40.準備が完了した
遅くなり申し訳ありません。
千葉中級ダンジョンを攻略して手に入れたアイテム「ストール(中級)」。
このアイテムは羽織るとストール内を任意の温度に保つ機能があることに加え、なんと匂いを遮断する機能までもあるのだ。
残念なことに「ストール」の内側のみの効果であるが、体全体が隠れるように屈んで頭から羽織ると、嗅覚の優れた動物でも途中から跡を追うことが出来なかったという優れもの。
もちろん検証はIDCだ。
この匂い遮断機能はモンスターにも有効だったようで、嗅覚の鋭いモンスターの死角から近づいた時気づかれることがなかったそうだ。
これを読んだ時になんて近くに良いアイテムがあったのかと歓喜したものだ。
下松中級ダンジョンのボス鮫がどうかはわからないけど、ネット情報だとサメは匂いを元に餌を探したりもするって書いてあったのを見つけて、もしかしたらこの「ストール」が使えるのではないかと、先に千葉中級ダンジョンを攻略して手に入れた次第。
上手くいけば、別の筏に大きな餌を乗せて、そっちに気が逸れている間に攻撃を仕掛けるなんて出来ないかなって安直な考えを巡らせたり、海に潜ってしまわれると攻撃ができなくなるから、油断した隙に大きな投網のようなもので動きを封じるなんてことも考えた。
「そうだ、投網だ!」なんて閃いたと思ったけど、素人が投網を簡単に扱えるわけがない。
そもそもどこで購入できるのかも知らない。
これまた森田さんに相談したら、人を紹介してくれることになった。
森田さんが紹介してくれた方はとても気さくで素敵な女性の漁師さん。
わかりやすくコツを教えてくれて、二、三時間も練習すると、様になるようになってきた。
初めは重くて全然広がらなかったのに、コツを掴み上手く広がって投げられた時は感動したね。
ついでと言ってはなんだが、漁師のお姉さんに相談をして、いい投網の購入もできた。
これがうまくモンスターにかかれば最高。
ぶっつけ本番でどこまでできるかわからないけど、投網がうまくいけば、モンスターの動きを阻害して結構攻撃しやすくなるだろう。
そんなこんな、下松中級ダンジョンボス攻略のために準備を進め、ようやく道筋が見えてきたと思い、色々相談に乗ってくれた森田さんにこんな感じで挑みますと報告をしにIDC日本支部本社へやってきた。
「かしこまりました。では、下松中級ダンジョン担当者に餌となる海産物を依頼しておきますので、挑戦日の三日前までにご連絡をいただけますでしょうか」
「三日前ですね、わかりました。いつも色々ありがとうございます、森田さん」
「とんでもない。月姫さんの発想はこちらも参考にさせていただいておりますから」
「いやいや私考えてないですよ、何も。筏は朔太郎さんですし、「ストール(中)」はたまたま良いなと思っただけですし、投網は動画で投げてる人がいて……」
そう、私が考え出したことなど何もない。
ただ良いなと思ったものを組み合わせてやってみようと思っただけ。
上手くいくかはこれからだから、上手くいくことを願っててほしい。
「いえ、相談いただくことがこちらとしてもありがたいです。挑戦終了後の報告はありますが、それにも色々ありまして……そして、事前に相談ということはあまりないのです」
森田さん曰く、攻略出来ての報告だと皆饒舌になるが、攻略できず、敗れてライフを削って戻ってきた場合口数が少なくなるらしい。
そうか、義務ではないから負けた挑戦は言葉を濁すのかなんて納得してしまい、私も負けたら……とちょっと挑戦する前からネガティブになってしまった。
IDC所属《挑戦者》の義務は、未発見ルートの報告と違法行為者の報告。
基本それ以外は普通の《挑戦者》とほぼ一緒で自由だ。
だからか、独自で調べて挑戦してしまう人が多く、事前にIDC担当者へ相談する人は稀なんだとか。
それこそ挑戦前に相談してもらえていたら、ライフオーバーにならずに済んだ人も一人や二人ではないと悲しげに言った。
IDC所属になるには結構な実力者でないとダメだと弟が言っていた。
良くも悪くもこのIDC所属といことが影響しているような気もする。
みなさん自分の腕に自信があるだろうし。
ま、勝手な憶測だけど、少なくとも私は一人でなんでも解決できる自信はない。
