまへんからね?」


 タマキが冷静に静也にそう言うと、ケルベロス少年に歩み寄る。


「……あの、ボク?こないなこと訊くんは失礼やと思て訊きますけど」


「?」


 タマキの言葉に少年は首を傾げる。


「ボクは、フェンリル陛下のご子息様どすか?」


「……!」


 タマキの問いに、少年はコクリと頷いた。

 その言葉に、静也は目を見開く。


「フェンリル?って確か…」


「そう、七賢人の一角にして、獣人族をひとまとめにする、『獣王』フェンリル・ウルフロード。このお方はそのご子息様だ」


「…………うそん」


 レインの言葉に、静也は呟くように驚きの言葉を吐いた。

 同時に、これを機に、何か別の災難が自分を襲うのでは無いか予感していた。

取り敢えず第二章はこれで完結です。

次回辺りに登場人物紹介でも書こうかな。

ご意見ご感想お待ちしております。

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