背中、あったかい?
「お兄ちゃん、お風呂沸いたよー!」
夕方、ソアラちゃんから声を掛けられ、湯舟に向かうこととする。レンガ造りのお風呂だ。
シャーロットの件でやり切れない思いになっていた俺は、ここ最近は飲んだくれて日がな1日を過ごし、これはいつものようにゲラルトさんの好意で一番風呂を提供されていた。何でもこの街では生きることだけに精一杯の人達も多く、風呂に入ることのできる家庭は恵まれていると言えるそうだ。日本の常識に照らし合わせると、ゲラルトさん達も決して楽な暮らしではなさそうなのだが。
「何度断っても、一番先に入らせられるんだもんなぁ」
最近では、素直に好意に甘えることにしている。人の好意というものは、あまり断り続けてもかえって礼を失するということもあるからだ。
湯舟に浸かる前にお湯で体を流し、体を洗おうとする。
だが体を洗うための布が無い。
「アレ?無いな、どうしよう・・・」
その時、風呂場の戸がガラっと開いた。
「お兄ちゃん、背中流してあげる!」
「うわあっ!?」
ソアラちゃんがお風呂場に飛び込んでくる。ソアラちゃんの格好は可愛い寝巻姿だ。
「お兄ちゃん、ちゃんと前、向いててね!」
「ええっ!?」
あまりの出来事にパニック寸前になるが、だんだんと思考が追い付いてくる。
「あの、ソアラちゃん、これはいったいどういう・・・」
「昔から、お兄ちゃんの背中を流すのに憧れてたの。迷惑?」
「いえっ、迷惑だなんてことはちっともっ・・・!お、お願いします」
断れば礼を失する!決してやましい気持ちがあるわけではない!
「ええと、じゃあ洗うね!」
「・・・あの、ソアラちゃん、そう言えば体を洗うための布が見当たらないのですが、風呂場の外にはありませんでしたか?」
「・・・うん、無かったよ。無かったから、もうこれはしょうがないよね・・・えいっ!」
ソアラちゃんがそう言うと、視界の隅にパサリという音と共に、なにかがフワリと舞い落ちる。見ると、可愛いらしい寝巻の上着だ。
おや?この寝巻はまさに今、ソアラちゃんが身に着けてはいなかっただろうか。
「お兄ちゃん、こっち見ないでね・・・」
ソアラちゃんは湯気の中から背後へ寄ってきて――ぴとっと背中に触れた。
あたたかい感触が背中に伝わる。しかも、やけに柔らかくて・・・。
「あ、あの・・・」
そう言ってつい、肩越しに後ろを振り返る。
ソアラは背中に密着した状態でこちらを見て、照れた顔で二コリと笑う。長い八重歯が可愛らしい。
先ほどから心臓が高鳴りすぎて胸が痛い。
「じゃあ、洗うね・・・」
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