時を越えて交わる一撃
俺はぐらりと膝をついた。
爺さんは立ち上がることのできない俺をギロリと睨みつける。
「なんじゃその体たらくは。稽古場にあって、あまつさえ敵と対峙しておきながら油断し、そこにつけいられるとは。そのような性根だから稽古に遅刻などするのじゃ」
やっぱり遅刻、根に持ってるじゃないか―――
そこで今朝見た夢のことを思い出す。この絶体絶命の状況。これはまさにあの時の再現ではないか。
良し、ここは―――。
「それだけ打たれればもう、体が禄に動かんじゃろう。いったん下がるがよい」
だが、それを聞いた俺はじいさんを見上げてニヤリと笑ってみせる。
「なぁに、足腰の弱ったもうろくジジイにはちょうど良い足枷よ。まだまだこれからだ」
そう言って、膝をついたまま剣を構える。この状態から逆転する技を、ただ一つだけ知っている。父上は幼少の頃より、この技だけは必ず物にするようにと、時間をかけて俺に稽古をつけてくれた。
頭に血が上りやすい爺さんは、俺の狙い通り激昂し、とどめを刺さんと竹刀を振り下ろす。俺は膝をついたまま爺さんの剣撃をギリギリかわすべく体を反らす。本来この体勢からの反撃は不可能。だが俺は、かわすと同時に爺さんの剣撃に己の竹刀の柄を引っかけた。
柄を打たれた俺の竹刀はその衝撃で柄を支点にして凄まじい速度でぐるりと回転する。俺はその回転に己の力を乗せ、その剣先は竹刀を打ち下ろした爺さんのガラ空きの体へと吸い込まれていった―――
◇◆◇
「ぐ、がぁ、はぁっ――」
朦朧とした意識を取り戻したオレは、死神の苦悶する声を聞いた。
見れば、俺の刀は死神の体にめり込み、切り裂いている。
「ぐっ、ぐそっ――」
オレからよたよたと距離をとり、傷口を抑える死神。
いったい、なにが起こったのか。つい先ほどまで、オレはこいつに殺されかけていたはずだ。