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5章1 取るべき道

あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします

メディア国王城すぐに広大な敷地が残っていた。そこは本来なら王妃である者が離れとして使い、男子禁制の場所として使っていたのだが取り壊され、跡には何も建つことなく更地となっていた。一時的に膨れ上がった兵士用の宿舎などを建てたりもしたがそれを他に移し、現在違う建物を建設中である・・・そう俺の屋敷だ


建設は急ピッチで進められ、あれよあれよと形となっていく


本来なら戦争後は色々と駆り出される職人達も今回は特に出番がなく、城壁の一部が欠けた部分の修復くらいしかなかった為に、久しぶりの国からの大きな工事の発注に職人が大勢集まった


素材が運び込まれ、加工され、組み込まれていく姿を見ているだけで一日が過ぎてしまいそうだ


「凄いね・・・次々と出来上がっていく」


「ああ・・・しかし、この土台からするとかなり巨大だな」


敷地は充分に広い為、更地なら俺の軍がすっぽり収まりそうだ。そこを半分くらい建物にするのだから中の広さが想像すら出来ない


「執事、メイド、料理人合わせて30名程の常駐を考えております。後は細かい使用人の数などを調整致しまして100名には満たないように致します」


俺とシーラが眺めている横で説明してくれたのは、全てを取り仕切っている大臣のホートンだ


「よろしく頼みます。ではセーラ・・・陛下に用事があるので、これで」


先程から眺めているとずっと説明してくれていたのだが、半分は耳に入っていなかった。ボーとしていたって言うのもあるが、今日のシーラの服装が・・・


「何?」


「いや、なんでもない」


太ももにスリットが入っている上下一体型の服って言うのか?分からないが、体のラインが出て妙にグッとくる。頭の上にはお団子二つにまとめリボンをつけていた


「そう言えば・・・グリム達が帰って来たよ」


「え?グリム?」


グリム・・・グリム・・・あっ


「・・・忘れてた?」


「すっかり」


ガーレーンに残して来たんだった。王城に向け歩きながら詳細を聞くと、どうやらフレーロウに残っていたモリスに頼み、グリム達の元へ行ってもらったらしい。あの時は連戦でバタバタしていたから、モリスの存在すら忘れてたよ


「戦争から落ち着いても一向に呼び出されないと怒ってたみたいよ?お金も尽きてソルトさんにお世話になっていたんだって・・・お礼の手紙は出しといたから」


うむうむ・・・よく出来た補佐官だ


「特別手当としてグリム達にはアシスのお金から出しといたから」


むむむ・・・鬼補佐官め


「メイカートで沢山無駄金使ったので、しばらくは何も買えないと思ってね」


「そんなに!?まだ結構あったような・・・」


「メイカートへの復興寄付金と私達の買い物も含むとないわね」


「寄付金はいいとして・・・私・・・達?」


「あなたが部下とイチャイチャしている間に暇を持て余した私達の買い物よ・・・この服もそう・・・文句ある?」


歩きながら突然ふわりと回転するシーラ・・・こ、これは


「ありません」


ふふんと笑い、先を歩くシーラ。左手はまた少し動くようになっていた。まだ完全に曲げることは出来ないが、指先だけなら動かせ、肘も少し曲がる


しばらくするとと王城に着き、軍議室ではなく謁見の間に通される。謁見の間の前で一旦シーラと別れ、俺だけが中へと入る


謁見の間には俺を含めた守護者4人全員と将軍達がずらりと並ぶ


「揃いましたか・・・それではこれより軍議を開始します。本来なら軍議室でするのですが、生憎と軍議室は手狭になってしまった為に改装中です。エイダ、まずは近況の報告を」


「はっ!現在フレーロウには兵5万がおります。会戦中にいた残りの2万はそれぞれサトナークとコースレナに戻りました。尚────」


ジェイスの指名により政務官であるエイダって女性が書類に目を通しながら現在のメディアの状況を話してくれた。今までいた7万の兵士の内2万は他所から引っ張ってきた戦力で、現在は元の位置・・・サトナークはレグシ側から出た最初の街、コースレナはマベロンに一番近い街に戻って行った


