39.油断して落ち込んだ
また短めです。
「脱出する!」
中級ダンジョンを初めて攻略して、「コンパクトウォーターサーバー」を手に入れて浮かれていたかもしれない。
下松中級ダンジョンを攻略する前にレベルを50にしようと、千葉中級ダンジョンに入って二日目。
モンスターと戦っていたら、足に攻撃を受けて焦って危うく負けるところだった。
攻撃を受けたモンスターは十五階層のポイズンジャガー。爪に麻痺毒があるモンスターだ。
なんとか腰に用意しておいた解毒ポーションを煽り、痛みに耐え、モンスターを倒してすぐ脱出の言葉を発した。
脱出後、初級ポーションを一本飲み、一本を傷口にかけ、傷を治した。
初級のポーションでも二本使用すればある程度の傷も癒せる。
ポイズンジャガーは初めて戦ったモンスターでもない、気を抜かなければ攻撃を受けることはなかったはずだ。
やはり浮かれていたんだろう。
舐めてかかっていた自分に気づき、めちゃくちゃ落ち込んだ。
もちろん死ぬわけではないとわかってはいる。でも、致命傷を受けると言うことはほぼ死を意味するのではないだろうか?
弟が船橋中級ダンジョンで一度ライフを削られてトラウマになったと言っていた意味が、今ようやくわかった。
私は上級ダンジョンのドラゴン戦をもう忘れてしまったのか。
あの死んだと思った恐怖を。あの転んだ時の痛みを。
ここまで上手くいきすぎて、あの記憶が薄れてしまっていたんだろう。
確かにあの時はあまりに色々ありすぎて現実感がなかったということもあるが、もう一度気を引き締めよう。
こんなんでは下松中級ダンジョンのサメには勝てっこない。
反省も込めて、少しダンジョン挑戦を休憩することにした。まあ落ち込んだ方がメインでの休息に近いか。
森田さんにお願いした筏ももう少し作成に時間がかかるし、他の《挑戦者》の動画を見て研究しようと休む言い訳を考える。
動画視聴ランキングの上位には上級ダンジョン攻略者の朔太郎さんは必ずいる。
でも、朔太郎さんの戦闘はいつも一瞬で、真似できるものではない。見る分にはかっこいいし素晴らしいと思うのだが、参考にとなるとなかなか難しいところだ。
そこで、他の下松中級ダンジョン攻略の動画を探してみるが、挑戦している動画は見つかる。
だが、攻略された動画がみつからない。やはり攻略が難しいボスなんだ。
それに動画を見ていると筏とかでなく、皆船で挑んでいる。
クルーザーなんてどうやって持ち込んだって言うくらいでかいのもあったけど、最終的にクルーザーは粉々になってしまっていた。
スピードは早かったのにサメの動きに翻弄されてダメだったようだ。
一つ役に立つ情報は餌で釣っていた動画だ。
だが、持ち込んだ餌の大きさが小さかったためか、一瞬興味をひいた程度でその後《挑戦者》にマトを絞って襲いかかっていた。
それなりの大きさの餌でないと食いつかないという補足もあり、これはいけるかもしれないと思った。
私のアイテムボックスであれば大きい餌となるものも入るだろう。
あとはどんな餌であれば食いつくか。
その餌に何か毒的なものを仕込めないかなど考えた。
しかし、餌に毒を仕込んでみたって動画もあったけど、それには食いついていなかった。
何か察知する器官でもあるのだろうか?モンスターだから普通のサメとは生態が違い毒とかに敏感なのかもしれない。
でも、他の餌に食いついて油断しているところを狙うのはありだ。
まだ筏はできていないけど、森田さんに相談連絡をしてみた。
そうしたら、筏を引き渡すときに相談に乗ってくれると言うことになった。
しばらくして筏の準備ができたと森田さんから連絡があった。
この間私はダンジョンに挑戦せず、《挑戦者》の動画ばかり見ていた。
ダラダラしていたといえばそうだが、動画で《挑戦者》が頑張っている姿を見たら落ち込んだ気持ちもおさまり、やる気が出てきたのだ。
動画の《挑戦者》たちは、モンスターに負けても何度も挑んでいた。
