暴走
「ず、随分とせ、積極的ですね・・・」
「強い男は競争が激しいもの。特に、こんなご時勢ではね?」
そう言いながら、シャーロットは俺の左太ももに手をのせ、そっと撫でるように動かす。
その手が、少しずつ上のほうへと移ろっていき……。
そこでスキンヘッドが琥珀色の液体が入ったグラスを持ってきた。
「待たせたな。強い蒸留酒だから、飲みすぎに気を付けろよ?」
シャーロットが酒を受け取るために、パッと俺から離れてしまう。
ああっ、そんな……!
俺の心の嘆きを無視して、シレッとした顔で酒を渡してくるスキンヘッド。
空気読めよ、血の涙だすぞコノヤロウ。
「じゃあな、ごゆっくり」
そう言って歩き去るスキンヘッド。
と、シャーロットが左隣でこちらに向き合う。
「じゃ、二人の出会いに乾杯ね!」
「……ええ、そうですね。乾杯!」
気を取り直してそう言い、シャーロットとグラスを打ち交わす。
グラスを傾け、喉を鳴らした。
焼けるような感覚が喉を通って胃へと落ちていく。
体が、心が、満たされていく。
まるで砂漠で水を飲んだような、魂が震えるような幸福感。
先ほどの怒りなど、もうどこかへ吹き飛んでいた。
「フフ、随分と美味しそうにお酒を飲むのね。
あなたが用心棒をしている店のお酒も、そんなに美味しいのかしら?」
ふと気づけば、シャーロットは体をこちらから完全に離していた。
体を、完全に、離したまま。
その淋しさは、まるで半身が欠けてしまったかのよう。
おのれスキンヘッド……憎しみで人が倒せたら……!
俺は血の涙を流しながら酒をあおる。
「店主、もう一杯!」
悲しみのあまり、声を荒げておかわりを頼む。
すると、シャーロットが何やら怯えたようにこちらを覗き込んできた。
「ご……ごめんなさい。何か気に障ったかしら……?」
「あっ、いや、すいません。決してそういうわけでは……」
いけない。思えばこの酒場に来るまでにも、勇気を出すためにかなり飲んでいた。
多分、20杯くらい。少し自制心が緩んできているのかもしれない。
この酒も強い。体感で40度以上はある。飲みすぎには気を付けないと。
そんなことを考えていると、シャーロットがまた体を寄せてきて、そっと俺の右腕に自分の腕を絡めてくる。
そして、上目遣いでじっと見つめてきた。
透き通ったスカイブルーの瞳。
クールなその瞳は、今は怯えたような色を湛えている。
こんなふうに見つめられたことなんて、たぶん一度もない。
またしても夢見心地だ。
「お願い、機嫌を直して?」
そう言ってシャーロットは、俺の上着の隙間にそっと手を滑り込ませる。
服越しに胸板をなぞるように、ゆっくりと指先が動いていく。
「あ、あの、いったい、なにを……?」
「シッ。他の客に感づかれるわ。静かにしてて……」
手が腹部のあたりまで滑っていく、そのとき――
「遅くなって悪かったな。さっきの注文の酒だ。」
再び現れたスキンヘッドの店主。
俺の方が近い位置にいたのに、わざわざ周りこんでグラスをシャーロットに渡そうとする。
そして、シャーロットが酒を受け取るために、またもや俺からパッと離れてしまう。
ハゲコラアアア!!
スキンヘッドが去り際にニヤリと笑った。
こ、コイツ……わざとか。
俺が怒りに身を震わせていると、シャーロットがグラスをこちらへ差し出してきた。
「さあ、どうぞ。一緒に飲みましょう?」
そう言ってシャーロットは自分のグラスを傾けて喉を鳴らす。
俺も続いて酒を飲む。
「ふぅ……本当に強いわね、このお酒。暑くなってきちゃった」
シャーロットは視線を外し、胸元を摘んで引っ張るようにしながら、もう片方の手でパタパタとあおぎ始める。
その仕草に思わず視線が吸い寄せられそうになる。
俺はグラスを口に運んだまま、見ていることがバレないよう、体の向きはまっすぐにしたまま横目でチラリ。
……これはヤバい。目が離せない。
しかし、ふと気づけばシャーロットがこちらに流し目を送ってきていた。
目が合い、ドキリとする。
「…………」
「…………」
「ねぇ、私のココ……そんなに気になる?」
シャーロットは胸元を摘んだまま、頬を少し赤らめて問いかけてきた。
「えっ、ああ、いや、すいません」
慌てて視線を逸らす俺に、シャーロットは少し微笑みながら言った。
「いいわよ、触っても」
―――今いったい、なんと?