サトナークとコースレナの兵士の意味は180度違う。サトナークに滞在する兵士は防衛の為、コースレナに滞在する兵士はマベロンへの救援をする為と言われている


救援と言っても軍事的ではなく、交易が盛んであったや為に交易品を狙った野盗などから品を守るのが主な目的であり、ガーレーンやサトナークとは意味が違っていた


「続けてサホーナ、レグシ方面の報告を」


「はっ!現在はレグシの大使であったカラホス様は自国へと退避しております。レグシ兵力およそ5万との報告が上がっておりますが、現在民兵の────」


兵力5万か・・・前回出兵したのが3万と考えるとかなり大胆な賭けに出ていたんだな。そりゃあセリーヌも引くに引けないわな


「最後にイサラ、デニス方面の報告を」


「はっ!デニスはファラスと戦争中です。ただ小規模な戦闘のみで、お互いが牽制しあい膠着状態とも言えます。またデニス国にシャリア国第2国王ユキナ・ロウと思われる人物が亡命しているとの噂もあり、ファラスはそれを追って────」


第2?国王?国王が二人いる・・・いや、居たってことか?他国の事はよく分からんな


「以上にて近況報告を終わりたいと思います。続きまして、今までで疑問がありましたらお答え致しますので、挙手をお願い致します」


この場で第2国王の事を聞いたら怒られそうだから、後でジジイにでも聞こう・・・そう考えていたら、一人の将軍が手を挙げた


「ラクード将軍どうぞ」


「デニスの動向で少し聞きたいのだが、膠着状態なのは良いが、ファラスがそのまま撤退するというのはありそうか?それによってはこちらの動きもかなり変わってくるぞ?」


「イサラ」


「はっ!ファラス軍は国境の大壁を破壊し、そこに拠点となる建物を建設しております。じっくり腰を据えて攻める意思表示にも思え、即時撤退の可能性は薄いと見られます」


政務官イサラの話を聞いて周囲がおおーとどよめきの声を上げる。俺も見た事があるけど、キャメルスロウの壁の方が凄かったが、あの国境の大壁もなかなか・・・あれを破壊したのか・・・


「北の国境の街テントックを占領したと?」


「いえ、テントックは占領されてはいないとの情報です。街の手前に砦のような建物を建設していると聞いております」


ファラスは何を考えてるのか・・・メディアから攻めてくれと言われて攻めてるだけではなさそうだけど、意図が読めないから不気味だ


「この機を逃すわけにもいくまい・・・だが、道は二つ・・・デニスを攻めるかレグシを攻めるか・・・」


おお、デュラスがまともな事を言ってる!そうなんだよな・・・ファラスと挟撃するような形でデニスを攻めるのも良いが、そうなるとレグシが・・・かと言ってデニスを放置したままレグシを攻めれば、その間にデニスとファラスの戦争が何らかの形で終結してしまうとピンチになるし・・・


「無論レグシだ」


今まで黙っていたセーラが立ち上がり、皆に告げるように言い放つ。周囲の視線は一斉にセーラに向けられた


「今のままデニスを攻めるとして、ファラスの存在があるから優勢に映るかもしれない・・・が、ファラスが突然撤退したら窮地に陥るのは再び我が国となろう。今回シーラの機転でファラスが動いたのだとしても、次はどう動くか見当もつかない・・・ならば、今はレグシを落とし、平定した後にメディアの勢力だけでデニスと対抗する・・・」


「しかし!それではレグシを攻めている間にファラスが撤退した時、我が国は・・・」


「無論それは有り得るだろうな。だから、今回レグシを落とすのは総力戦ではなく、我が国の勢力の半分で迅速に落とす必要がある」


半分・・・って事は、今のメディアが兵士の数が5万だから2万5千でレグシの5万を相手にする?


「無謀です!攻める側が守る側より少ない兵数など無駄になるだけですぞ!攻めるなら一気に総力をぶつけるべきです!」


「総力戦だとデニスが攻めてきたら終わるぞ!やはりここはファラスが攻めている内にデニスを攻めるべきかと!」


なんか話が堂々巡りのような・・・将軍達は次々に思った事を口にするが、やはりどの主張にも穴がある。ただ一つ言えるのはどちらを攻めるにしても総力戦は無理だ。デニスを攻めればレグシが、レグシを攻めればデニスが牙を剥く可能性があるから


スっとセーラが手を前に突き出すと、各々好き勝手言っていた将軍達が黙り込む。今度俺もやってみよう


「此度の戦を経験し思うた事がある。それはデニスの戦争功者なところ・・・慣れておるし、こちらの情報も筒抜けで特殊な兵も準備しておった・・・逆にレグシはどうだ?脅威に感じたのはデニスがいたから・・・おらねばどうだったか」


