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Act18:合流

ある程度纏まってきたのでなろうコン大賞に応募しました。

これで少しでも誰かの目に触れていただければ幸いです。

※今回もグロ描写があります。ご注意ください。

「………………あー…」


「………そういうことどす」


 二人の過去をタマキから聞き終えた静也は、大きくため息をつく。


「ガキだガキだと思ってたけど………マジでガキだな、アイツ」


 「それも超絶バカが付く」と静也は大部分の呆れと僅かな怒りを込めて呟いた。


「取り敢えず、ギルベルト(あのバカ)には関節技の満漢全席サブミッション・フルコースで手打ちとして」


「(………ギルベルトはん、ご愁傷様どすえ)」


 静也の中でギルベルトの評価が『気障ったい同年代』から『世話焼かせな弟分』に格下げされたことに、タマキは内心で合掌する。

 そんなタマキの心情などつゆ知らず、剣呑とした目をしながら静也はバックパックを下ろし、中から小型のケースをひとつ取り出した。

 それを右手で持ち、左手で右籠手を弄くると、手甲部分に取り付けられた円柱状の部品が発条仕掛けで飛び出す。

 ケースを開くと、中に入っていた六本の金属筒を取り出し、円柱内部に空いた6つの穴へとはめ込んで再び円柱を元に戻した。


「…………!」


 その様子を見ていたタマキはふと、鼻をひくつかせて周囲を見回し始める。

 その表情には焦燥が見て取れ、狐耳と尻尾がぴんと立った。


「あ、気付いた?やっぱ飾りじゃないのな、その嗅覚と耳」


 のほほんとした様子の静也は「長いこと一箇所に留まりすぎたな」と呟いて戦いの準備(・ ・ ・ ・ ・)を終え、背後へと向き直る。

 タマキに背を向けた視線の先………洞窟の奥から複数の足音が近づいてきていた。

 状況を正確に判断したタマキは静也に驚きの目を向ける。


「静也はん…ウチの鼻より先に気付いたんどすか?」


「まあね。昔取った杵柄ってやつ。喧嘩ばっかやってると、敵意とか殺気とか、それっぽいのが何となく分かるんだよ」


「喧嘩…どすか?」


 しれっと答える静也だが、タマキはその言葉に寒気を覚えた。

 正確には、殺気を感知出来るほどに実戦を積んだという事実に。


「相手が3人までなら上手いこと立ち回ってモノ投げたりでどうにかなったけど、流石に5体1とかだと無理があってさ。逃げ回んのにこういうスキルは必須だったんだよね」


 「いやー、『逃げのアカツキ』って呼ばれてた頃が懐かしいわー」と静也は肩を竦める。

 異名が付くほど有名だったのかと、タマキは静也の過去に興味を覚えたが、


「ごめん、あんまり昔のことは話したくないんだよ」


 静也は一言でタマキの疑念に回答し、「それに」と続ける。


「もう話す時間は無いな。オーク(ブタ)くさいのが近い」


 そう口にした静也の前方から、多数のハイオーク達が唸り声を上げてやってきた。


『プギぃ…!』

『プギュルル』

『ブゴッ…!』


 先ほど殺した個体が持っていた様な大剣を持つもの、トゲ付きのフレイルを持つもの、大振りな斧を持つもの。

 その数合わせて10体。


「うっ…」


 先程陵辱されかけたタマキは下卑た表情を見せるハイオーク達に顔をひきつらせる。

 それを背中越しに見ていた静也はハイオーク達に視線を戻してぷらぷらと左手を振った。


「悪いけど、タマキの出る幕は無いよ」


「へ…?」


 神楽鈴かぐらすずを持って身構えたタマキだったが、静也の言葉に呆けてしまう。

 それに構うこと無く静也は言葉を吐く。


「理由は二つ。俺が『生物を殺す事に慣れにゃならんこと』と、『タマキの魔法と俺の戦闘スタイルじゃまだコンビネーションもクソもねー』ってこと。こないだのアレ、覚えてんだろ?」


