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第七話 金の瞳の竜 異世界へ飛ぶ その8

  その夜は七日目。つまり明日にはわたくしは帰ってしまいます。


  だから、家でナギさんと買った商品――戦利品というらしいです――を開封して、沢山の漫画やアニメ、特撮を見て、わたくしが作った料理を二人で食べて、時間が経つのも忘れて大いに楽しみました。


  もしかしたら近隣の方には大きな音でご迷惑をかけてしまったかもしれませんが、それくらい楽しい夜だったのです。


  地球という世界に来て分かったことは沢山あります。


  美味しい食事が大好き。

  好きな事ががあれば大抵の嫌なことを忘れさせ、明日への活力になる。

  そして、誰かと一緒にいるという事は、こんなにも新鮮で楽しい出来事が起こるものなのですね。


  早く、わたくし達を助けてくれた翡翠の瞳の勇者、ユートにもこの気持ちを味わって欲しいと心から思いました。


  そして、この世界で見る最後の夜明けが訪れようとしていました。


「ナギさん、ナギさん」

「ん、んん? ああリィべ。おはようございます」


  彼女は目を擦りながら、瞼を重たそうに開けようとします。


「おはようございます」

「どうしたんですか……まだ午前四時半ですよ。ワンピース着てどこかへ行くのですか?」


  時計を確認するナギさん。どうやらまだ寝ぼけているみたい。


「今日は八日目ですよ。忘れてしまいましたか?」

「ようかめ? 八日目、八日目! そうでした今日は――」


 気づいたのか、寝ていた椅子から勢いよく立ち上がります。

  その衝撃でテーブルの上に散乱していたものが一斉に床に落ちていきました。


「はい。わたくしが戻る日です」

「時間はどれくらい残っていますか!」

「後、一時間程でしょうか」

「一時間! ならなんとかなるか。ちょっと待っててくださいね。用意しますから! 絶対一人で行かないでくださいよ」


  ナギさんは喋りながらも部屋着のジャージを脱ぎ捨て、髪を整えながら、着替え始めます。

  その途中でスマホが鳴りました。


「 はい盾持です。あっ局長! はい今用意しています。いえ決して寝過ごしたわけでは……はい。すぐそちらに向かいます!」


 ナギさんはスマホで会話しながらも、器用にワイシャツを着てパンツを履いて、最後にジャケットに袖を通しました。


「行きましょうリィべ」


  ナギさんはキリリと引き締まった顔をしています。そういう顔を仕事モードと言うとか。


「あの、行く前にお願いがあるのです」

「何でしょう。この前買った必要なものはすでに向こうについてますよ」

「それとは別に、趣味の部屋にある物も持っていってよろしいでしょうか?」

「あの部屋の?」

「はい」


 ナギさんは趣味のグッズを置く部屋と言っていましたが、奥にベッドが置かれていました。


  恐らく、あそこはユートの部屋だったのでしょう。

  ならば、部屋にあるものをいくつか持っていけば、彼も喜ぶかもしれません。


  彼女は考え込んでいるようで、顎に手を当てています。

  やがて、口を開きました。


「……分かりました。それが貴女の役に立つのなら持っていってください」


  失礼なお願いも彼女は笑顔で了承してくれました。


「ありがとうございます!」


  そうとなったら急がないと、わたくしは持っていくもの、枕にシーツ、そして本棚にある本を選んで風呂敷と呼ばれる布に包んでから背負いました。


「お、重くないですか?」

「大丈夫です。行きましょう」

「……分かりました。それじゃあこちらへ」


 ナギさんは少し躊躇うそぶりを見せながらも、わたくしを案内してくれます。

  外に出る時、最後に沢山の思い出ができたマンシャンをもう一度仰ぎ見ました。


「リィべ急いで!」

「はい。今行きます」


  マンションに小さく頭を下げて、わたくしはナギさんの後を追いかけました。

  黒い鉄の馬車、ではなく自動車の後部座席に乗って出発です。

  車を邪魔するものはなく、青、黄、赤の鮮やかな光を放つ信号も全て青になっていました。


「局長に頼んで、警察を動かしてもらいました。目的地まで邪魔する車も人もいませんよ」


  隣のナギさんの言葉で納得です。

  最初に降り立った港には以前もいた自衛隊の車両が展開していました。

  ナギさんによると、万が一の混乱を防ぐ為にだそうです。


「リィべ着きましたよ」


  目的地に着いた車が止まり、ひとりでにドアが開かれます。

  わたくしが降り立つと、まるで待っていたかのように何も無い空間が縦に裂けて、大きな穴が開きました。


「ナギさん、これでお別れですね」


  振り向くと、彼女は両手で抱える程大きな箱を持っていました。


「これ持っていってください。きっと気に入ってくれると思います」

「開けてみても?」


  頷いたナギさんの了承を得て、包みを開けてみると……。


「まあ! 」

  そこに入っていたのは、真っ白な割烹着に、なでしこ色のワンピース!


「ナギさん、これは」

「リィべがとても気に入ったようだったので、探して手に入れておいたんです。届いたのは昨日でギリギリでした」


  彼女は笑っていますが、目尻に涙がたまっているのを見逃しませんでした。

  それを見て私の目頭も熱くなってきます。

「ありがとうございます。大切にさせてもらいますね」


  ナギさんは首を下に向けているので表情は分かりませんが、肩が僅かに震わせながら返事します。


「……はい」


  わたくしはトゥインクルワールドに持っていく荷物を、白い割烹着となでしこのワンピースと共に四次元空間(フルオン)に大切にしまっていきます。

  次に被っている麦わら帽子、履いているビーチサンダル。

  そして着ている水色のワンピースを脱ぐと同時に、竜の姿に戻りました。

  こちらを見上げるナギさんの顔は涙と鼻水でくしゃくしゃです。

  わたくしはテレパシーを送ります。


『短い間お世話になりました』


「私もぉ、忘れぇません!この一週間とても楽しかったですぅぅ! 」


 テレパシーを送られたら、テレパシーで返すこともできるのですが、ナギさんは大きく声を張り上げます。


「貴女の事はぁ、一生ぉ忘れません!」


  そんなに声を張り上げなくても大丈夫なのに、でもその震える大声は、わたくしの心を激しく震わせました。


『ありがとう。わたくしも貴女の事は決して忘れません』


  これ以上は、名残惜しくなって別れが更に辛くなるのは分かっていました。

 だから、見えない鎖を断ち切るように、手を振る彼女から視線を外し、空間に開いている穴に振り向いたその時でした。


「息子の事、よろしくお願いします!」


  えっ?


  ナギさんは泣きながら、こちらに大きく手を振っています。


「さようなら! さようならー!」


  ユートの事はわたくしに任せてください。

  異世界の親友(ナギさん)、さようなら。


  こうしてわたくしはトゥインクルワールドに戻ってきたのです。

  それからも色々と大変でした。

  日本で手に入れた野菜などを四次元空間内で育てられるように改良。

  わたくしの魔力で家電製品を動かせるように試行錯誤して動かせるようにしました。

  さあ、準備は整いました。

  母の正装である割烹着になでしこ色のワンピースを着て、勇者ユートの元へ出発です。

  彼のいる塔へ向かう間、わたくしはあることを考えていました。

  ユートと呼ぶのは何か堅苦しいですね。可愛らしい彼には似合わない気がします……別の呼び方ないかしら?

  そうだわ、こう呼んでみましょう。


 ユーちゃん、と。 

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