確かに・・・デニスに合わせて来ただけで、特に特別な動きはなかったな。最終的には何もせず帰っただけ


「我が国も同じだが、レグシは戦慣れしておらぬ。それもそのはず攻められた経験など皆無なのだからな。兄が言うていた・・・レグシに勇将はおらん・・・気をつけねばならぬ人物は元「十」のセリーヌただ一人。それも将軍としての動きは果たしてデニスの将軍と比べて未知数であるが上とは思えん。それでも兵力不足と言うて攻めぬか?デュラスよ」


名指しされた髭だるまさん、ぐぬぬと額に血管を浮かばせてセーラを睨みつける


「い、良いでしょう!2万5千の兵を率いて・・・」


「まあ待て。何も一人で行けとは言うてはおらん。デュラス軍1万アシス軍1万そしてラクスがサトナークに戻った1万を率いて合計3万の兵力でレグシを落とすのだ」


「なっ!」


え?俺も?休みたいんだが・・・


「総大将はデュラス・・・お前に任す。見事平定してみせよ!我が剣と盾を貸すのだ・・・失敗は許さぬぞ!」


「は・・・ははっ!」


マジか・・・無料レンタル先は髭だるま・・・


「アシス期待しておるぞ・・・それにラクス、セリーヌとは浅からぬ因縁があるのだろう?決着をつけてまいれ」


「必ずや」


目を閉じ大人しく命令を受け入れるラクス・・・俺は納得してないぞ!


「セーラ陛下!」


突然叫んで手を挙げたのは・・・ガレス。そう言えば、ガレスの師匠って・・・


「あの・・・俺も副官でも何でも良いので同行するのを許可願えませんでしょうか?」


「ガレス?構わぬが・・・ならばデュラスの副官として同行せよ」


「はっ!有り難き・・・ありがとうございます!」


なんて言えば良いか迷った挙句、勢いで乗り切ったって感じだな。分かる分かる・・・デュラスが凄い嫌そうな顔をしてるのが見えて俺もホクホクだ


「2週間後に出兵!各々準備し備えよ!あと守護者達には渡したい物があるゆえ残ってくれ・・・以上だ」


「はっ!」


セーラが締めくくると将軍達が一斉に敬礼をする。メディアの敬礼を初めて見たが、左手を後ろに回し右手は拳を作り左胸付近に当てている


その後ぞろぞろと出て行く将軍達の中、デュラスがこちらに訪れた・・・自ら寄ってくるとは珍しい


「ラクス殿・・・恐らくあなたがレグシ攻めのキーマンとなりますでしょう。よろしくお願いします」


「こちらこそ」


ラクスは興味無さげに返答するが、それでも髭だるまはニコニコしていた。ラクスに気を使ってる?もしかして、怖いのかな・・・ラクスって他人にはかなり無愛想だしな・・・


「それでは・・・」


「待て」


足早に去ろうとするデュラスを何故か止めるラクス。デュラスも驚いて慌てて振り向いた


「な、何か・・・?」


「俺に挨拶をして、アシスに挨拶をしないのが解せん。理由を言え」


俺に聞いてくれれば答えるのに。「面白くない」の一言に尽きるだろうよ。ただデュラスがそう答えるわけはないがな


「・・・ゴホン、あー、アシス・・・殿?此度の・・・」


「貴様耳が付いてるのか?俺はアシスに挨拶しろと言ったか?」


「ヒィ・・・いえ、その・・・」


デュラスが嫌々俺に言葉をかけようとしたが、ラクスがそれを止めて睨みつける。蛇に睨まれた蛙のように縮み上がり、ガタガタと震え出す


「貴様は壁の上で何を見ていた?何を感じた?小さい事に拘り大局を見ないものが軍総司令官など名乗れるほどメディアは小国ではないぞ。もしレグシを飲み込み、デニスと相対する事になった時、必要なのは己が小さいプライドかアシスら実力者か・・・考えておく事だな」


「くっ・・・失礼する!」


ラクスの言葉を受け、震えてた体は恐怖から怒りへと変わったのか、歯軋りをしてラクスを睨みつけた。そして、ひと睨みした後に踵を返し部屋を後にする


「国を思う気持ちは強いとは思うのだがのう・・・如何せん考え方が古いし固い。大国として成るには不要か・・・」


「そう考えます。小物過ぎる奴をこのまま頂点に置いておくのはいずれメディアによからぬ・・・」


ジジイとラクスの会話を聞いていると微妙に怖いな。人知れずデュラスを亡き者にしそうな雰囲気だ


「物騒な話をしておるな・・・それよりも4人にコレを渡しておく」


セーラが近付いて来て、俺らの前に首飾りを4つテーブルに置いた。玉璽によく似た形の羽根の生えた蛇のような作り物・・・素材は何か分からないが、頑丈さと精巧さを兼ね備えた物に見えて値も張りそうだ