「………ああ、あの粉の…」


 タマキは先日の『黒い粉末』の事を思い出しながら呟く。

 確かに今の段階ではタマキの炎魔法とは相性が悪い。


「………てなわけで、タマキはそこで見てなよ。…………怪我したらヒール魔法よろしく!!」


 そうして静也はオークの群れへと駈け出した。






 その頃。


「………み、みずぅ~…」


「魔力の無駄なのでダメです」


「…そんな殺生なぁ~」


 ぐったりとした様相の朱髪の少女の希望を、蒼髪の少女はぴしゃりと打ち砕く。

 ナナセ・ブリッツとアリア・ウィジスだ。

 彼女たちは迷宮に転移させられてから程無く合流し、静也の叫んだ『合言葉』をすぐさま思い出した。

 アリアは持ち前の知恵の回りから、ナナセは『ちょっとした家庭の事情』から。

 短い間とはいえ離れ離れになった二人が早々に合流したのは幸運といえよう。

 そして二人は他の仲間と合流するため、現在に至る。


「このままやと干物になるぅ~。干物女なんて嫌や~」


「貰い手が居るといいですね」


「…………ひどい」


 冗談を流され、ナナセはぐったりと項垂れる。

 先程から水を求めている人魚族マーメイドの彼女だが、別段水浴びも水分補給の必要も無い。

 ただ、定期的に水分補給ないし、水に触れていないとモチベーションが下がるというだけだ。

 因みに合流して真っ先にアリアから水の入った水筒を取り上げられた。

 更に言うと、パーティメンバーにギルベルトが居たことも、ナナセの士気を下げる一因となっている。


「はぁ…それにしても、静也は何を考えとんねやろ?」


 ナナセはギルベルトをパーティ入りさせた事を思い出してため息をつく。

 ギルベルトとサクラの過去を知ったのは入学当初、サクラがギルベルトに話しかけた事に起因する。

 その際にギルベルトはサクラを徹底的に無視したのだ。

 始めこそ驚いた表情を見せたものの、その後は口を利く様子もなく、サクラを無視し続けた。

 ナナセはそれが気に入らなかった。

 入学以前からナナセと家同士で付き合いのあったタマキにその事を問いただすと、サクラが以前雇われていた家の息子だという。

 そして当時のギルベルトといさかいがあった様だ。

 タマキ曰く、サクラから聞いた事を客観的に見て、惚れた腫れたの事情だと言っていた。

 確かに、当時7歳の子供ならばそういうことかと分からないでもない。

 しかし、だからと言って亜人全体を嫌う事は無いだろう。


「あたしらはともかく、サクラが可哀想やわ」


「まあまあ。静也様も何か考えがあってのことじゃないですか?」


「…………はぁ」


 アリアの言に、ナナセは再びため息をつく。

 確かに静也はなにか考えがあってギルベルトをパーティに加えたのだろう。それはナナセにも分かる。

 とは言え、アリアは静也に対して信用を置き過ぎでは無かろうかと思っていた。


「(……多分、その辺もあって静也も距離置いてんねやろなぁ)」


 仲間内で最年長のナナセは経験上の直感から、自分達とアリアとでの静也の対応の違いに気付いていた。

 まず呼び方が違う。アリアへの口調も微妙に違う。

 そしてアリアへの視線に、殆ど感情が乗っていないのだ。

 ちゃんとアリアとも会話をしているし、雰囲気自体は悪くない。たまに天然漫才もしている。

 しかし、静也はアリアに対して、自分達よりも一歩退いた目線をしている。そんな気がするのだ。

 あくまでも自身の直感だし、確証があるわけでもないが。

 そんなことを考えている時だった。


 ――――――ッ!!


 洞窟の奥から耳をつんざく爆音が響いたのは。


「ッ!」


「今のは…ナナセちゃんッ!」


 その音に聴き覚えのあった二人は一瞬身体を強張こわばらせ、顔を見合わせる。


「行くでアリア!」


「はい!」


 二人は同時に頷き合うと、洞窟の奥へと走り出した。






 ――――――ッ!!!


「ハッ…ハッ…ハッ…!」


 数秒の間を置いて先程の爆音が四度続けて洞窟に響く。

 その音を聞いた二人は息を切らしながらも更に足を早めた。


 ――――――ッ!!!!


