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アイテムが欲しい、ただそれだけ  作者: 秋海棠


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26.救われた

今回いじめの描写が含まれます。


 よっちゃんからの電話は、事故の被害者が息子の平太と娘の小夏であるというものだった。

 

「ちょ、え? でもよっちゃん神奈川じゃ……いや、それよりいまどこ!? 私はどこに行けばいいの?」


『っ!……月姫、ありがっ、とう。◯大学病院の救急に運ばれて、今手術中で……』


「わかった。◯大病院ね。今からすぐ行く」


 『ありがとっ』と聞こえて、電話を切る。


 急いで自宅に戻る。


「お父さん!車すぐ出して!」


「ん? 何があった?」


「さっきのニュースの事故、よっちゃんちの子の事だったの!今から◯大病院に行って欲しいの!」


「なんだって……わかった」


 父は戸惑いながらも車を出してくれた。

 でも、何故神奈川にいるはずの……あ、春休みだ。

 それで実家に帰ってきてたのか。

 それにしても、車が遅く感じる。

 渋滞しているわけでもないのに。

 赤信号がこんなにも恨めしく感じるなんてこれが初めてだ。

 私は早く進めとイライラしてるけど、父は冷静に安全運転で進む。

 実家から病院までは近い。それなのにやけに遠く感じる。

 間に合わなかったらどうしようとか、あと一分早かったらとかあったらなんて、悪い事ばかり考えてしまう。

 普通に進めば車で15分もかからない。

 その15分が長くてしょうがない。


「月姫、落ち着け、お前が今焦ってもどうにもならん」


「わかってる、わかってるけど、焦るんだよ!」


 イライラをぶつけてしまった。

 犯人以外は誰も悪くないのに。


 気持ち的に長い道を行き、病院に着く。

 まだ大丈夫だろうか。


「お父さん、ごめん、ありがとう」


「いいんだ、早く行ってこい」


「うん」


 病院に着いたが、どこへ行けばいいかわからない。

 でも、救急車が止まっている場所はわかったからそこへ向かう。

 裏口だったけど、受付があったから今運ばれてきた四谷平太と小夏の知人ですと伝えると来ていないと言われてしまった。

 焦って旧姓で伝えてしまって、慌ててもう一度田島平太と小夏の知人ですと伝え直したら、私の名前を聞かれて少しお待ちくださいと言われた。

 暫くして走ってこちらに向かってくるよっちゃん。


「よっちゃん! 平ちゃんとこなっちゃんは!?」


「つ、つき……一命は取り留めたらしいんだけど……まだ意識が、戻らないって」


「良かった、一命取り留めて……ほらっ!これ早く持って行って二人に!」


「……ご、ごめん、たよっちゃって……」


「良いの! 早く!」


 私は上級ポーション2つをよっちゃんに押し付けて、治療室方面に向きを変えさせて背中を押した。

 よっちゃんは小声でありがとうと言って、来た通路を戻って行った。


 よっちゃんは私に上級ポーションをくれとは言ってない。

 私が勝手に来て勝手に渡したものだ。


 でも、この間飲んだ時にこの話はしていた。

 命の恩人であるよっちゃんやさえ、どっちーに何かあったら嫌だからポーションをもらって欲しいと。

 でも、その時みんなに断られた。

 あまりにも高価すぎるし、気持ちが重いわ!って怒られて。

 だから、じゃあ、何かあったら必ず言ってねと伝えていた。

 まさか、こんなに早く使う時が来るとは誰も思っていなかっただろうけど。


 「はぁ……」と言ってその場で膝から崩れ落ちた。

 足はまだ震えている。

 まだわからないけど、取り敢えずポーションを渡せて良かった。きっと、怪我なら上級ポーションで治るはずだ。

 そう信じて待つしかない。


 何とか立ち上がるまで持ち直し、椅子に座る。

 待っている間がとても長い。


 どのくらい経っただろうか。

 十分? 三十分? いやまだ五分くらいしか経っていないかもしれない。


「月姫!ありがとう!ありがとう!」


「よっちゃん」


 大声を出して勢いよくよっちゃんが走って抱きついて来た。

 

「よっちゃん、ここ病院」


「良いじゃない!一大事だったんだから、死に、死にかけ、うわぁーん!」


「お、おお、どうしよ。よしよし、もう大丈夫なんでしょ?」


 まさかのギャン泣きで焦った。


「うっ、うん、もう大丈夫だろうって」


「はあ……本当に良かった。間に合わなかったらって心配……っ」


 私も泣き出してしまったものだから、カオスと化してしまった。



 良い大人二人が夜の病院で大泣き。

 恥ずかしいも何もないけど、受付の人や看護師さん、お医者さん達にはとても迷惑だろう。

 なんとか深呼吸して、落ち着く。


「旦那さんは?」


「実は、上級ダンジョンのIDCに上級ポーションがないか聞きに行ったの。中級で効果がなくて……」


「え、もしかして、気にして?」


「……」


 下を向いて答えないよっちゃん。


 上級ポーションなんてなかなか手に入らないと私ですら知っている。

 そもそも出回っていない。相場は15万ドルと聞いているがそれもきっとオークションとかでの値段だ。

 そう簡単に買える代物ではないのに聞きに行かせた?