「玉璽を模して作った守護者の証、世界に4つしかないこの証はメディア全土に通じるように知らせは出した。まあ、村にまで浸透するのは難しいがな・・・」


セーラが一つずつ手渡しで渡していき、最後は俺に・・・俺だけ直接首にかけたのはなぜか聞かずに、そのまま受け入れる


「これで良しと・・・レグシの件、頼んだぞ」


「あれよあれよと決まったが、レグシは俺も気になっていた・・・って、訳で任された」


空耳だとは思うが、ナキスの墓の前で聞こえた気がした言葉


≪メディアを・・・レグシを頼む≫


メディアだけでなくレグシも・・・その言い方がナキスっぽいと思い頭から離れなかった


二週間・・・その間にやる事は訓練アンド訓練。生存率を上げるためにも鍛え上げる。その後は3日くらい休暇を与えて・・・


シーラと合流して今後の予定を考えながら宿に着くと、そこにはグリム達が居た。散々放ったらかしにした事を責められたが、シーリスの登場で口を噤む。未だに『カムイ』に居た時の影響は大きいらしい


ノイスと今後の予定を話し、細かい編成などは明日訓練をしながら決める事となった。俺らがメイカートに行っている間に傭兵などの加入もあり、少し人数も増えたらしい


部屋に戻り一息つくと目の前に右手を上げて伸びをするシーラ・・・無言で一揉みしてみる


「・・・」


「・・・」


こちとら盛りの19歳・・・目の前に好きな女が刺激的な格好して、普段と違う髪型をされたらたまったもんじゃない。ハッキリ言って頭の中は常にピンクだった・・・今日一日


「もしかして・・・欲情してるの?」


スっと前を隠すように身体を捻り、顔だけを俺に向けたその姿にまた撃ち抜かれる・・・不味い・・・もう・・・


トントン


知らん!邪魔するな!


「誰か来たみたいよ?」


「シーラ・・・今は・・・」


ドンドン


吸い寄せられるようにシーラに近付き、腰に手を回す。全て俺のだ・・・誰にも・・・


ガンガン


「・・・」


シーラの腰に回した手を離し、ドアを開けるとそこにはアーク・・・このタイミングの悪さはリオンと思ってたので少し驚いた


「居るならさっさと出てよね!母上が呼んでるよ」


くっ・・・キレるにキレられない。逆にキレられ、渋々下に下りるとテーブルに座るアイリンが居た。邪魔しやがって・・・


「何むくれてるのよ?」


「別に・・・用件は?」


さっさと用件を聞いて部屋に戻ろうと座った瞬間に尋ねるが、アイリンはその様子を見てため息をつく


「ハァ・・・まあいいわ。レグシの件聞いたわ。それで私達はマベロンに行こうと思うの」


「は?なんで?」


「レグシの攻略は簡単よ。メディアがレグシを落とした後・・・それがこの大陸の転機となる。メディアとデニス・・・そして、シャリアを落としたファラスが国力で並び立ち、大陸の覇権を争うでしょう・・・そして、唯一戦争を経験していない国・・・マベロンはそれに飲まれる」


交易国家と呼ばれるマベロン。好戦的なイメージはなく、開かれた国という話を聞いている


「そのマベロンにあなたの兄であるアダムがいるわ。噂じゃ要職についたとか・・・」


ほうほう・・・なんか至る所に兄弟がいるな・・・


「3人だけよ・・・そんな目で見ないでちょうだい。・・・それでちょっと様子を見にマベロンまで行こうと思うの。だから、少しメディアを離れるわ」


「大丈夫なのか?マベロンは飲まれるとか言っておいて」


「あら?心配してくれるの?・・・ふふ、大丈夫よ。飲まれる前に脱出するつもりだから」


「・・・それもアンタの楽しい老後計画の一端か?」


「そうね。それ以外の何物でもないわ」


「ご苦労なこって・・・アークは?」


「連れていくわ。いずれはあなたから家主の座を奪わないといけないからね・・・ちゃんと鍛えないと」


「いつでも譲るが?」


「奪うのよ」


阿家の家主って立場は現在少しも役に立ってない。メディアの守護者になった時点で特に必要性もなくなったし、譲っても問題ないと思うが・・・それはそれで無責任過ぎるか。でも、家主って何するんだろって今更ながら思う