 通算六度目の爆音。音源はかなり近い。

 二人は目先の角を曲がる。


「――――な…!?」


 ナナセは目の前の光景に目を見張る。

 その先には。


「………フゥー…!フゥー…!…………ハァァァァァァ…!」


 その先には、右拳一つでハイオークの死体を持ち上げる静也の姿があった。


「フゥー…!フゥー…!ハイオーク(ブタ)10頭目…精肉完了せいにくかんりょぉ…!」


 血走らせた三白眼を大きく見開き、獣の如く凶暴に犬歯を剥き出してそう呟く。

 青い体液を頭から引っ被っている静也の表情は、凄まじいの一言に尽きた。

 彼の周囲の惨状を表す言葉が、ナナセとアリアには思い浮かばない。


 心臓を穿たれているものと喉笛を穿たれているものが1つずつ。

 上顎から頭部を引きちぎられているのが2体。

 頭を粉々に吹き飛ばされているのが5体。

 そして静也の拳に持ち上げられている1体は、背中から脊椎や臓物が飛び出し、周囲に飛散していた。


「…ッ」


 たった今終わった殺戮の現場を見て、二人は息を呑む。

 意図せず後じさり、足音が鳴った。

 じろり、と三白眼が動く。


「…………おー、ナナセにアリアさん。一特科の担任は?」


「……………へ?」


 青血にまみれながらいつもどおりのユルい表情に戻った静也に、二人は素っ頓狂な声を上げた。






 合言葉を言い合った後、ナナセはおもむろに腰のホルスターから折りたたみ式の三叉矛トライデントを取り出した。

 これこそ、彼女の『杖』である。


「…水の力よ、我が意志を以って顕れよ、『水球アクアボール』」


 三叉矛トライデントを持ったナナセが呪文を唱えると、ナナセの放出した魔力が静也の頭上に集積し、直径1m程の水の球が現れた。

 そのまま静也の頭に水が落ちる。


「ぶはっ!冷たっ!何すんだ!」


 頭から水を被った静也は少し大袈裟な悲鳴を上げた。


「ええから少し身体振ってみや」


「あ?………おお」


 バタバタと身体を動かすと、水と一緒に青血も流れ落ちる。

 それを見た静也は、ナナセがわざわざ自分の身体を洗う為に魔法を使ってくれたのだと理解した。


「ごめん。気ぃ使わせた」


「かまへんよ。あんなスプラッタな状態じゃロクに話も出来ひんし」


 「それと」とナナセはアリアと話しているタマキを見やる。


「タマキを助けてもろたし。礼にもならへんけどな」


 そう言ってナナセはにかりと笑った。

 その様を見て、先程タマキをいじっていた静也の悪戯心が再び鎌首をもたげる。


「流石最年長、姉御肌だねぇ。いや、老婆心か?」


「………………」


 その言葉に、ぴしり、とナナセが硬直する。

 やはりか、と静也は笑う。


「わざと俺に年齢教えなかったんだな。五十路超えってのはそんなに気になるもんか?見た目若いんだから気にすること無い…だ……ろ?」


 静也の誂いの言葉が徐々に尻すぼむ。

 視線の先にいるナナセは笑っていた。

 南極よりも氷点下の微笑みを。

 極寒を思わせる冷笑を浮かべたナナセの背に、般若が居た。


「なあ静也」


「ひっ」


 底冷えする声に思わず静也は後じさる。


「…………後学の為にひとつ教えといたるわ」


 ナナセが一歩前に出る。


「女言うんはな、何歳になっても女やねん」


「は、はい…」


 ナナセが一歩前に出るごとに、静也は一歩下がる。

 じりじり、じりじりと。

 そうして静也が洞窟の壁に背をつく。


「せやからな」


 ぎゃりん、と顔の真横の壁に三叉矛トライデントが突き刺さる。


「次あたしの歳がどうこう言ったら、あんたのサオ、ヘシ折るさかいな?」


「すいまっせんっしたぁ!!!!!」


 即座に土下座した。

女性に年齢は禁句ですよね。

※多少ワケありですが静也は一般的な高校生です。

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