ここがお前の墓場だ
まさに荒唐無稽。オレはそんな夢を、父上が死んだあの日からよく見るようになった。
ただの夢だが、俺は時に、夢の先にはもう一人の俺が本当に実在しているのではないかと、そんな錯覚にとらわれることすらあった。
だがもちろんそんなはずはなく、幼さの残る時分に父上の死を目の当たりにした反動か何かなのだろう。
「すとれす、だったか?夢の先の言葉で言うならば」
「何をブツブツと言っておるのだ。お前の番だぞ」
今日は爺さんが皆に試合形式で稽古を付けている。相手にとって不足なし。
俺は壁に掛けられている竹刀のうち、一本を手に取る。
竹刀は俺の学ぶ北辰一刀流の祖である千葉周作により古くから取り入れられた。
竹刀により可能となった全力で打ち込む対人稽古の有効性は、木刀による寸止め稽古に重きを置く他流派と過去幾度となく手合わせした際に、すでに証明されている。
俺は爺さんの前に出て、竹刀を構える。
「残念だったな爺さん。ここがお前の墓場だ」
「ふん。果し合いの雰囲気から作らなくてもよろしい。そんなことをしなくとも・・・」
裂帛の気合と共に、爺さんから凄まじい殺気が放たれる。明確な死を感じ取った全身から汗が噴き出す。
「待て爺さん。これは稽古だ。遅刻したのは悪かったから・・・」
稽古で殺されてはかなわない。この爺さんには竹刀であろうともそれを可能とする実力がある。
「ふん、遅刻など、どうでも良い。稽古で取り返せば良いからな。最初は軽くからじゃ」
爺さんから殺気が消える。どうやら、悪ふざけだったようだ。それに合わせ、こちらもいったん気を緩める。―――いや、待て。この流れ、どこかで・・・?
その瞬間、こちらの隙を待ってましたとばかりに、爺さんの高速踏み込みが炸裂する。
「奥義ッッッ!!!絶対殺人残虐烈火斬!!!」
「ぐはぁああああああっ!!?」
なんだその奥義ぜったい今作っただろ―――
意識が飛びそうになりながらそんなことを考えた。