「じゃ、そういう事だから。下手打つんじゃないわよ」


そう言うとあっさりアークを連れて出て行ってしまった。実はセーラが要職を準備してアイリンを味方に引き込もうとしていたらしい。全体を客観的に見れて守護者達に意見を言える数少ない人物だかららしいが、それも徒労に終わった


まあ、阿家を放ったらかしにするような風来坊を鎖で繋ぎ止めるのは無理がある。今回もアダムがどうたらとか言っていたが、果たして本当かどうかも怪しいしな


「アイリンさん・・・無茶しないと良いけど・・・」


見送ったシーラが呟く。彼女にはアイリンがどう映っているんだろうか。俺には飄々と何でもこなす肝っ玉母ちゃんにしか見えないが・・・


「ああ、アシス。ちょうど良かった。傭兵からの加入の奴らの中にお前と面識があるって奴がいてな。お前に会わせろとうるせえんだ」


アイリンを見送った後に宿屋に戻るとノイスが頭を掻きながら困り果てた顔をして話しかけてきた。最近は色々とノイスに任せっきりにしていたのもあって、少々疲れ気味のようだ


「面識・・・傭兵の中でか?」


傭兵の時はそんなに知り合いもいないはず・・・『二対の羽』のメンバーならもう揃ってるし・・・誰だろ?


「会えば分かるってよ。ギルドにいるから行っておいてくれ・・・後、明日の訓練の場所はいつもの場所で良いんだな?」


「ああ、あそこで許可は・・・」


「うん」


「取っている。細かい編成は夜飯の時に話そう」


書類関係はシーラにお願いしてるので、一応シーラに確認したら許可を得ているとの事なので、それをノイスに伝える


「了解した。千人長は?」


「・・・出来れば集めてくれ」


ノイスは忙しなく動き、俺の言葉を片手を上げて応えると宿屋から出ていってしまった。ただの訓練ならそこまで気を回さなくて済むのだが、なにせ1万の兵士の訓練となると傭兵団の時とは規模が違う。申請なり情報の共有だけでも一苦労だ・・・俺は伝えるだけだけど


「ギルドに行ってみるか」


ノイスの言葉に従い、傭兵ギルドにそのまま向かった。戦争が控えてるのは分かるが、こうも忙しいと早く戦争を終わらせてゆっくりしたくなる。そもそも戦争の意味が分からない


「戦争の終わりってやっぱり統一した時かな?」


「滅亡した国は戻らない・・・もう止まらないと思う」


歩きながらシーラに尋ねると予想通りの答え。引き際を失ったのはファラスがシャリアを落とした瞬間・・・今までと違う事を大陸中に知らしめた時


「フェード・・・何者なんだよ、アイツは」


全てがフェード中心に起きてるように感じる。ナキスの事もシャリアを滅ぼしたのもアイツだ。もしアイツが見た目と違って凄い長生きしてるなら、今起きてる事も全て計算づくなら・・・アイツの望む展開になるまで戦争は終わらない気がする


「・・・アシス」


「ぶちのめして聞きたいところだが、その前に問題が山積みだ・・・全て片付けてからゆっくり聞いてやるさ」


レグシとデニス・・・二つの国との争いが終わった時、その答えを知る事が出来ると信じ先に進む


決意を新たに歩み進めるといつの間にかギルドに到着していた


中に入り見渡すと見覚えのある巨体がポツリと座っており、俺らの姿を見つけるとゆらりと立ち上がる


「小僧・・・遅いじゃねえか」


うーんと・・・ああ、バッカスだ。斧使いの・・・ん?シーラがなぜかバッカスを見て俺の体に隠れるように身を潜める。バッカスの事苦手だったっけ?


「呼ばれてすぐ来たつもりだがな・・・何の用だ?」


「はっ・・・いきなり赤の称号を得たと思ったら、次は軍の最高位の地位を得た・・・てめえは何なんだ?」


「コネと運に恵まれただけだ。そんな嫉妬をぶつける為に呼んだのかよ」


「ちげえよ・・・借りを返してもらいに来た」


「借り?俺がお前に?」


「ああ・・・そっちの嬢ちゃんなら意味が分かるんじゃねえのか?ん?」


近寄って来て俺の顔をのぞき込んだと思ったら、俺の後ろにいるシーラに視線を向けた。コイツに借り?シーラ?


