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第七話 金の瞳の竜 異世界へ飛ぶ その7

 寝不足でテンションの高くなったままのナギさんと共に、電車という蛇のように長い鉄の箱に乗って、わたくしは電気街というところにいました。


  そこには新旧様々なアニメ――呪文ではなかったようです――のグッズやゲームはもちろん、わたくしが気になった特撮関係のグッズも沢山置いてあります。

  中にはかなり日に焼けて表紙が変色した本などもありますが、値段を見て驚きました。


  定価の倍の値段がついているではありませんか!

  ナギさんはその本を見つけてとても嬉しそうです。


  ガラスのショーケースに顔をくっつけて、少し息が荒くなっていました。


「おおっ! この本はドシラ対メカドシラ大百科! しかも初版!! これは欲しい……」


  彼女は自分のお財布の中身を確かめ始めました。


「定価より高いのに買うのですか?」


  わたくしの疑問に「何を言いますか!」と言いたげな顔を向けてきます。


「リィべ。この本は今から四十年前に発行された本で、メカドシラの詳細な内部図解が描かれている唯一の本なんです! 今ここで逃したら私は一生後悔して毎日枕を涙で鳴らすことになってしまいます。だから止めないでください!」

「分かりました。いってらっしゃい」


 ナギさんは鼻息荒く店員さんを呼ぶと、ショーケースから取り出された商品と一緒にレジに向かっていきました。


  なかなか戻ってきませんね。そうだ。戻ってくる間いろいろなところを回ってみましょう。


  そう決めたわたくしは、同じ建物にあるのお店に足を運んでみることにしました。


  あら、これはギャラクティカマンの人形。こちらには悪の宇宙人や怪獣まで、それにしても良く出来てますね。

  もしかして魂だけ抜かれちゃったとか……そんなわけありませんね。


  これは、抱き枕カバーという名前なのですか。 可愛い女の子のイラストが描かれています。


  何に使うのでしょう。一緒に寝るとか。

 あそこにいる、エプロンをつけた女性の店員さんに尋ねてみましょう。


「すいません。これは何に使うのでしょうか?」


  店員さんは、わたくしを見てちょっと顔を赤らめながら答えてくれます。


「は、はい! 自分の好きなキャラが描かれたカバーを抱き枕につけて一緒に寝るんですよ。こう添い寝するような感じで」


  店員さんは、両手で抱きしめる仕草をしました。


「添い寝……」


  わたくしはユートが美少女抱き枕を抱いて眠る姿を想像してしまいました。


「 駄目です。抱き枕と一緒に寝るくらいなら、わたくしが添い寝してあげます!」


  店員さんの顔が更に真っ赤っかになりました。


  恥ずかしい。まさか口に出してしまうなんて。


  周りのお客さんも何事かとこちらを見ていました。


「教えてくれてありがとうございました」


  店員さんに頭を下げてわたくしは、足早にお店を後にしました。


  はあ、あんな恥ずかしい事を口に出してしまうなんて……でも添い寝してあげたいと思ったのは本心からでした。


「ここは?」


  黒い暖簾が目に留まりました。

  そこには十八禁という大きなマークとこう書いてあります。


『未成年は入ってはいけません』と。


  未成年、この世界で成人していないヒトの事を指す言葉でしたね。

  わたくしはこの世界の年齢でいえば、成人を超えてますから入っても大丈夫なはず。


 入ってみましょう。何事もこの世界を知る為です。

  先程からお店にいるヒトがこちらに視線を送ってくるのが気になりますけれども。


「失礼します……あら? あらあら、これは……」


  暖簾をくぐった先にあったのは沢山の肌色でした。

  正確には可愛い女の子が描かれたグッズですね。

 本や抱き枕カバーに描かれた絵はほとんど裸ばかり。

  フィギュアも輝く肌色です。


  それにしてもすごい精巧に出来ていますね。

 これは何でしょう? 上半身だけですが、胸が大きく膨らんでます。


  これは、マウスパッドというのですか。使い方の見当が全くつきません。


  後でナギさんに聞いてみましょう。


 本棚には薄い本が沢山あります。


  沢山の本が所狭しと棚に詰め込まれていて、ちょっと取るのが大変――取れました!

  どんな本なのかしら、あら、あらあら、こ、この表紙……。


「いた!」


  今の声は、ナギさん?