調べるにも限界があるし、もう完全に森田さんに頼り切っている。
そして、これからも頼りにさせてもらいますと宣言しておいた。
とても厚かましいかもしれないが、もちろんIDCへの協力も惜しまない。
そんな話が逸れながらも森田さんに下松ボス挑戦を応援してもらい、挑戦日が決まったら報告しますとその場を後にした。
そして自宅に帰宅し、父と母にまたしばらくダンジョンに篭ってくると伝え、山口県へと飛び立った。
♢ ♢ ♢
山口県へ到着した日に森田さんへ連絡した。三日後にダンジョン攻略へ行くと。
そうしてダンジョン漬けだった日々から少し解放されゆっくりした三日を過ごし、下松中級ダンジョンにやってきた。
受付の女性にPNカードを提示し、IDC所属であることと担当者から連絡がないかと尋ねると、IDC出張所の横に併設された倉庫へ案内された。
そしてその倉庫の中を見て顎が外れるかと思った。
「いかがでしょうか?」
受付の女性は得意げな顔でそういうが、こちらは困った。
なんと広い倉庫の一角に魚屋ができているではないか。
しかも鮮魚に詳しそうな専任スタッフすらいる。
「……すごい量ですね。ありがたいんですが、流石にこれ全ては購入できないです……」
流石にまるまる一店舗分となると全部は無理だ。
買えないこともないが、消費することが難しい。
アイテムボックスだって時間経過があるのだから入れっぱなしなんてできない。
今回の攻略でどのくらい使用するかわからないけど、モンスターが大きいから基本大物の魚を購入しようと思っていた。
しかし、小物の魚もずらっと並んでいるではないか。イクラとかたらことか魚卵まで。
魚卵好きだから買っていこうかななんて思っちゃったじゃん。
「もちろん全て購入をとは申しません。何がご希望に沿うか判断しかねましたので、一通り揃えました。今回購入に至らなかった品はこの後臨時で倉庫を開放し、販売しますので問題ありませんよ」
「よかった……」
そんな衝撃を受けた魚屋さんで、マグロ、カツオ、かに、いか、伊勢海老、なんかの大きい個体をまるまると、アジ、さば、イワシなんかの中型をそれぞれ複数、いくら、明太子なんかは私の好みで購入した。
全てひっくるめるとえらい金額がいってしまったが、背に腹は変えられない。
食材が無駄になってしまうかもしれないが、極力最小限にとどめるように頑張ろう。
大型のサメはマグロとか好むっぽいし、まずはマグロとカツオだなとアイテムボックスにしまいながら考えていた。
「では、残りはこちらで引き取ります。このまま向かわれますか?」
「あ、このままちょっとここをお借りしてもいいですか?」
「構いませんがいかがしました?」
「今いただいた魚たちを筏に括り付けようかと」
「ああ」と納得してくれた受付の女性は快く場所を貸してくれた。
終了したらまた声をかけてくれと言って彼女は倉庫を出ていった。
早速、筏を一台アイテムボックスから取り出す。
そしてその中央に行き、まずは一抱えほどもある大きなマグロの赤みをアイテムボックスから取り出し置く。
簡単ではあるが、紐でマグロを筏に巻き付けて一つ目の筏は終了。
とりあえずアイテムボックスに入るか確認してみると、一体化してると判断されたのかちゃんと収納できた。
ちょっと、いやかなり雑な巻き付け方だけど大丈夫だったようだから、同じ要領でカツオの筏も作る。
アジなどの中型の魚は、釣りの糸に針がいくつかついてる仕掛けのものを使って括り付けた。
イカやタコ、カニはちょっと思いつかなかったから一旦保留。
三つ餌つきの筏を作ればひとまずは良いだろう。筏全部で五個しかないし。
モンスターに壊されないと良いけど……無理だろうなぁ。
「お待たせしました、準備終わりました。」
また受付に行き、先ほど担当してくれた女性に完了の報告をした。
「ご報告ありがとうございます、それではお気をつけていってらっしゃいませ」
今度はドヤ顔でない、優しい笑顔で受付の女性は見送ってくれた。
さあ、気合い入れて攻略するぞ!
更新をお待ちくださった方、お読みくださった方、ありがとうございます!
なのに、話が進まず短く……
また更新遅くなると思いますが、細々と書けたらなと思います。
引き続きよろしくお願いします!




