コミカライズ合冊版配信記念SS 初デート
読んでいただきありがとうございます。
コミカライズ合冊版(漫画:蜂屋すずめ先生)の先行配信記念SSです。
11/5→先行配信 11/10→全電子書店様で配信
本編最終話のその後のお話となります。
よろしくお願いします。
「リアムと二人きりでデートがしたい」
学園の卒業パーティーが無事に終わり、帰りの馬車はシリウスと二人きり。
卒業パーティーへ参加するにあたって、俺が着ているタキシードも身に着けているカフスボタンもタイピンだって、全てシリウスが俺のために用意してくれたもの。
さらに、俺の左手薬指にはシリウスの瞳と同じ紅いルビーをあしらったシルバーのリングが輝いている。
そこで、贈り物のお返しがしたいと、シリウスに欲しいものを問いかけると、返ってきた答えが俺とのデートというわけだった。
「そんなことでいいのか? 他に欲しいものとか……」
「リアムと二人きりでデートがしたい」
「…………」
さっきと一言一句違わぬセリフが返ってくる。
「リアムが卒業して、ようやく婚約も整ったんだ。これからは普通に恋人らしいことがしたい」
たしかに、在学中は講師と生徒という立場のせいで隠れて会うしかなく、シリウスが講師を退任してからの二年間は遠距離恋愛。
(まあ、今日の卒業パーティーで俺たちの関係は広まっているだろうし……)
俺とシリウスの婚約は後日に公の場で発表するつもりだった。
だが、卒業パーティーではシリウスの色を纏った俺が、シリウスにエスコートされて参加していた。
すでに婚約の噂は広まっていると考えて間違いない。
「わかったよ。デートしようか」
俺の言葉を聞いて、シリウスの顔がパァッと輝いた。
そんなシリウスの反応に、俺とのデートがそんなにも嬉しいのかと……ついニヤけてしまいそうになる。
(こうなったら最高の初デートにしてやらなきゃな!)
こうして、俺はシリウスとの初デートに向けて計画を練り始めるのだった。
◇◇◇◇◇
明日は建国記念日。
そのため、今日から三日間は王都を含む各地で記念祭が開催される。
(よし、これなら貴族には見えないよな)
自室の姿見鏡に映るのは、シンプルな白のシャツの上にチェック柄の茶色のウェストコートを重ね、同じ柄のトラウザーズを履いた俺の姿。
俺が平民のような格好をしているのには理由がある。
俺がウィリアムだった頃、シリウスと暮らしていた家の近くの街でも建国記念日を祝う祭りが開催されていた。
まあ、王都に比べればささやかなものだったが……。
(あの時のシリウス、すっごく楽しそうだったもんなぁ)
的当てゲームで競い合って大はしゃぎして、屋台の串焼き肉を嬉しそうに頬張り、エールを飲んでみたいとワガママを言ってきて……そんな幼いシリウスの姿が俺の脳裏に蘇る。
そのどれもが俺にとって今でもいい思い出だった。
だから、初デートは記念祭で屋台巡りをしようと決めたのだ。
そして、その計画を敢行するのが今日というわけだった。
身支度を終えた俺は馬車に乗って王都の南地区へ向かう。
街の中心にそびえ立つ時計台の前がシリウスとの待ち合わせ場所。
南地区は中心街とは違って平民向けのチープな屋台が多いと聞いていた。
そのため、貴族然とした服装や魔術師団の制服では周囲から浮いてしまうだろうと、シリウスにも平民らしい服装で来るように言い含めてある。
そして、時計台近くの路地裏で俺はお忍び用の馬車から降りると、歩いて待ち合わせ場所へと向かう。
(ん……?)
しかし、時計台に近付くと人集りができており、頬を染めた女性たちが一点を見つめている。
そんな女性たちの視線を追うと、輝く銀髪に紅い瞳を持つ美青年が佇んでいた。
(シリウス!?)
シリウスはシンプルな白のシャツに黒のトラウザーズという平民らしい服装。
しっかりと俺の言いつけを守ってくれている。
だが、シンプルな服装が故にシリウスの美貌を際立たせてしまうという逆転現象が起きているのだ。
舐めていた。シリウスの美貌を完全に舐めていた。
(あっ……!)