  のれんを吹き飛ぶほどの勢いで入ってきたのは汗だくのナギさんでした。


  両手には沢山の袋がぶら下がっています。

  走って来たのでしょう、息も絶え絶えです。


「まあ、どうしたのですか? そんなに急いで」

  「そんなに、急いでって、そりゃそうですよ……」


  膝に手をついて、苦しそう。


「まずは深呼吸して、息を整えましょう。それからお話を聞きます」


「す、すいません……すう〜はぁ〜〜」


  何度か深呼吸したおかげで、ナギさんは落ち着かを取り戻したようです。


「大丈夫ですか?」

「はい。落ち着きました……じゃなくて、勝手にどこかへ行かないでください。寿命が縮むかと思いましたよ〜」

「ごめんなさい。ナギさんが楽しそうに買い物されていたので、邪魔しては悪いかなと」

「いなくなったと知った時はビックリしましたよ。お陰で局長に怒られました……あっ!」


  ナギさんは言ってはいけない事を言ったしまったとばかりに自分の口を塞ぎます。


「知ってますよ。わたくしを監視している人がいる事は」

「えっ、知ってたんですか」

  わたくしは頷くだけで返事しました。

「いつからです」

「いつから、そうですね。家を出た時から、鋭い視線を感じていましたよ。殺意とかではなく、なんていうんでしょうか、そう。一時も目が離せないという感じでしたね」

「ぐう……」


  ぐう? まるでぐうの音も出ないといった感じに声を出すナギさん。


「言い訳にしかなりませんが、リィべを危険視したわけではありませんから。その何かあってはいけないと思って、監視を……でも不快な気持ちにさせてしまいましたね。すいません」

 

  まるで捨てられた子犬のようにシュンとしてしまいました。

  わたくしは元気づけるために彼女の手を握ります。

「落ち込まないでください。わたくしは嫌な気分になっていませんから。ね?」

「そ、それなら良かったです」


 ナギさんの顔色が少し明るくなりました。


「それにしても、よく分かりましたね。衛星とかで監視していたのに……」

「衛星とは?」


  ナギさんの説明によると、この青空よりもさらに上の宇宙空間に衛星という人口の星が漂っているとか。


  だから以前外に出た時、上からの視線を感じたのですね。


「ああ、そうだった! リィべここを離れましょう」


  まるで何かに追われているかのような必死の表情でそう促してきました。


「いきなりどうしたのですか? 確かにお店でお話ししていたら邪魔でしょうが……」


  そんなに焦らなくてもいいのに。


「違うんですよ。このフロアはちょっと駄目というか、いや別に私は大丈夫なんですけど、恥ずかしいでしょう?」


 何が恥ずかしいのかしら。


「いいえ。沢山の見た事ない商品があってとても楽しいですよ。それにしてもここは特に肌の露出が多いのですね」


「だからですよ! ここは、えっとなんて言えばいいのか……エッ、エツチな商品が売っている場所でして」


  えつち? エツチな商品って聞いた事ないですね。


「そうだ! そのエツチな商品で、気になるものを発見したんですよ」


  わたくしは一冊な本を両手で抱えて彼女に見せます。


「こ、これは……」

「そう、この表紙の真ん中の女性。わたくしにそっくりでしょう?」


  表紙にはわたくしそっくりな女性ばかりか、娘のレニャと侍女のメーヒェンにそっくりな女性も描かれています。


  しかも、実際見て来たのではないかと思えるほど、ちゃんと特徴を捉えていました


 その本の名前は 《おかあさん達があなたをいっ〜〜ぱい甘やかしてあげるね》


「ナギさん。この素晴らしい本をわたくし是非とも買いたいのですが……ナギさん?」


  どうしたのでしょう? 顎が外れてしまったのか口が開きっぱなしです。


「あっ、すいません。軽いショックで気絶してました。って、それを買うんですか!」


 本を指差すナギさんは表情で「後悔しますよ」と語ってきます。


「はい是非とも。この本なら色々と勉強になりそうです」


  どうやったらユートを癒すことができるか分かるかもしれませんしね。


「まあ、リィべも成人だから買っても問題ないか、分かりました。買ってきますよ」


「あっ、ちょっと待ってください」


  わたくしは持っている本以外にも、欲しいと思ったグッズを山ほどカゴに詰め込んで、


「これでお願いします」


  笑顔で彼女に渡しました。

  対照的にナギさんはちょっと困ったような恥ずかしそうな表情で、それをレジに持って行きました。

  未成年禁止と書かれたのれんの奥にあった商品の意味を知ったのは、ナギさんのマンションに帰ってからでした。


 今思い出しても、少し恥ずかしいです。


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