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予想外の事態

大変長らくお休みしてしまって申し訳ありません…!

本日より毎(火)(金)の週2回、20時に完結まで定期更新いたします。連載中のコミカライズ(①~③発売中)と一緒にお楽しみいただけたら嬉しいです!


(『呪われ侯爵様の訳ありメイド』も更新再開します。あちらは明日から、毎(水)(土)21時の予定。どちらもよろしくお願いします!)




「レオ、どうしよう!」

「どうもこうもないだろ、やれる範囲で受ければいい」

「でも……」


 泣きそうな顔をするソフィアをなんとか宥めて、レオは内心で息を吐く。


(まさかここまで広まるとはな)


 大手事務所に採用が即決したヴァネッサの口コミで、ソフィアのポーズ指導とレオの撮影はモデルの間で勢いよく噂が広まった。

 モデル撮影の仕事はレオにとって副業だ。マクシムが適当に言い抜けてくれて盗撮取材に向かわなくて済んでいるが、あまり大っぴらにやっていると編集長のクレマンに見つかり、ソフィアの存在を嗅ぎつけられる。

 ラ・ガゼットは三流ゴシップ誌。マクシムはフォルジュ家の醜聞をスクープする気満々だが、奴だけならいざとなればどうにか止められる。

 だがクレマンまで話が通ってしまったら、レオの力では記事を差し止めることは不可能だ。


(とはいえ、金は必要だし……)


 マクシムも援助してくれるとはいえ、手持ちは多いに越したことはない。

 実際、撮影料とアドバイス料、それに成功報酬はかなりおいしい。ヴァネッサからのそれのおかげでソフィアの靴をもう一足買ってやれたし、調子の悪い機材を修理に出せた。フィルムも潤沢に買えて、撮影にも余裕が持てる。

 仕事が増えるのは歓迎だが、予想外の広まり具合にどうしたものかと悩んでいると、数日ぶりにマクシムが現れた。


「やあやあ、聞いてるよー。評判いいじゃない、お二人さん」

「マクシム」

「わっ、そんな睨むなって。いやほんと、ようやくレオの腕に気がついたかーって、親友の僕の鼻が高いね」

「誰が親友だ、悪友の間違いだろ」

「友達認定してるなら、付く字が『親』でも『悪』でも誤差だね!」


 相変わらずの軽口をため息でいなしていると、横からソフィアが顔を出す。


「こんにちは、マクシムさん」

「やあこんにちは。おお、ずいぶん顔色がよくなったし、その服装も板に付いたね」

「そうですか? 服は可愛いのばっかり譲っていただきましたし……顔色は、しっかり眠れているからかも。レオのごはんもおいしくて」

「動いているのもいいんじゃない? 最近、忙しくしているでしょ」

「あ、そうかも」


 指摘されて照れくさそうにソフィアが微笑む。

 あの晩、川で見つけて妙な流れでこの部屋に匿うことになってもうすぐ半月。時間にすればたったそれだけなのに、レオの元にはひっきりなしに撮影依頼が入るようになった。

 おかげで、いつかのようにやさぐれている暇が無い。


(……今だけだけどな)


 来月になればソフィアは誕生日を迎え、堂々と人前に出られるようになる。そうすればレオはお役御免だ。

 マクシムはああ言うが、モデルたちが求めているのはレオの写真よりもソフィアの指導だ。

 ソフィア未成年だしレオの従姉妹ということになっているから、身内である自分が指名されるだけ。それなら今のうちに稼いでおけという気持ちと、そんなことをしてもどうせ、という気持ちがせめぎ合っている。

 今の多忙に慣れてしまっても、ソフィアがいなくなれば元通りだ。それを忘れるわけにいかない。


ソフィアがいることによる影響はそれだけでなく、どちらかというともうひとつのほうが問題で、それにもレオは頭を悩ませていた。

 不透明な仕事の行く末よりもっと悪いことは、誰かがいる生活にすっかり慣らされてしまったことだった。


 故郷に戻ることもなく、このまま王都で大したことのない人生を終えると思っていたレオに、突然の同居人である。

 実際にソフィアと暮らしてみて、戸惑うことも多かった。独り言のつもりが、返事がきて驚いたことも少なくない。

 一人じゃないと思えば、食事だって手を抜けないし、寝る時間だってそれなりに気を使う。

 自堕落で適当な生活は強制的に改められて、絶対に耐えられないひと月だけの我慢だと思ったそれに、レオは認めたくないが、案外するっと馴染んでしまった。


 こんなはずではなかったのだが、原因のひとつはソフィアにあるだろう。

 警戒心があるのかないのか分からないソフィアは、一方で、こちらの気分を読むのが上手い。

 叔父一家に虐げられていた成果だと気づいて不愉快になったが、踏み込んでほしくないところには入ってこないおかげで必要以上に振り回されず、煩わしさを感じないで済んでいる。


(暗室にも入らないし)


 言われたことは守る性分らしく、暗室にいるレオの邪魔をすることもない。

一度だけ、籠もっているときに来客がありそっとドアを叩かれたが、その程度だ。勝手にドアを開けられたら現像途中の写真が駄目になったが、そんなことは知らないだろうソフィアは声だけ掛けてレオの反応を待った。

 そういう気遣いを自然にされて、嫌な気分になるわけがない。


 相変わらず料理は下手で包丁は触らせられないが、興味深そうに覗いてくる度に少しずつ教えていたら、茹で卵の殻を剥いたり、焦がさないでトーストを焼くことはできるようになった。

 不格好な卵に自分で手を叩いて喜んでいるのが子どもっぽいが、そこにはレオがすっかり置いてきた純真さとかが垣間見えて眩しくもある。

 そしてそんなところが、亡くなったレオの弟に重なってしまうのだ。

 カメラに興味を持ち、レオが撮った写真に目を輝かせるところなど、どうしても思い出さずにいられない。

 面倒だと思いながらも決定的に遠ざけられなかった理由の一番は、これだろう。


(……似てないのにな)


 顔も違うし年齢も、当然性別も違う。

 それでも家族のなかで一番心が近かった弟と似ている気がするだけで、強く出られない。

 それに部屋を律儀に片付けるソフィアのおかげで、レオもそこまで散らかさずに済むようになり、初めての他人との同居は予想外に快適だ。


(いや、寝る場所には問題ありだが)


 何度言い聞かせても、レオにベッドで寝るよう勧めてくるソフィアはどうかと思うが、こちらだって譲るつもりはない。

 足か頭がはみ出るソファーでも、野宿よりはずっとましだ。いつかの取材を思い出して頭を振りった。

 

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