5、とある家族との出会い。(drei)
今回は短いです
「あぁ、そーいやー少年。どこから来たんだ?」
楓さんはハンドルを握り、前を向いたまま僕に語り掛けた。
現在、僕たちは少し小さめの四人乗りの車に乗り運ばれていた。運転席には楓さん、助手席にはたくやくん、後部座席に僕といった配置で。視界が時折派手に波打ち、その勢いで頭部を低い天井にぶつける。
「佐々波の方から来ました、っともうちょっと運転を」
台詞を僕が吐いている最中、これまた派手にカーブを曲がり体が座席右方へと強引に引っ張られた。車体後部座席の右方ドアとなかよく鈍い音を奏でる羽目になった。
「っあ、悪い」バックミラーで目が合った楓さんは朗らかに頬を緩ませつつそういった。いや、心にも思ってませんよね?
「まぁ、まぁ。そんな目で見るなよ少年。ほら、シートベルトの大事さって奴が身に染みてわかったろ? 車に乗ったら後部座席でもシートベルト、安全第一。な! たくや!」
「うん!」
いや……安全第一とかいうならもう少しスピードを落としてほしい。これは切に、さっきから車内後部座席で縦横無尽に飛んで行っているこの状況に、正直目的地まで体がもつ気がしない。
また大きく、衝撃のままに今度は左方へ体が転がる。こんな状況にたくやくんは無事なのだろうかと顔を上げ前の助手席を見ると、まるで遊園地のちょっと動作が過激なアトラクションにでも乗っているかのようなテンションで楓さんと笑顔で意思疎通中……。なれているのだろうか?
「そういや、佐々波だっけ? なんでそんな遠くから来ようと思ったんだ? 300キロくらいなかったっけ?」
ホント、会ってまだ三日なんだ……。お互いに何も知らないし何も教えてない。少しだけ寂しさを覚えつつ、でも自分の事を聞いてくれる存在に少し安堵が浮かんだ。
「そんなに遠くないですよ、精々200ちょっとです」
大して遠くなかった……わけではないけれど。でもたった200キロ歩いただけで人に出会えるとも思ってなかった。ましてや助けられるとも、一緒にこうやって桜を見に行くことだって、こんなに人を感じられるとは思っていなかった。そう考えれば二百キロなんてそうたいしたことない距離に思えてしまえた。
「そうか……」と楓さんは小さく相槌を打った後、「移動の足は? あの場所に置いてるならあそこに途中で寄るけど?」
「いえ、歩いて来たので別に大丈夫ですよ」
「は?」
「え?」
「歩いて来た?」
「あ、はい。いやだって、免許持ってないですし」
楓さんに大きく一笑いされてしまった。
「免許なんてもう持ってなくったって困らないだろう? 無免で乗ったってそれを咎める人なんてもう残ってないんだから、あれかねー最近の若いのは盗んだバイクで走りださないのかね? バイクとか町に行けばその辺に腐るほど放置されてただろ?」
「まぁ……それはそうなんですけどね」
ただ、見落としてしまうのが怖かったんです。少しでも早く、誰かに会いたかったんです。孤独をどうにかして壊してほしかったんです……。とは、敢えて言わなかった。
少しだけ、孤独に急かされるようにただ歩いて回った日々を思い出した。少しだけ下を向きため息をこぼす。そんな僕の心情を一ミリもくみ取ってくれずに車は急停車し、助手席の背もたれ裏にまた鈍い接触音を立てた。
「ほら着いたぞ、たくや。少年。」
楓さんは僕らを促しそれに各々呼応し、車から降りて背筋を伸ばす。すると清々しい歪な音が解放感を表すように空気を揺らした。
「この丘の先にある景色を見れば、きっと息を呑む」