コミカライズ配信記念SS 恋のお相手
読んでくださった皆様のおかげでコミカライズが決定しました!ありがとうございます!
【コミカライズ】5/7(木)講談社Palcy様にて配信開始!
※今話の時系列は25話『対峙』
リアムがヒューゴに庭園へ連れて行かれる前日のお話。
※マーガレット視点です。
よろしくお願いします。
「マーガレット。あなたに相談したいことがあるの」
そう言って、向かいに座るセリーナが真っ直ぐ私を見据える。
ここはカールソン侯爵邸の一室。
放課後、美味しいお菓子があるからとセリーナに誘われた私は、彼女の乗る馬車にホイホイ同乗し……今に至る。
(たしかにお菓子はものすごく美味しいけど)
どうやら私と二人きりで話をしたいがための方便だったらしい。
正式なお茶会となると、貴族の作法もマナーもまだまだ未熟な私には荷が重い。
だから、学園の制服のまま侯爵邸へ連れてこられたのはセリーナなりの気遣いだったのだろう。
(貴族って大変よね)
他人事のような感想だが、一応私もデシャン男爵家の令嬢である。
平民暮らしが長かったため、どうにも貴族社会に馴染めず、高位貴族の令息たちを悪意の風除けに使いながら学園生活を送ってきた。
そんな時、友人のリアムから紹介されたのが彼の姉であるセリーナ。
正直、アルバート殿下に近づく私のような存在を彼女は疎んじるだろうと思っていた。
しかし、セリーナは私を自身の派閥に受け入れ、しっかり守ってくれたのだ。
彼女の器の大きさと懐の深さに感激する私。
それ以来、私はすっかりセリーナに心酔してしまった。
「なんでもおっしゃってください。セリーナ様!」
つまり、セリーナからの相談なら全力で応える所存である。
「ありがとう。実は、リアムに好きな人ができたみたいで……」
「え? リアム……っと、リアム様に……ですか?」
うっかり以前のようにリアムを呼び捨てにしてしまい慌てて敬称を付け加える。
そんな私をセリーナの紫の瞳がじっと見つめていた。
てっきり注意されるのかと思ったが、セリーナは変わらぬ口調で言葉を続ける。
「その反応……マーガレットはリアムの相手を知っているわけじゃなさそうね」
「はい。最近はリアム様と会話をする機会も減りましたし……。セリーナ様でも相手が誰かわからないのですか?」
「ええ。リアムに聞いてもはぐらかされてしまったわ」
そう言ってセリーナは軽く溜息を吐く。
「これまでずーっとリアムはわたくしにべったりだったでしょ? だから好きな相手ができたことは素直に嬉しいの。だけど、リアムはどうにもお人好しなところがあるから……。相手は一体どんな方なのか姉として把握したいと思ったのよ」
これまでリアムに婚約者がいなかったのは「セリーナを王子妃にすることが先決」「セリーナが王子妃になるまで婚約者は作らない」とリアムが自身の父親に訴え、それが認められていたから。
重度のシスコンだと噂されるリアムらしい理由。
そのため、高位貴族からカールソン侯爵家に婚約の申し出がくることはなくなった。
しかし、野心家はどこにでもいるもの。
リアムを籠絡して婚約者の座を手に入れようと近づく下位貴族の令嬢たちを、セリーナが裏からこっそり手を回して排除していたそうだ。
(さっすがセリーナ様!)
