選ばれなかった側
その夜、シャーロットは蛇凶の男とテーブルを挟んで向かい合っていた。
場所は、スラム街と歓楽街のはざまにある古びた酒場。彼と待ち合わせた、あの夜と同じ場所だ。
営業はすでに終わっており、扉には「閉店」の札が掛けられている。だが中には、まだ数人の客の姿があった。誰もが、まともじゃない空気をまとっている。闇に生きる人間特有の、どこか冷めたような、濁った目つき。
店内は暗く、各テーブルに置かれたランプだけがぼんやりと灯っていた。光は弱く、照らし出されるのはテーブルの上とその周囲だけ。まるで世界から切り離されたような、そんな静けさだった。
「要するに、手を引かせるのは無理だったってわけか」
男がぼそりと漏らす。シャーロットは視線を落とし、小さく頷いた。
「ええ・・・もし彼がソアラに気があったのなら、私が代わりになって引き離すこともできたかもしれない。でも、あの二人は“兄と妹”だったの。私にはどうすることもできないわ」
「まあ、次の仕事は上手くやればいいさ。とりあえずご苦労だった。乾杯といこうじゃねえか。今日の酒は特別製だぜ」
男はそう言って、テーブルに置かれたグラスに酒を注いだ。
店主はすでに帰っており、今夜は蛇凶の貸し切りだ。酒も、男が持ち込んだものだった。
シャーロットは自身が許されたことに内心は胸をなでおろすが、いきなりな男の態度の急変に違和感を感じる。
注がれた酒をひと口。強いアルコールが喉を焼いた。
「・・・ずいぶんと寛大なのね」
すると中肉中背の男はニヤリと笑う。
どこか、見下すような薄ら笑いだ。
「ああ、その通りさ。いつだって俺は寛大だ。実はな、お前を親と会わせてやることにした」
その言葉を聞いて、シャーロットの瞳が驚愕に見開かれる。
「会えるの!?お父様とお母様に!」
「ああ、嬉しいだろう?お前にはソアラという娘の代わりになってもらわなきゃいけねえからな。これくらいはサービスさ」
その言葉を聞いて、シャーロットは表情を曇らせる。この男は私の話をちゃんと聞いていなかったのだろうか。
「・・・さっきも言ったはずよ。彼はソアラに恋愛感情なんて抱いてない。兄と妹の関係なの。私が代わりになるなんて、できるはずがないわ」
「いいや、なれるさ」
「・・・・?」
この男はさっきから一体、何を言っているのだろう。それにしてもさっきから何やら、頭がグラグラする。強い酒を飲んだせいだろうか、急激に眠気がやってくる。
しかし、それにしたっておかしい。いくら強い酒と言っても、まだ少ししか飲んでいないのに・・・
「何を言っているの?・・・ちょっと待って、何か体がおかしいわ」
シャーロットはグラリとよろめく。
机に手をついて体を支えようとするが、腕がガクガクと震えて力が入らない。
「言ったろ?今日の酒は特別製だ」
「あ、あなた、お酒に一体何を・・・」
そこで、シャーロットの意識は途絶えた。




