25.言ってなかった
短めです。
「可動掃除機」に魅入られて何時間も過ごした翌日。
今回は航空券も日付を間違えず購入でき、昼間の便に乗って実家に帰ってこられた。
それでももう夜だ。
父と母には事前に帰る旨伝えてあり、母が夕食を作って待っていてくれた。
弟も当然のように泊まると帰ってきている。
母の味、肉じゃがを食べながら、今回のダンジョンの話をし、鳥取の素晴らしさを伝えた。
弟も先週の土日に中級ダンジョンへ行っていたらしく、三階層から五階層あたりで頑張ってレベルを上げたとか。
25だったのが、28まで上がったと喜んでいた。
まさか三つもレベルを上げてくるとは思わなかったが、レベル30までは上がりやすいんだと弟談。
仕事後にも少しダンジョンに挑戦するということを毎日のルーティンとしていたらしいが、流石に体力が持たず、ヘロヘロになったから来週からはやめると言っていた。
退職して《挑戦者》一本で行く!と言われなくて良かった。
たまに付き合ってもらうのは嬉しいのだが、仕事を辞めて毎日一緒にダンジョン生活はちょっと……月一か二週に一回か付き合ってくれないかなと打診をしてみたら、良いよと返答。
弟も弟で友人と挑戦することがあるとかでその方が良いらしい。
なんだったんだあの、「テント」をみた時の部屋をくれ口撃は。
てっきりお姉ちゃん子かと思ったら飛んだ勘違いだった。恥ずかしい。
そんな話をしながら夕食を食べ終え、家族一同手に入れたばかりの「可動掃除機」が気になっていたらしく、見せて欲しいと要望があった。
全員を「テント」に招き、「可動掃除機」をお披露目。
「へえ、音が静かだね。勝手に止まるの?」
「そうみたい」
「静かで良いわね、うちにも欲しいわー」
「……どんどん豪勢な部屋になっていくな」
母は欲しいと言い、父は久々の部屋を見て驚いている。
母はたまにお風呂を借りにきていたけど、父は初めて「テント」を出した時以来だ。
あの時はまだ何も置いてなかった。
そりゃあ、ソファやテーブルなど家具が入れば見栄えも良くなる。
「あ、お母さん、これIDCで買えるらしいけど、頼んでみる?」
「……いくらくらいするの?」
「確か、本体が6万くらいで、魔石が4つだから今だと6万4000かな。トータル12万ちょいか」
「いいわ、大丈夫。お母さん掃除頑張ります」
顔を横に振りいらないというジェスチャーをする母。
どうやら高かったようだ。
確かにロボット型掃除機でももう少し安いものは販売している。
魔石も必要だから、それなら通常の家電を購入した方がいいと思うだろう。
今度母の日に普通のロボット型掃除機でも贈ろうかな。
弟と被らないように後で相談しておこう。
「あ、そう言えば、オークションの日にち決まったのよ」
「えっ!? 俺行きたい!」
「オークションってなんだっけ?」
「ほら、前に言ったじゃん。上級ダンジョンを攻略した時に手に入れたミスリル。それのオークションだよ」
「……何億とか言ってたあれか……頭が痛いな」
父よ、まだ手に入れていないからねその億とやらは。
でも、手に入れる前から頭痛がするのはわかる。
「そう、それ。私の席は多分大丈夫だけど、陽太のは難しいかもよ、聞いてみるけど」
「お願い!行ってみたい!」
手を合わせて懇願されたって、私ではどうにも出来ない。
だから森田さんに聞いてみよう。
「ちょっと、担当さんに連絡するから待って」
「? 担当さん? オークションって担当が付くのか」
「いや、知らん。担当さんは私のIDCでの担当さんの事だよ」
「IDCでの担当? そんなの聞いたことないけど」
「あ、言ってなかったかも。私、IDC所属の《挑戦者》になりました」
「えぇー!? レベル40以上で、優良《挑戦者》しかなれないらしいってあれ!? 何で!? いつの間に!?」
「多い、多い質問が!ほら、検査とか色々してもらってたじゃん? その時に声かけられてさぁ。特に難しい縛りもなさそうだったからなった」
「なったって、簡単に言うけど……はぁ」
え、何で呆れられた?
