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動かぬ、理由




 俺は耳を疑った。再びシャーロットの目を見るが、彼女は視線を外すことなく、どこか決意に満ちた悲壮な眼差しで、こちらを見つめ返してきた。そして俺の手を優しく掴み、そろそろと自分の胸元へと導く。 


 俺は抵抗することも出来ず、シャーロットの胸元に誘導され、差し込まれる自らの手をスローモーションのように見送った。

 そしてこちらの目をジッと見つめたまま、優しく微笑むシャーロット。心臓が破裂しそうだ。

 吸い込まれそうな、少しつり目がちのパッチリしたスカイブルーの瞳。

 感動だ。スタンディングオベーションだ。立つのはあくまでも心だ。

 

 ・・・しかし、俺の手は、シャーロットの胸に到達する直前で石像のようにピタリと止まってしまった。


「・・・ねぇ、どうしたの?触らないの?」


 どうしたのは俺が聞きたい。


 なぜ・・・なぜ動かん!?

 

 触りたいのに、こんなにも揉みたいのに、なぜ!?

 やはり俺は童貞なのか?だから勇気が出せないのか・・・

 酒20杯の力を持ってしても!!


 しかし、揉みたいのにビビッて揉めないというのは、あまりにもかっこ悪い。とにかく何か。何か言わないと。


 俺は、キリっとした顔を作り、シャーロットを見つめる。

 

「……シャーロットさん。私には、あなたが無理をしているように見えます(嘘)あなたのような美しい女性が悩んでいる姿を見るのは、私には耐えられない(嘘)あなたの悩みを私に打ち明けては貰えませんか?ふふっ、あなたの誘惑にも、実は後ろ髪を引かれる思いなのですがね(本当)」


 シャーロットはきょとん、とした顔をした後、ホッとしたように笑う。


「なんだか、ちょっとビックリしたわ。あたし、男の人を誤解してたかも。いや、あなたみたいな人が珍しいのかな」


 ああそうだろうとも。俺みたいなヘタレは珍しいだろうなチキショー! 


「いえいえ、私は美しい女性に対する当たり前の対応をしているだけですよ(血涙)」


「フフッ、お上手ね。・・・では、改めて乾杯しましょうか」


「そうですね、乾杯」


「・・・ところで、貴方程の剣士がどうしてあんな小さな店の用心棒をしているのかしら?」


 おっとそうきたか。実は一文無しで行く当ても無いのでご厄介になっています、とも言えない。カッコ悪すぎる。さて、どうごまかすか。


「・・・かぞくです」


「・・・えっ?」


「ですから、家族です。ソアラは私の妹です」


 確か、今はそんな話になっていたような気がするので、ありのままをお伝えさせていただく。


「そっ、そんな・・・!」


 そう言ったまま、シャーロットはそのまま固まって動かなくなってしまった。


 ほどなくしてシャーロットは首をギギギと動かした。斜め後方のテーブルでこちらを向いて座っていた、全身黒革で包んだ中肉中背の男を見る。男は、シャーロットを見るとやれやれと言った風に首を振っている。なんだこいつ?


 シャーロットの顔を見ると、なぜか目にいっぱい涙を溜めている。

 彼女は今にも泣き出しそうな顔で立ち上がり、店の扉へ向かう先程の中肉中背の男を目で追っている。


 男は一瞬振り返ると、扉を開けて肩をすくめながら、店から出て行った。


 そこでシャーロットはこちらを向いた。彼女と目が合う。彼女は目からポロリと涙をこぼす。


「えっ・・・シャーロットさん、一体どうしたんですか?あの男が何か?」 


 シャーロットは何も答えずに座り、目の前のグラスを一気に飲み干す。

 透き通ったスカイブルーの瞳。

 その瞳はクールな落ち着きを取り戻した様にも、どこか投げやりなようにも見える。


「ねぇ。貴方、家族は好き?」


 うん?何だろういきなり。家族ってたぶん、髭オヤジとソアラちゃんのことだよな。



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