 前回の飲み会の時、私が上級攻略者であると旦那さんにも誰にも言わないと言っていた。

 だからだろうか?

 いや、もしかしたら自分たちでなんとかしたかったのかもしれない。

 よっちゃんは責任感が強いから。


「……旦那さんには連絡したの?」


「あ、まだだ!」


 そう言って、電話をかけ始めた。

 この場所は通話可能な場所っぽい。


 旦那さんの取り乱す声が電話越しに聞こえてくる。

 どうやら子供たちの容態が悪い方にいったと言う風に勘違いしてしまったようだ。

 よっちゃんが落ち着けと嗜め、奇跡が起きて完治したから帰ってこいと伝えると、なぜか怒り出す声が聞こえた。

 冗談を言っている場合じゃないんだとかなんとか?

 いや、なぜここで冗談を?と思ったが、さっきまで重体で手術中だったのにいきなり完治なんて言われても理解できないだろう。

 良いから取り敢えず容態は大丈夫だから戻ってこいと何度も言って電話を切っていた。


「お疲れ……」


「あ、うん。聞こえてたよねごめん、旦那も取り乱してて」


「いや、普通完治なんて言われてもねぇ? 信じられないよね」


 旦那さんの取り乱した声を聞いたらなんだか冷静になれた。

 よっちゃんから詳しく話を聞くと、春休みでちょうど実家に帰省をしていて、犬の散歩をしに旦那さんと平太と小夏の三人で出たら事故に巻き込まれたらしい。

 横断歩道はもちろん青。

 ひき逃げした車の車種とナンバーは旦那さんがしっかり覚えていたし、他にも近くに目撃者がいて皆助けてくれたらしい。

 あとは捕まるのを待つばかりだそうだ。

 

 問題だったのは小夏を庇って重傷の平太。

 治療がうまくいっても下半身付随になる可能性があるとまで言われたらしい。

 だけど、上級ポーションのおかげで立ち上がれるようにもなっているし、あとは精密検査をして問題なければ退院できるとのことだった。

 今は二人とも念入りに検査をしてもらっている最中らしい。


 本当に間に合って良かった。

 犬も近くにいた人が保護してくれていて無事だとおばさんから連絡があったようだ。

 おばさん、おじさんもついてきたかったけど、救急車に乗れる人数も限られているし、警察の対応もあったから残ってくれたらしい。

 もちろん、二人が無事であることは伝えずみだ。

 電話越しに泣きじゃくるおばさんの声が聞こえて、またもらい泣きしそうになった。


「月姫、わたしこれ、何で返したら良いかわからない。旦那に買いに行かせたけど……でも、一生かけて返すから!」

 

「いや、よっちゃん何言ってんの? いらんから」


「そういうわけにいかない! あんな高価な……二本も」


「うん、まあ確かに高価だけど、平ちゃんとこなっちゃんのためならいらん。罪悪感があるなら、私の命の恩人なんだからそれでチャラね!」


「命の恩人って言うけど、私そんなつもりないよ? 当然のことしたまでだし」


「それが嬉しかったし、私も当たり前のことをしたまでだよ? だから今回のことは気にしないで。他の二人に何かあっても同じようにしたんだから」


 実は、高校一年生の時にひどいいじめにあっていた私。

 今思い出しても陰湿で最悪なもので、それこそ死を決意するくらいに。

 でもそれを掬い上げてくれたのが幼馴染三人だった。

 よっちゃんとさえとは高校は別、どっちーと一緒であったがクラスが別だったため、相談することも出来ず、追い詰められて行った。

 でも初めにどっちーが気づいてくれて、よっちゃんとさえに相談してくれた。

 そうしたら大変。

 高校生の頃荒れていてヤンチャだったよっちゃんが私の高校で大暴れ、危うく事件沙汰になるところをいじめが発覚したことにより謹慎で済ませてもらえた。

 大暴れしているよっちゃんを見たらなんだか笑えてきて、いつの間にか死のうなんて思わなくなっていた。

 本当にあの時救われたんだ。あれがなかったら今頃どうなっていたか……

 だから今回のことは本当に気にしないで欲しいんだ。


「月姫……ありがとう」


「うん。でも、よっちゃんこれからが大変でしょう?」


 そう、よっちゃんはこれからが大変かもしれないんだ。

 警察の事情聴取に、報道陣とか押し寄せて来そうだし。そんなことを話していたらやはり警察が来た。

 旦那さんもそろそろ戻ってくるだろうし、私は邪魔だから、帰ることにした。

 さえとどっちーに連絡して良いかと一応聞いて、むしろバタバタして連絡できてなかったから頼むとお願いされた。


 外で車を止めて待っていてくれた父の元に戻り、何とか間に合ったことを伝えると、父も安堵していた。

 帰りの車の中で幼馴染二人に連絡していると、両者から電話の雨。

 グループ通話に切り替え、無事であったことを伝えたら安心してくれた。

 後は犯人が捕まるだけ。

 きっとそれはよっちゃんから連絡が来るから待とうという話で終話した。


 



 

お読みくださりありがとうございます。

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