「意味が分からんな。ハッキリ言えよ」


「・・・なんだ、聞いてないのか?そいつが生娘でいられたのはなぜか?その理由を」


「なに?」


全く意味が分からんが・・・腹が立つな・・・ぶち殺すか


「シーラ?」


俺の後ろに隠れているシーラがギュッと俺の服を掴む。そして、絞り出すように言葉を発した


「お、思い出した・・・あの時・・・」


シーラが語ったのは晩餐会の誘拐事件の話


シーラが攫われ、俺らが探している時、いち早くバッカスが犯人のアジトに辿り着いたらしい


そして────


「待たせちまったな・・・さあ、始めようかぁ!」


「ん────!」


モルスが事を始めようとした時、バン!と音を立てて再びドアが開かれるとそこにはバッカスが立っていた


「旦那・・・いい加減・・・」


「てめえらに忠告だ・・・その女の男はいけ好かねえが王子とつるんでる。誰にそそのかされたか知らねえが、手を出せばお終いだ。現にこの周辺は晩餐会に来た要人そっちのけで探し回ってるんだよ・・・その女一人をな」


「なっ・・・まさか・・・?」


「サマット・・・よく考えろ。晩餐会に出席してた奴だぜ?ただの街娘と思ったか?・・・処世術に長けたてめえらしくねえじゃねえか・・・金に目が眩んだか?」


全員動きを止め、目配せして状況を整理する。バッカスの言う通り今回の依頼は不明な点が多い。遠くを見れる筒を貸し与え、女一人を一晩攫うだけで5人が一生遊べる金を出す・・・依頼内容からして怪しいのは重々承知していたが、バッカスの言う通り金に目が眩み深く考えるのを止めていた


「外には捜索隊が大勢いる。遊んでないですぐにでも逃げ出せば助かるかもな・・・もちろん今の段階でも極刑は免れられねえから、最後に楽しむってのなら止めやしねえよ・・・」


バッカスの言葉を受け、サマット達5人は競うように外に出た。金は貰っている・・・ならば、少しでも助かる可能性に縋るために目の前の餌には目もくれず一目散に立ち去ることを選択した


バッカスは部屋に残ったシーラに服の切れ端を投げよこすと部屋の隅に転がっていた奇妙な筒を手に取り去って行った



────


「それで・・・助けたつもりか?助けようとしたのは攫った奴らじゃねえのか?」


「結果を見ろよ・・・俺が奴らに忠告しなければどうなってたか・・・想像出来ねえ程馬鹿じゃあるまい」


「・・・」


確かに・・・だが、腑に落ちない。忠告を聞かなかった場合どうなってたかは容易に想像出来るが、その場合バッカスすら怒りの対象になる。見て見ぬふりは加担も一緒だ。だから、結果だけみて判断するのは・・・


「恐らく・・・バッカスさんはアイツらが逃げなかった時、助けてくれた・・・と思う。私はそう感じた」


シーラが後ろから言うが、言葉は自信なさげだ。それもそうだ・・・極限状態で藁にもすがる思いの時に知り合いが来たのだ・・・助けてくれようとしていると勘違いもするだろう。2年も前の事で忘れたい過去・・・これ以上ほじくり返しても意味はないか・・・


「シーラが言うんだ。そうなんだろうよ。・・・助かった、感謝する」


「言葉は要らねえ・・・俺の要求を飲めばそれでいい」


薄ら笑いを浮かべ、胸を張ると言葉を続けた


「俺をお前の軍の隊長にしろ。独立遊軍として戦場に出せ」


「なに?・・・お前が俺の下につくってのか?」


今まで目の敵にしていた俺の?


「言ったろ?独立遊軍だ。形式上はお前の下だが、戦場に出たら好きにさせてもらう。心配するな・・・俺は手っ取り早く功績を挙げてお前を超えたいだけだ・・・他意はねえ」


傭兵が戦場に出るには軍に属さないといけない。赤の称号ならそれなりに優遇されるだろうけど、いきなり隊長職に抜擢されるかどうかは分からない。だから、俺を使い地位を得て上を目指すか・・・


特に問題はなさそうだが、念の為シーリスとノイスに相談するとして一旦保留とした。シーラの複雑そうな顔がひどく印象的だった




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