それこそライフオーバーになる人も。
怖いと言っていたのに、それでも果敢に挑戦していた。
生活のため、人類のため、挑戦するのに理由は色々あるだろうけど、負けても挑む勇気はすごいと思う。
たかだかモンスターに少し傷をおわされて、負けそうになったくらいで落ち込んでいた自分が恥ずかしくなったと同時に、私もまた挑戦したいと言う気持ちが強くなった。
昔からそうだが、映画とか漫画とかにすぐ感化されると両親からはよく言われたものだ。
筏引渡しの日。
IDC日本支部本社の横にある大きな倉庫に呼び出された。
倉庫の前に森田さんがいて「こちらです」と奥に案内され、水泳の練習場、プールのような場所についた。
プールサイドにはシートで覆われた大きなものが置かれており、プールの中には私が思い描いていた通りの筏が浮かんでいる。
「こちらがご依頼の筏です。いかがでしょうか?」
「想像通り……完璧ですね。乗ってみてもいいですか?」
「ええ。念の為ライフジャケットをご着用ください」
と言われ、ベストタイプのライフジャケットを渡されたので着用し、筏に恐る恐る乗ってみた。
「うわー、すごい安定していますね。思った以上に広いし」
「はい、制作部も力作であると太鼓判を押しておりました」
浮部分もしっかり固定されていて、安定して筏の上で動けた。
これならなんとかなるかもしれない。
「そして、こちらが残り四つですね」
と、プールサイドに置かれていたシートを森田さんが外すと、二つずつ積み上げられた筏がそこにあった。
「ありがとうございます」とお礼を言いながらアイテムボックスに一つずつしまう。
プールに浮かんでいる筏も回収し、ライフジャケットも返却した。
「では、ご精算と餌に関してのお話は場所を変えましょうか」
いつもの応接室のような部屋に案内され、まずは筏の清算だ。
五つで70万円であると、当初より少し安く提示された。
相場はわからないけど、安すぎないですか?と聞いてみたら問題ないと返答だったので、その金額で精算。
まとめて購入してくれたし、これで私が攻略に成功すれば同じような依頼が増えるかもしれないので大丈夫と言うことらしいが、変にプレッシャーがかかってきた。
これで失敗したらどうしよう……
「サメが好みそうな餌ですが____」
話題は変わり、餌の話になる。
森田さん曰く、甲殻類やイカ、タコなんか食いつく可能性があるらしいが、モンスターにも効果的なのかわからないので、魚類も含め数種類準備することを提案された。
なので、思いつく限り大きめのマグロとカツオ、あとは普通に食いつくと予想されるイカ、タコ、カニ、エビの大きいものを用意してもらえるかお願いをした。
用意は問題ないが、いつ引き渡すかという話になる。
私のアイテムボックスは時間経過が通常の二十分の一だ。
それでも経過はするからずっと生鮮食品を入れたままとはいかない。
餌を購入したらできるだけ早く攻略に進む必要がある。
なので、森田さんにはレベル50になったら攻略に乗り出しますと伝えたので、その時に用意をしてもらうことになった。
そして、私はまたレベル上げのためダンジョン挑戦を再開した。
【最下層ボス・ストーングリズリーヲ撃破シマシタ】
【千葉中級ダンジョン初回クリア報酬、金トストール(中)ヲ獲得シマシタ】
【千葉中級ダンジョン通常クリア報酬、解毒ポーション(中)ヲ五本獲得シマシタ】
父と母も日本一周旅行から帰ってきてダンジョン籠りを再開し、なんとか油断せず戦い、レベル50になったのは筏作成依頼から二ヶ月近く経った頃だった。
そして下松中級ダンジョンより先に千葉中級ダンジョンを攻略した。
このアイテム「ストール(中級)」はきっと下松中級ダンジョンで役に立ってくれるだろう。
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