勧誘されて、条件も大丈夫だったからなったけどダメだったのだろうか?
特に今不都合があるわけでもない。
むしろ自由にやらせてもらっているし、最新情報まで頂いている状態だ。
なんの不満もないな。
「え、ダメだったの?」
「いや、ダメとかじゃなくて、なりたい奴は多いって話。それを記憶取り戻してすぐとか(羨ましい)」
「まあ、知り合いがいたってのも大きいかもね。あんたも頑張って目指せば?」
と、上から目線。自分の意思でレベル43まで頑張ったわけでもないのに偉そうに言ってしまった。
そんな話をしながらIDC森田さんに弟の分の席が取れるか聞いてみた。
すぐさま返信があり、隣の一席であれば確保可能だそうだ。仕事が早い。
「陽太の分の席取れるって、確保してもらうね」
「やったー!!行ってみたかったんだー」
両手をあげて喜ぶ弟は子供だなと思いながら、私も初めてだから楽しみである。
森田さんに席の依頼をして、では当日にとなった。
「4月7日の13時からだから、遅刻しないようよろしくね。一応正装してきてね」
弟にも日程とドレスコードを伝え、テンションの高い弟はまたこの「テント」に泊まると言い出した。
まあ、良いけど、ベッドの掃除は自分でしてねと言っておいた。
弟はまだ「テント」の中だが、父と母はすでに実家のリビングに戻っている。
私も一度実家のリビングに戻り、オークションのことを再度告げた。
「オークションでの価格が確定したら連絡するね」
「あ、ああ。大事に使いなさい」
父はずっと引いたままだ。
母はもう呆れて何も言ってこない。
まだ「テント」には戻らず、実家のテレビで情報収集。
私の「テント」の中にテレビはあるが、電源がないからつかない。
なので結構な頻度で私は実家のリビングにいる。居候がどうのと言っておきながら甘えに甘えている。
お茶を飲みながらのんびりしていると、
【本日、午後7時頃△町にて、横断歩道を渡っていた男女2名が信号無視をした車に撥ねられる事故がありました。撥ねられた2人は現在意識不明の重体。犯人はその場から逃走し、警察は現在行方を追っています】
というニュースが流れてきた。
「え、△町ってそこの!?」
「そうかもしれないわ、なんだか外が騒がしいもの」
「テント」の中にいたから全然気づかなかったけど、外は大騒ぎみたいだ。
△町はうちからとても近い。よっちゃんちの実家がある方だ。
ちょっと嫌な予感がするな……
「よっちゃんちの方だと思う。おばさんとか心配だから見に行ってみるわ」
よっちゃんは結婚して県外に出ており、今こっちにはいない。ニュースを見ていたら心配だから見に行ってみることにした。
「……」
現場に行ってみると警察と、報道陣の数がすごい。
今は通行止めになっているけど、よっちゃんちに向かうときの道だ。
近くにいた報道陣の話に聞き耳を立てて聞いてみると、どうやら轢かれたのは10代前半の男女らしい。
よっちゃんのご両親ではなさそうだけど、10代前半の子供が轢かれるなんて、なんて痛ましい。
無事であることを願いながらも、よっちゃんのご両親も巻き込まれているかもしれないからと、近くを見回すが見当たらない。
通行止めで、よっちゃんちの方にも行けないから、帰りながらよっちゃんに電話をしようかとスマホを出したら、ちょうどよっちゃんからの着信だ。
ご両親のことを聞くチャンスだと思って電話に出ると。
『つ、つき……たす、けて。お願い』
「え? どうしたの? 事故に巻き込まれたのおばさんとおじさん!?」
『ちがうっっ。平太と小夏なの。平太と……小夏が、ううっ』
「え……」
なんで……
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