セリーナの話を聞いた私は心の中で歓声を上げる。
いずれ王子妃となる彼女は優れた人格者でありながら冷徹さも併せ持つ。そういうところもカッコいい。
つまり、リアムの想い人がカールソン侯爵家に相応しい人物であるのかどうかをセリーナは見極めたいと思っているのだ。
「そうですよね。セリーナ様とアルバート殿下の仲睦まじさが広まりつつある今、リアム様との縁を求める令嬢は増えそうですし……」
しかし、私がそう発言すると、途端にセリーナの表情が崩れる。
「そ、そんな! 私とアルバート様が仲睦まじいだなんて……!」
「…………」
両手で頬を押さえながら耳まで真っ赤にして本気で照れているセリーナ。
また始まった……と呆れる私。
(アルバート殿下の名前を出した途端にコレなんだから)
王子妃教育を完璧にこなす淑女の見本のようなセリーナだが、アルバートのことになると瞬時に恋する乙女になってしまうのだ。
まあ、そんなところも彼女の魅力ではあると思う。
思うのだけど……。
(あんな男のどこがいいのかしら)
セリーナの愛を一身に浴びながら、それを当たり前のように受け取るだけの男。
貴族同士の婚約なのだから綺麗事だけを口にするつもりはない。
私だって高位貴族の令息たちを風除けに使っていたのだし……。
でも、真っ直ぐにアルバートを想うセリーナを見ていると、父を想い続ける愚かな母の姿をどうにも思い出してしまい、口を挟まずにはいられなかった。
報われてほしいと思ってしまったのだ。
(ほんと、厄介な男が多いわね……)
そんなことを考えながら、私はセリーナの惚気話をしばらく聞き続けるのだった。
◇◇◇
カールソン侯爵邸で相談と惚気話を聞かされた翌日、私はリアムの周辺を探ってみることにした。
セリーナの役に立ちたい気持ちと、単純にリアムの恋のお相手が気になったからである。
セリーナの話によると、社交の場ではセリーナの側にリアムがべったり張り付いているらしく、リアムが特定の令嬢に懸想している様子はなかったらしい。
(おそらく学園に通う誰か……)
さすがに学年も校舎も違う学園内ならば、セリーナがリアムの相手を把握できなくとも仕方がない。
そう考えた私は、放課後にこっそりリアムを尾行することにした。
すると、リアムは学園内に用意されたシリウス・バートランド先生の部屋の中へ入っていく。
(そういえば……)
以前、シリウスに手伝いを頼まれているとリアムが話していたことを思い出す。
一緒に手伝いたいと申し出るも、魔術を専攻している私ではダメだとリアムに断られてしまったのだ。
(バートランド先生かぁ……)
キラキラと輝く長い銀髪に、ルビーのように赤い瞳を持つ美貌の青年。
さらに、紅竜を討伐した国一番の最強魔術師という、地位と名誉とお金だけでなく容姿と実力をも持ち合わせている人物だ。
(はぁ……カッコいい……)
思わず心の内で感嘆の溜息を漏らす。
セリーナの派閥に所属し風除けを必要としなくなった今でも、シリウスが憧れと尊敬の対象であることに変わりはなかった。
(そうだ! バートランド先生なら何か知ってるかも!?)
知っていてもいなくても、シリウスとお近づきになれるきっかけになるかもしれない。
そんな少しの下心も持った私は、翌日の午後の授業をサボり、学園内のシリウスの部屋を訪ねてみる。
「あれ? いないのかな?」
数回ノックをしても何の反応もない扉。
出直そうかと考えていたその時……。
「こんなところで何をしている?」
「……っ!?」
背後から声をかけられ、私は弾かれたように振り返る。
「バートランド先生!」
なんと、いつの間にかシリウスがじっと私を見下ろしていたのだ。
「あ、あの……私、バートランド先生にお聞きしたいことがあって……!」
動揺しながらも、必死に口を動かしてシリウスに用があって会いにきたことを告げる。
「質問は授業時間内でしか受け付けていない」
しかし、私の申し出はシリウスの冷たい声によって一蹴されてしまう。
「わかったのならさっさと教室に戻れ」
さらに、私を押しのけるように自室の扉のドアノブに手をかけるシリウス。
あまりにも取り付く島のないシリウスの態度に焦った私は、少し大きな声で本題を口にする。
「違っ……授業じゃなくてリアムについて聞きたいことがあるんです!」
すると、シリウスの動きがピタリと止まった。
チャンスだとばかりに私は質問を投げかける。
「バートランド先生はリアムに授業のお手伝いを頼んでいますよね? その時にどんな話をされているのですか?」
「……それを聞いてどうする?」
「えっと、リアムは最近誰と仲がいいのか知りたくって……。好きな人がいるとか、そんな話をされたりしません?」
途端にシリウスが紅い瞳を細め、私の心臓がドキリと跳ねる。
「セリーナ嬢に繋げてやったのに、まだリアムに拘るのか?」
「え?」
意味がわからず、私はシリウスの紅い瞳を見つめる。
「リアムはお人好しだからな。知り合ったばかりの女でも助けてやりたいと自ら動こうとする。だから、セリーナ嬢に繋げるよう俺が助言したんだ」
「それって……」
つまり、シリウスのおかげで私はセリーナの派閥に所属できたということ。
(一体何のために……?)
湧き上がった疑問は、すぐに目の前の男によって解消されることになる。
「これ以上リアムの手を煩わせるな。リアムの頭の中を占めるのは俺のことだけでいい」
そう言って、シリウスは今度こそ自室に戻ってしまう。
固く閉ざされた扉の前、私は呆然と立ち尽くす。
(リアムの恋のお相手って……)
国一番の最強魔術師からの明らかな牽制と、嫉妬による静かな怒りに触れ、私は真実に辿り着いてしまったことを悟る。
それと同時に、セリーナに報告するべきか否か……私は頭を悩ませることになるのだった。