その時、シリウスを取り囲む輪の中から一人の女性が前に出る。
そして、シリウスに近付くと、上目遣いで彼の腕に自身の腕を絡め始めたのだ。
その光景を目にした瞬間、俺の胸の内にモヤモヤとした感情が湧き上がる。
「シリウス!」
気づけば、俺は声を張り上げて彼の名前を呼んでいた。
途端にシリウスはこちらに視線を寄越し、俺の姿を捉えると満面の笑みを浮かべる。
そして、女性の腕を振り払うと、人集りを掻き分けて真っ直ぐに俺のもとへ駆けてきた。
ただそれだけで、胸の内のモヤモヤがきれいさっぱり無くなってしまう。
「リアム! 会えてよかった」
「待たせちゃって、ごめん」
「俺が早く着いただけだから。それにしても、さすが建国祭は人が多いな」
「…………」
それはお前目当ての女性たちが集まっているからだよ。
なんてことを思いながら、大通りに向かって俺とシリウスは並んで歩き出す。
「まずは昼食がてら屋台で何か食べようか」
「ああ。リアムは何が食べたい?」
「そうだなぁ。串焼き肉はどう? ほら、ジレの街で祭りに参加したこと覚えてるか? シリウスが串焼きを両手に持って食べるから口の周りがドロッドロになって、俺がハンカチで拭いてやろうと……」
すると、俺の右手の甲をするりとシリウスの指が撫でる。
「もちろん覚えてる。それでリアムがハンカチを忘れて、結局は袖で拭いてくれたんだ」
シリウスは喋りながら、そのまま俺の指と自身の指を絡ませた。
(あ………)
ちらりと隣に視線を向けると、すっかり大人になったシリウスが俺を見下ろしている。
(そうだ。これはデートだった)
シリウスをリードして、思い出に残るものにしたい。
そんな初心を取り戻した俺は、張り切って屋台が並ぶ大通りに足を踏み入れる。
しかし、現実はそう上手くはいかなかったのだ……。
◇
陽がゆっくりと傾き出した頃、俺とシリウスは屋台巡りを諦め、カールソン侯爵家御用達の個室レストランに逃げ込んでいた。
理由は簡単。
どこへ行ってもシリウスに女性たちが群がり、デートどころの雰囲気ではなくなってしまうからだ。
その原因の一つが、俺たちが平民らしい格好で歩いていたこと。
学園でもシリウスは多くの女生徒に人気だったが、相手が国の英雄だということもあり、遠巻きに見つめられるくらいのものだった。
しかし、その立場を隠してしまったせいで、祭りに参加している女性たちは遠慮なくシリウスに近付いてくる。
さらに、建国祭という非日常の空間が女性たちを大胆にさせるのか、声を掛けてくるだけならまだマシで、シリウスの身体に遠慮なくベタベタと触れる者まで現れて……。
(ううっ……失敗した……)
俺は心の中で呻き声を上げる。
シリウスに近付く女性を引き剥がすのに必死で、理想のデートには程遠く……結局はレストランに逃げ込むはめになった己の不甲斐なさに泣くしかない。
「ごめんな、シリウス。せっかくの初デートだったのに……」
レストランの個室内。
テーブルを挟んだ向かいに座るシリウスへ、俺は謝罪の言葉を述べる。
「どうして謝るんだ?」
「だって、屋台もほとんど買えなかったし、逃げ回ったせいで無駄に歩かせたし、広場の劇だって結局は見れなくて……」
何一つ、俺の計画通りにはいかなかったのだ。
(こんなことなら馬車で中心街を回ったほうがよかったな)
中心街ならば屋台の食べ歩きはできなかったろうが、侯爵家の家紋入りの馬車で回れば、多くの女性に囲まれることなく建国祭を楽しめたはずだ。
しかし、俺の言葉にシリウスはなぜか笑みを浮かべる。
「俺はリアムと祭りに参加できただけで楽しかったけど?」
「シリウス……!」
彼の優しさが折れた心に沁みていく。
「なあ、せっかくだから何か飲まないか? リアムはエール? それともワイン?」
たしかに、いつまでも失敗を気にしてうじうじしていてもしょうがない。
「ああ、それじゃあ……」
そこで、これがリアムに転生して初めての飲酒になることに気がついた。
この国での飲酒は十八歳になってから。
まあ、平民の間ではそれほど守られている法律ではないが、侯爵令息である俺は飲酒することなく今日までを過ごしてきた。
(前世の俺はそれなりに酒に強かったし、一杯くらいなら大丈夫か……)
それに、屋台巡りの失敗をなんとか挽回し、少しでも初デートを楽しい思い出にしたい。
こうして、俺はシリウスとともにエールを注文し、初デートを仕切り直すべく乾杯をした。
◇
「リアム、リアム……大丈夫?」
「うーん……シリウス、ごめんなぁ」
「謝らなくていいから。ほら、水を飲んで」
「んー……」
気づけば個室の隅に置かれたソファに二人並んで座り、酒に酔った俺は隣のシリウスに寄りかかっていた。
