15話 リンリンの決意
「しかしノア様?」
そう言ってきたのは集落長ポポン
【なんです?】
「元々はレシア様のご友人をお探しで私共の集落へ?」
【うん、まあ…… そんなところかな?】
さすがに婿捜しとは言えない
【レシアは宮殿で育った…… まだ外の世界を見ていないんですよ…… いずれソレになるとしても、知識は外の方が身に付くからね】
「なるほどのぅ……」
うんうんと頷くポポンは言葉を繋げた
「しかしながら…… この世界の中心にある宮殿からココまで来るには大変では? 道中、レシア様にもしもの事が有っては申し開きも……」
【うん、その事なんだがね…… レシアをこの村で過ごさせて貰えまいかな?】
「は!? 集落でお預かりすると!?」
【そうさ…… どうだい?】
「いやはや…… 光栄では御座いますが…… 本当によろしいので?」
【ああ♪ 正直、その為に何度も訪れたんだよ…… ハハハ……】
「なるほどですな♪」
そう言ってポポンは笑った
つられて僕が笑い、集落民が笑った
ひとしきり笑い合うと僕は表情を変える
真面目に……
改めて、その言葉を口にした
【ポポン長老…… 民の方々…… レシアの事、頼めますか?】
と……
ポポンは後ろに向き直る
そこに居る集落民に向かって
彼らは一様に笑顔を見せ、そしてある者は頷く
それを見たポポンが僕に再度、向き直る
そしてまた深く、伏礼をした
彼は言った
「一同、総意にて…… レシア様をお預かり申し上げます」
【よろしく頼むよ♪】
僕も膝を折り、ポポンの肩に手を乗せた
僕達は山を降りる
アノ場に向かう際には気が付かなかった美しい山、美しい森
それを堪能しながら山を降りた
その間にも常に感じる視線
時折足を止め、その方向に目を向ける
その先に居たのは叫び声を上げ、アノ場にへたり込んでいた少女
リンリンだった
視線を合わせると母親の後ろに隠れ、少し顔を覗かせては僕を見る
怖がらせてしまったかな……
そんな事を僕は思った
集落の敷地に足を入れる
そこで振り向き、レシアの前で片膝を着いた
【じゃあな、レシア♪ 沢山勉強して立派な大人に成れよ! 困った事が有ったら僕を呼べば良い♪】
「はい! ノア様♪ またね!」
僕はレシアの頭を撫でる
不意に目を向けたレシアの腰元
そこにはポケットに無理矢理に押し込められていた苦無の柄が見えた
あ……
忘れていた……
【悪い、ムゥムゥの闇断ち…… 鞘を創るのを忘れていたな……】
そう言うと僕は右手を握る
そしてまた開くと蒼い穴が現れた
苦無の大きさ……
それに見合った鞘……
そんな曖昧なイメージでも、それなりの物が形作られる
それにもう一つ願うイメージ
これは紐だ
それも蒼い穴
サファイアのゲートから取り出した
鞘に紐を通す
レシアから闇断ちを受け取り、鞘に収める
そして彼女の腰に少しの緩みを持たせ、紐を結んだ
レシアが「ありがと!」と感謝の言葉を口にした
(おー! 神の力か!!)
驚きの声を集落民が上げる
そんな言葉を余所に、レシアの腰にぶら下がる闇断ち、そして鞘……
それに目を向けた僕は、今度は左手、その人差し指と中指で鞘の裏側をなぞった
その鞘に一筆、彫りを入れたんだ
《ムゥムゥの心と共に》と……
【さて……】
そう言って僕は立ち上がる
そして集落民、レシアへと目を向けた
【そろそろお暇させて貰うよ♪】
一同が、「お気を付けて!」
そんな言葉で僕を見送る
ただ一人だけは、その言葉を口にしない
怖がらせてしまったリンリンだ
まぁ、あんな事があったんだ
しようがない……
僕の、あり得ぬ力を見てはソウなるだろう
僕は集落民に何度も見せてしまった力
ラピス・ラズリ
その力で風を精製し、地から足を離す
【では、また♪】
そう声を掛け、飛び立とうとした時だった
「あ……」
リンリンと云う少女は言葉少なく母親の陰から僕に手を向ける
浮遊を始めた僕はその言葉を受け、また地に足を付けた
【リンリンかい? どうしたんだ?】
「あの……」
そう口ごもると彼女は目を伏せた
【怖がらせてしまったね…… 申し訳なかった】
「んーん…… そーゆーんじゃなくて……」
【ん? どうしたね?】
「あの…… えっと……」
【うん?】
彼女は口を《へ》の字につぐむ
【ん…… 言葉が整理できたら、またこの集落に来た時にでも教えておくれ♪】
そう彼女に告げ、僕は空を見る
「待って!! あの……」
【うん?】
「私を宮殿で働かせて下さい!!」
【え!?】
集落民がどよめき立つ
当たり前だ
「これ、リンリン! 不躾に何を申すか!」
そうポポンがたしなめる
僕はその言葉を遮った
【待って下さい、ポポン長老】
「はあ……」
【なあ、リンリン…… それはどういう事か解って言ってるのかい?】
「お仕え…… 私はノア様にお仕えしたいの!」
【それは嬉しい限りだが……】
ソコまで口にした僕は、彼女の傍らに居る女性
彼女の母親に目を向ける
驚きで固まる母親
その後、目を少し泳がせていた
少々ばかりの沈黙が訪れる
だが彼女……
母親は優しく笑った
そして、言った
「貴方が成したい事をなさい♪」
そう、優しく、少女に告げる
そして僕に視線を向けた
「ノア様…… 宜しければ…… リンリンを、娘を…… 宮殿へ召し上げて頂けませんでしょうか……?」
優しい眼差しながらも切実な願い
そんな母親と視線を交わす
そして、目を閉じた
僕の足を揺する手
レシアだった
彼女は何も言わず笑顔を見せる
そっか……
【うん、僕は構わない…… だがね、リンリン?】
僕は少女に目を移す
そして目の前まで歩き、膝を下ろした
【僕の宮殿、その侍女になるって事は…… いずれ《永命の儀》を受けることになる】
「永命の儀……?」
【そうさ…… 歳を取らなくなる】
「うん」
【それはね、君の慕った者達が老い…… そして居無くなる…… 母親もどんどん歳を重ね…… そして当たり前の事ながら君よりも早くこの世界から旅立つ……】
「うん……」
【それでも君は親と一緒に歳を取ら無い…… 君は若いままなんだ…… 耐えられるかい?】
「……」
彼女はまた視線を落とす
そして母親に目を向けては、また地を見た
そして僕を見る
その顔には決意が見えた
「耐えます……」
その顔を見た僕は、もう余計な言葉を出すつもりは無い
【そっか……】
とだけ口にし、集落民を見る
彼らはリンリンの周りに群がりだした
そして頭を撫でていった
最後に頭を撫でた大人
集落長ポポン
「頑張りなさい♪」
優しくその言葉をリンリンの心へと預ける
ああ……
なるほど……
この集落が優しく、暖かい理由が……
素直な子供達が居る理由が……
うん
今ようやく解った気がするよ
この集落では大人だから、子供だからじゃ無い
子供であっても、その夢を尊重する
けして一方的に潰したりはしない……
一個人として、認め合っているんだ……




