13話 奇蹟の女神
僕に向ける集落民の表情
《恐怖》
ココにはもう居られ無い
そう思っていた
だからこそ、直後のソレは意外だった
集落民を掻き分けるかのように一人の老人が杖を必死につきながら足早に駆け寄る
そして、咳込みながら……
レシアを挟むように、僕と対面した
覗き込むような……
そんな視線だった
「長老! お身体に障ります! 寝ていないと!!」
そんな言葉を掛ける民
それをシワが積もり、枯れ木のような手を向けて老人は遮った
長老?
そうか……
どおりで見たことが無いわけだ……
病にでも掛かっているのか……
それとも歳による体力低下か……
老人は少し咳込み、まだ僕を見続ける
そして、ようやく言葉を発した
「儂は…… 集落長のポポンと申します、名無し殿…… ご来訪の際にはお声も掛けられず申し訳ない……」
そう言って老人は軽く頭を下げた
【いや、大丈夫です…… お身体が悪いのでしょう? お休みになられた方が……】
「いえいえ! お心遣いに感謝致します…… あの……」
【はい?】
「間違っていましたら失礼…… 今、そちらのお嬢さんが《ノア様》と……」
だよな……
そうなる、よな……
【はい…… 申し訳ない…… 僕の名前は《ノア》です……】
「やはりか!! これはとんだ御無礼を!!!」
老人は膝を付いた
そして僕に……
地に頭を擦り付ける程の深さで伏礼をした
その姿に集落民はどよめき出す
「馬鹿者!! 礼をしないか!!!!!」
ポポンと云う名の集落長は伏礼のまま、後ろに立ち並ぶ集落民へと怒声を掛ける
それでもその立ち姿を止めない集落民にポポンがまた声を上げた
「この御方は神ぞ!! この世界の絶対神…… ノア様じゃ!!!」
全ての民が驚愕の表情へと変えた
そして直後、ザッと地を鳴らし僕の前にはポポンと同じ姿がひしめきあう
レシアは僕に振り向いた
僕はレシアの高さまで腰を落とし、抱きしめる
レシアが耳元で呟く
その問い掛けに僕は驚いた
【レシア…… 本気か?】
「うん……」
レシアが決断し、ソレに同意する僕
【そうか…… 優しい子だ…… お前の望みがソレならば…… 僕は構わない】
彼女はニコリと笑った
そしてレシアを挟んで僕の前に伏礼を続ける老人に彼女は向き直る
そして、その肩に手を置いた
「ポポンお爺ちゃん…… 顔を上げて♪」
伏礼をし、表情が見えないままで顔を振る老人
「大丈夫だよ♪ ノア様は怒ってなんていないよ!」
一時の間の後、集落長のポポンは上半身をゆっくりと上げる
そして言った
「本当に…… 申し訳ない次第に御座います……」
顔を歪ませ老人は呟く
「良いんだよ、お爺ちゃん♪」
「しかし…… お嬢さん……」
「大丈夫! それとね、少しで良いから私も信じて♪」
「え? は、はぁ……」
「うんうん、そのままでね♪」
レシアは目を瞑る
そして両手を老人の前に出し、握った
ゆっくりとその握る両の拳を近付け、開き、合掌する
その手を静かに開いたソコには紫色の穴が姿を現した
ラピスラズリのゲート
終焉の穴
老人の顔が恐怖で歪む
「あの…… あの…… こ、これは先程…… 魔物を消した!?」
「お爺ちゃん、私を信じて♪」
笑顔を向けるレシア
「あの……」
何度も不安を口にする老人
「大丈夫♪」
何度も安心を伝えるレシア
彼女はそのゲートを更に広げ、その中にポポンを包ませた
体がすっぽりと埋まった頃、後ろに伏礼をしている集落民がまたもやざわめき出した
それでもレシアは笑顔を崩さない
その表情に癒やされたのか……
それとも何かしらの必死さを感じたのか……
集落民は皆が膝を着き、地に手を着け……
顔だけ上げて、言葉を発さず……
その姿を、光景を凝視する
その数秒後、その紫色の穴は縮んだ
全くその場から姿を消した時、見慣れた人影がソコに姿を現した
集落長、ポポンだった
少し前と変わらぬ姿の老人
ゆっくりと深呼吸をした老人は自身の変化を如実に感じていた
その表情は……
目を見開き、驚きが見える
「ん…… こ、これは……?」
少しの震えを声に混ぜた老人
「どうかなさいましたか!?」
背後の集落民が心配を織り交ぜた声を掛ける
「いや…… 体が…… 治っている……」
「は?」
「咳が出ない…… 息切れがしない…… 体が…… とても…… 軽い!!」
「何を仰っているのです!?」
その民の声には振り向きもせず、老人はレシアを見る
何かに気付いたかの様な表情
その顔のまま、老人は言った
「絶対神ノア様の…… お孫様…… 貴女様が……」
「長老?」
「貴女様が…… このような所でお目に掛かれるとは…… なんと有難い……」
そう言ったポポンは手を合わせ……
何度もずっと拝んでいた
レシアに神々しさを感じたのだろうか
それとも、畏れか……
神に祈る様な……
感謝を絶えず向けるような……
そんな光景を目の当たりにする
その老人の姿を見ていた民が声を掛けた
「ち、長老…… どういう事です……?」
拝む手を今尚、擦り合わせる老人は
「奇蹟の女神…… レシア様……」
と、そう呟いた