顔も身体も熱く、頭がぼんやりとする。
どうやらリアムの身体は酒に弱かったようだ。
何から何までうまくいかず、俺は何度も謝罪の言葉を口にする。
「せっかくのデートなのに……うまくできなかったぁ。もっとうまくやるはずだったのに……ごめんなぁ」
「俺は嬉しかったけどな」
何が嬉しいのかと、俺は隣に座るシリウスを見上げる。
「リアムが俺に嫉妬してくれるとは思わなかったから」
「嫉妬ぉ?」
「俺が女に触られた時、どんな気持ちだった?」
そこで、今日の出来事が俺の頭の中でフラッシュバックする。
「そうだ……! あいつらぁ、シリウスにベタベタベタ触りやがって!」
「嫌だった?」
「当たり前だろぉ! だって、シリウスは俺のなんだぞぉ!」
自分でも思いがけない言葉が口から飛び出した。
(ああ、そっかぁ……)
見知らぬ誰かが無遠慮にシリウスに触れるたびに腹が立ったのは、妬いていたからだとようやく俺は理解する。
「俺のなのに……」
すると、シリウスの頬がみるみる紅潮し、俺の身体をぎゅっと抱きしめた。
「うん。俺はリアムのものだ。全部、全部、リアムにあげる」
「んぅ……」
あまりに強く抱きしめられ、俺は息苦しさに喘ぐ。
「だからリアムの全部も俺のものだよな?」
「全部?」
「そう。リアムの心も身体も時間も……全部」
「んー……そうだなぁ」
貰ったならお返しをしないとな……。
そんなことを考えているうちに、やがて俺の意識は心地いい闇の中へ引き摺り込まれていくのだった。
◇
(あれ……?)
目覚めると、見知らぬ天井が目に入る。
しかし、ぼんやりと見つめていると妙な感覚に囚われた。
(なんだか懐かしいな)
初めて見るのに知っている……そんな感覚。
ゆっくり起き上がると、俺は自分がベッドに寝かされていることに気がついた。
そして、辺りを見渡すと、飾り気のないシンプルな室内に既視感を覚える。
(ここって、もしかして……?)
すると、軽いノックの音がして部屋の扉が開いた。
そこに立っていたシリウスの姿を見て俺は確信する。
「シリウス! この部屋って俺たちの……」
「ははっ! 気づいた?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるシリウスに、あの頃の面影が蘇る。
それはきっと、ここが前世でシリウスとともに暮らしていた部屋とそっくりだからだ。
「じゃあ、ここは森の中……?」
「いや、師匠が死んで、俺が出ていったあとに森の家は壊されたんだ」
「え?」
「ここは俺の記憶を頼りに師匠と暮らしていた家を再現して建てた家。場所は王都だから安心して」
「なっ!?」
俺はもう一度部屋の中を見渡す。
「これを……シリウスが?」
「そう。リアムが森の家と勘違いしたってことは、ちゃんと再現できてたんだな。安心したよ」
「どうして、こんな……」
「リアムと一緒に住むために決まってるだろ?」
「ええっ!?」
扉を閉めたシリウスはゆっくりとベッドに近づく。
「ほら。ここなら今日みたいに誰にも邪魔されることはない」
「…………」
その言葉に、シリウスに纏わりつく女性たちの姿と、その時に感じた不快感が蘇った。
さらに、広さも間取りも森の家とほぼ同じらしく、使用人を雇うつもりも必要もないとシリウスは続ける。
「本当は結婚してから連れてくるつもりだったんだけど、リアムも俺と同じ気持ちなんだってわかったから……」
「え?」
「俺の全部をあげるって言ったろ? 覚えてない?」
「ええっと……言ったような言ってないような……」
混乱する俺の背中に、シリウスがそっと手を添える。
「もちろん、俺もリアムもあの頃とは立場が変わってしまったことは理解している。魔術師団の主力として遠征で家を空ける時だってあると思う。だからこそ、これから死ぬまでの時間を僅かでも無駄にしたくない。一日の始まりも終わりもリアムの側にいたいんだ」
「シリウス……」
そして、反論なんて許さないとでもいうように唇を重ねられ、そのまま俺はベッドに押し倒された。
「欲しがったのはリアムだろ? 諦めて俺の全部を貰ってくれ」
紅い瞳が獲物を捕らえるようにゆっくりと細められる。
こうして一晩中シリウスに愛された俺は、翌朝に同棲を認めるしかなくなるのだった。
※補足:シリウスは自分に女性が言い寄ってきても基本スルーです。身体を触られても無視。ただし、リアムに誰かが言い寄ってきたら過剰反応します。リアムに触れた相手を消そうとします。
読んでくださった皆様のおかげで『最強魔術師』のコミカライズ合冊版が発売となりました!
本当にありがとうございます。
めちゃくちゃ素敵なコミカライズとなっておりますので、ぜひぜひ読んでみてください☆




