プロローグ:風と水の出逢い
王都周辺の森で起きた、異例の魔物大量発生。
原因究明と討伐のため、コンフェデラ王国騎士団とギルドによる合同調査隊が結成された。
「……騎士団長様、こちらが今回同行するギルドの精鋭たちです」
紹介された冒険者たちの中に、その女性はいた。
アレクシア・ブルナー。
華奢で、どこか儚げな佇まい。荒くれ者の多い冒険者の中で、彼女だけが戦場には不釣り合いなほど静かな空気を纏っていた。
調査を進める森の奥で、異変は前触れなく訪れる。
本来、この土地に生息するはずのない凶悪な魔物の群れ。突如始まった激戦の中、フレッドの視線は自然と彼女へと引き寄せられた。
迫り来る魔物の爪を、一瞬の澱みもなく受け流す澄んだ青。
アレクシアが掲げた手から解き放たれたのは、見事なまでに美しい「水魔法」だった。
刃のようにしなやかに魔物を引き裂き、時には仲間を守る盾となって優しく弾ける水の軌跡。
木漏れ日を反射してきらきらと輝く青い光の中心で、凛と戦う彼女の姿に、フレッドは思わず息をのんだ。
(――なんて、綺麗な魔法なんだろう)
激闘が終わり、静けさを取り戻した森。
フレッドは吸い寄せられるように彼女のもとへ歩み寄り、声をかけていた。
「見事な水魔法だった。……不躾だが、目を奪われてしまったよ」
振り向いたアレクシアは、少し驚いたように目を丸くしたあと、どこか寂しげで、けれど胸が締め付けられるほど綺麗な笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、騎士団長様。……私の水、変ではありませんでしたか?」
「いいや。今まで見たどんな魔法よりも、綺麗だった」
そう伝えた瞬間、彼女の頬がぽっと淡く染まる。
巡る風のようにまっすぐな騎士と、冷たい秘密を隠した水魔法使い。
これが、やがて世界の運命をも揺るがす二人の、すべての始まりだった。




